まあどうにかなるさ

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箱の中のインド人

2017-09-09 22:20:36 | 創作

ひとり暮らしの俺はワンルームマンションに住むサラリーマンである。
もうすぐ彼女がこの部屋へやってくる。何度かデートはしたが、部屋へ来るのは初めてだった。ふくらむ期待で表情を緩めながら部屋の掃除をして、腕によりをかけて作ったランチを用意した。そして少し高いワインを奮発した。
ピンポンとドアホンが鳴る。
てっきり彼女だと思い、目いっぱいの笑顔でドアを開けると、外に立っていたのは宅配の配達員だった。
「お届け物です」
段ボール箱が配達員の横の台車に積まれてある。
かなり大きな段ボールである。
送り主はインド在住であるらしかった。心当たりはないものの、あて先は間違いなく俺である。
配達員は重そうにダンボールを部屋に入れてくれた。サインをして、配達員が帰って行くと、しばらく大きな箱を眺めていたが、意を決して開封し始める。
驚いたことに中には器用に手足を折り曲げた男が入っていた。とても大人が入れるような大きさの箱ではない。全く動かないので、もしかしたら死んでいるのかと思ったが、男は折り曲げていた手足を水で戻したようにダンボールからむくりと起きあがったのである。俺はさらに驚いてその場にしりもちをついてしまった。
男の歳は俺と同じくらいだろうか… ターバンを頭に巻き、白い服を着ていた。
見るからにインド人のような風貌である。
「インド人ですか?」
訊ねると、男は日本語が分かるようだった。
「あなたの目にそう映るならそうですよ」
男は笑顔でそう答えると、右の掌を俺の額に軽く当てた。
何故か身動きが取れなくなった。
「交代です」
男の顔が不気味な笑顔に変わったかと思うと、ものすごい力で俺の身体を掴んできた。
抵抗したくても何故か体の自由がきかない。
男は俺の身体を無理やりに折り曲げる。体中の骨という骨がボキボキと音を立てて折れるのが分かった。俺の身体はコンパクトに折りたたまれて、段ボールの箱の中に収められた。
薄れゆく意識の中でドアホンが鳴っていた。
男が彼女を迎え入れた。
「あれ?ヒロシくんは?」俺の名前を読んでいる。
男は彼女の額に自分の掌を軽く当てながら言う。
「僕がヒロシじゃないか」
彼女の怪訝そうな顔も何故かすぐに笑顔に変わる。
「そう言われればそんな気もするわ」
やがて二人は楽しい時間を過ごし、俺はどこかに運ばれて行った。



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