まあどうにかなるさ

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父の幽霊

2019-11-10 00:26:37 | 怪談

今年何度目かの帰省で実家に戻った。その日は二人の妹と母と、久しぶりに4人揃う予定だ。
鍵を開けて家の中に入ると、死んだはずの父が居間のテーブルの奥に座っていた。

また来てる…

そう思って母に話しかける。
「お父さん、まだ自分が死んだことに気が付いてないの?」
父は死んでから間もなく2年になる。
「何も悪いことはしないけど…」
母は困ったような表情を見せる。

最初に父の幽霊を見たときは驚いたが、最近は見慣れてきた。
二人の妹も特に気にする様子もなく、座ってテレビを観ている。
母の話だと、先日父の幽霊が家の庭に現れて、隣の住人が驚いて家へ入ってしまったそうだ。
そりゃ、そうだろうな。僕は隣の住人に少し同情した。

僕も居間のテーブルの椅子に腰かけると、母が話題を変えた。
「最近、家にいたずらする人がいるの」
「どんないたずら?」
「貼り紙していくのよ」
母は毎日のように貼り紙を剥がすらしい。
質の悪いいたずらをする奴がいるもんだ。

次の日の朝、寝室の窓から、ぼんやり外を眺めると、家の門に貼り紙をする男が見えた。
スーツを着た若いサラリーマン風の男である。
とっちめてやろうと思い、家から飛び出して、男に声をかける。
「こら! 何してる!」
男は、悲鳴を上げて尻もちをついてしまう。
顔を引きつらせ、ガタガタと震えていた。
いたずらを注意されたくらいにしては、あまりの驚きようである。
「あなたこの家のご長男ですよね」男が言う。
「そうだよ、こんないたずらするなよ!」
「いたずらじゃありませんよ。僕は不動産会社の者です」
見ると、門に『売家』と書かれた貼り紙がしてあった。
「ここは母がまだ住んでる。今日は二人の妹と僕もいる」
「いい加減、自分たちが死んだことに気づいて下さいよ」
「死んだのは父だけだ」
「お父さんが死んでからしばらくして、お母さんが住んでいるこの家に娘さん二人と、あなたが帰ってきたところに強盗が入って、4人とも殺されたんですよ」
「?」
「強盗はお母さんの独り暮らしだと思って忍び込んだところにあなた方と鉢合わせして、ナイフで刺したんです」
気が付くと、家族全員が家から出てきていた。
みんな悲しそうな顔をして僕を見ている。
死んだのは父だけじゃなかったのか…



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