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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/29(月)NHK音楽祭/ロリン・マゼール+アリス=紗良・オット+N響/豪華な名曲プログラムで喝采の嵐

2012年11月01日 01時21分47秒 | クラシックコンサート
NHK音楽祭 2012 第2夜
世界のマエストロ ~輝ける音楽界の至宝~


2012年10月29日(月)19:00~ NHKホール S席 1階 C5列 10番 7,600円
指 揮: ロリン・マゼール
ピアノ: アリス=紗良・オット*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 序曲「レオノーレ」第3番 ハ長調
グリーグ: ピアノ協奏曲 イ短調 作品16*
《アンコール》
 リスト: パガニーニによる大練習曲 第5番 ホ長調「狩り」*
チャイコフスキー: 交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
《アンコール》
 グリンカ: 歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲

 今年のNHK音楽祭の第2夜は、大巨匠ロリン・マゼールさんの指揮によるNHK交響楽団のコンサートである。ちょうどこのNHK音楽祭にも出演したクリスティアン・ティーレマンさんの後を受けて、ミュンヘン・フィルの音楽監督に就任したばかりのマゼールさんが登場するのも何かの縁だろうか。ゲスト・ソリストには人気のアリス=紗良・オットさん。彼女もマゼールさんとミュンヘンですでに共演しているという位置づけだ。音楽祭のホスト・オーケストラであるN響にとってはホームのNHKホールが、今日は完売。3,500名で会場が賑わった(休憩時間は男声トイレが長蛇の列。失礼)。
 今年82歳になるマゼールさんは、初来日からなんと50年になるという。最近も頻繁に来日されているようなので、けっこう身近に感じたりもするが、クラシック音楽界では巨匠中の巨匠といっていいだろう。今回の来日では、N響との初共演で、A・B・C定期公演で計6回のコンサートを指揮し、今日が7回目、驚くべき体力と元気さである。演奏にもその元気さがたっぷりと現れていた。

 1曲目はベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番。今回はマゼールさんがオーケストラ譜を持ち込むほどの入れ込みようだったとか。マゼールさんご本人はもちろん暗譜である。とはいうものの、この曲に関しては、まあ、どちらかといえば普通の演奏であったかな、と感じた。冒頭から序奏の部分ではN響の弦が少々濁って聞こえたが、これはいつの間にか修正されている。木管群が良い音をバランス良く聴かせるのはN響ならでは、だ。
 やや遅めの序奏から、ソナタ形式の提示部もやや遅めに始まり徐々にテンポを上げていく。オペラ的なワクワクするような期待感を高めていく辺りは、さすがに上手い。舞台裏のトランペットも実に上手い。ティンパニを派手に打ち鳴らし、終盤をドラマティックに盛り上げるのも、巨匠ならではの風格で、堂々たる音楽作りであった。

 2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。裸足の美人ピアニスト、アリス=紗良・オットさんの登場である。何だかんだといって今日もS席を取っているのだが、1階センターの左ブロックの右側通路寄り5列目。いわゆる鍵盤側というわけで、アリスさんをちょうど良い角度で見ることができる位置だ。ステージを飾る花がちょっと邪魔だったが、アリスさんの足元、やはり裸足である。
 さて、アリスさんのピアノは繊細な中にも大陸的なスケールの大きさを感じさせるもので、いままで何度も聴いているから余計にそう感じたのかもしれないが、NHKホールでは音が拡散してしまうのか、あまり芳しい音色とはいえなかった。もちろん、協奏曲用にかなり強く弾いているので、若干は音が荒れるのは仕方がないとしても、音質が乾いていて、響かずにすぐ消えてしまうといった印象。低音部は打楽器的な金属音が目立ち、高音部はあまり音が飛んでこない…。聞こえている音楽は素晴らしいのに、音質が興を削いでしまうのである。後で録音を聴けば、おそらくバランス良く良い音を拾っているはずなので、放送のチェックを忘れないようにしよう。
 第1楽章、ティンパニのクレシェンドからカデンツァ風に曲が始まる。もともとこの曲はピアノを大きな音でガンガン弾くような協奏曲ではない。派手な部分もあるが、むしろ北欧的な透き通った静寂が音楽で描かれているようにも思える。そういう意味では、アリスさんのピアノは弱音の静謐な美しさが素敵だ。全体的にやや遅めのテンポで、技巧的な部分よりも抒情的な表現が勝っていたかもしれない。オーケストラが主題を演奏する時、伴奏にまわったピアノの装飾的な分散和音など、特定の色に染まらない、透明な煌めきがあった。カデンツァも技巧を披露するような弾き方ではなく、あくまで抒情的に、ロマン主義的な心情表現に重きが置かれていたようである。
 第2楽章は、まず主題の提示部でN響の弦楽アンサンブルが息の長い美しい旋律をゆったりと流していく。ホルンが良い味を出していた。ピアノが入ってくると、透明感溢れる音の粒がキラキラと輝いているようだ。標題音楽ではないが、森の木々の木の葉の上の水滴が、朝日を浴びて煌めくといった印象であろうか。美しい森と湖の風景が目に浮かぶようである。極端な弱音のピアノが素敵だ。
 一転して民族音楽的な第3楽章になると、ピアノが躍動的に舞曲風に踊る。それでもテンポは速くはならず、ひとつひとつの旋律が大切に演奏されているのが分かる。この辺は、マゼールさんのサポートも素晴らしい。アリスさんとの呼吸も相性が良いようで、お互いにアイコンタクトを取りながら、フィニッシュに向けての盛り上げ方も上手い。オーケストラの方は、マゼール節がグングン出てきて、要所で十分なタメを入れて、非常にドラマティックな演奏であった。からみつくピアノもここでは超絶技巧的な煌びやかさで秀逸なら、短いカデンツァでは豪快なところも聴かせている。最終部分では大きくテンポを落とし、これでもか! とばかりに、劇的な盛り上がりをみせた。
 アリスさんのアンコールは、リストのパガニーニによる大練習曲「狩り」。オーケストラから解放されたピアノはまた別の輝きを放つ。可愛らしい主題は玉が転がるような可憐な音色で、どういう訳かここではとても素敵な音色が聞こえていた。

