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スーパーコンピューターを20万円で創る

2008-04-27 08:26:34 | BOOKS

伊藤智義 「スーパーコンピューターを20万円で創る」 集英社新書 2007.06.20.

1980年代当時、100メガフロッブス以上の性能を持つコンピューターはスーパーコンピューターと呼ばれ、その導入には数十億、ときには100億円を越えた。1989年秋、1台のコンピューターが開発され、当時のスーパーコンピューターの性能に達していた。その開発費は20万円。そのコンピューターの名はGRAPE-1。素人チームの手作り計算機だった。万有引力の法則は非常にシンプルな式だが、星の数が3つ以上になると正確な答えは得られず、「解析的には解けない」。一方、コンピューターを用いることで、時間を短く刻みながら計算を続けて現象を明らかにすることが可能になった。コンピューターの登場によって、星が3つ以上ある場合も「解析的には解けない」が「数値的に計算できる」ようになった。東京大学教養学部宇宙地球科学教室の杉本大一郎教授は、1983年「重力熱力学振動」を発表。自説を立証するために、高性能なコンピューターを欲していた。この天文学者による天文学者のためのコンピューター開発に、助手の戎崎俊一、大学院生の牧野淳一郎、伊藤智義が杉本の元に集まった。GRAPE-1、GRAPE-2と完成し、開発チームの中で各自の役割が自然に分かれていった。伊藤がハードウエアの開発を任され、牧野はGRAPEを使って次々と天文学上の成果を上げていった。直接の開発作業から解放された戎崎は、GRAPEの宣伝も兼ねて、方々の研究会に出かけていっては議論を繰り返していた。杉本のもとで各自がそれぞれ躍動し始め、開発チームは急速に自己発展していく。科学計算のオリンピックに相当するゴードン・ベル賞を1995年、96年と連続して受賞すると、GRAPEの名は一躍スーパーコンピューティングの世界で知れ渡っていく。そして、1983年に世界最高速のGRAPE-4を1ヶ月稼働させ続け、杉本が提唱した通り、球状星団が「重力熱力学振動」を起こしていることが証明された。杉本が東大を退官した1997年、GRAPEプロジェクトは「日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究」に採択され、研究費は5年で11億円。GRAPEには5億5,000万円が投じられた。GRAPE-5は1998年に完成し、翌年のゴードン・ベル賞を受賞、2000年には開発途上のGRAPEI6を用いて、8度目のゴードン・ベル賞を受賞。現在でも、牧野がいる国立天文台と戎崎の理研で最新版のGRAPE開発が行われ、開発費は実に数十億円規模に膨れ上がっている。演算速度は初代の100万倍になるはずだ。