まあどうにかなるさ

日記やコラム、創作、写真などをほぼ週刊でアップしています。

帰り道

2021-08-09 19:48:34 | 怪談

仕事の食事会で遅くなり、終電近い電車に乗り込む。

吊革につかまり、混んだ列車に揺られながら、妻へこれから帰るとメールを送る。
しばらく順調に走っていた列車だったが、自宅の最寄り駅のひとつ手前の駅で止まったまま、なぜかなかなか動き出さない。
この先で人身事故があり運転を見合わせるというアナウンスがある。
SNSで検索すると、若い女性が飛び込み自殺をしたらしいとのことだった。
自宅のある駅まではたったひと駅、列車を降りて歩くことにした。

線路脇の道をとぼとぼと歩いて自宅へと向かう。
途中パトカーが止まっているのが見えた。おそらく現場の検証をしているのだろう。
やがて人気のないうす暗い街路灯が灯る住宅街を歩く。

しばらく歩くと、誰かが後ろを歩く足音がする。女性の靴のようである。
特に気にも留めず、角を曲がったときに来た方角をちらりと見る。
後ろを歩いていたはずの女性の姿はいつの間にか無くなっていた。

相変わらずうす暗い住宅街をまたしばらく行くと
ふと、すぐ後ろに誰かの気配がする。
余りにも近くに気配を感じて、驚いて振り返る。
人影はない。
立ち止まってあたりを伺うが、暗い夜道が続いているだけだ。
気のせいだと思い直して再び歩き始める。

やがて我が家のあるマンションが見えて来た。
マンションに入り、部屋を開けて中へ入ると妻が出迎えてくれた。
「ただいま」
「お帰りなさい、後ろの方だれ?」
「え?ひとりだよ」
「何言ってるの、女の人が立ってるじゃない」
見えないものの気配だけは感じることができたが、妻にはちゃんと見えているのだろうか。
「ちょっと、その人血だらけよ!」
「…」

僕は事故で亡くなった女性の霊を引き連れて帰ってきてしまったのだ。



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