 後半は、チャイコフスキーの交響曲第4番。この曲についても説明は不要であろうから、演奏の印象を簡単にレビューしておきたい。
 第1楽章は冒頭の金管のファンファーレがゆったりとしたテンポで始まる。それほど派手にぶちかます訳ではない。主題部分になると、N響のアンサンブルがぐっと引き締まり、緊張感の高い演奏となった。さすがにこのホールの主だけあって、これほど響かない会場でも、素晴らしい音を作り出す。管楽器の各パートの個人技のレベルの高さと、弦楽のアンサンブルの緻密さが、クオリティの高いナマの音を聴かせてくれた。各パートが絶妙のバランスで演奏されているのも、マゼールさんの巨匠的な音楽作りが素晴らしいのと、N響の本気モードの時の素晴らしさ、ならではである。
 第2楽章は、オーボエのソロが哀愁の主題を吹いていき、チェロの受け継がれて…。緩徐楽章といっても歌曲のような美しい旋律に彩られている。N響の演奏は、ここはもう緊張感が高いにもかかわらず、意外に広いダイナミックレンジでクライマックスを盛り上げ、楽章を通じては抒情的な表現のニュアンスがとても素敵だった。
 第3楽章は、弦楽パートが弓をおいて、ピチカートのみで演奏される。N響のアンサンブルは見事で、強弱のニュアンス、旋律の歌わせ方、リズム感と曲の流れなど、どこをみても隙のない演奏であった。
 アタッカで演奏される第4楽章は、弦楽が弓を持つタイミングが難しいとか。金管が大活躍しお祭り気分になる派手な音楽に対して、N響はパンチのある演奏で応えた。もっとも、N響の演奏はちょっと真面目でお堅い印象があり、ノリノリという雰囲気ではかったかもしれないが…。それでも素晴らしい演奏には違いなく、中盤の濃厚に歌う部分からフィニッシュにかけて徐々にエネルギーが蓄積していき、終盤の全合奏の強奏に至るのに、徐々にテンポを上げて盛り上げいてき、最後にぐっと溜めて爆発させるあたりの当を得た音楽作りは、まさにマゼール節というところだろう。

 これだけの熱演を聴かせてくれた後のアンコールは、なんとグリンカの『ルスランとリュドミラ』序曲。N響もさることながら、マゼールさんの体力と元気さにBravo!である。この超高速パッセージのオーケストラ泣かせの曲を、ここでは楽しさいっぱいに、あたかも「これから音楽界が始まるぞ!」といわんばかりのノリの良い快演。これには聴衆も大喜びで、大喝采であった。

 聞き終わってみると、1回のコンサートとしては十分すぎるくらいの贅沢な内容で、おそらく今日会場に来たすべての人が大満足であったと思う。NHK音楽祭では、海外からの招聘オーケストラに比べれば、N響の日は料金が安く設定されている。定期公演の1回券とそれほど変わらないお値段で、今日のような充実した演奏会であれば、ものすごいお得感があって、正直言えばとても嬉しい。毎回の定期公演でも今日みたいな演奏をしてくれればいいのに…。

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