大方の人はそうだろうが、清張はほとんど読んでいて、あとは読み返すだけである。
以前は面白くてたまらなかったものが、意外につまらなかったりもするものもある。
しかし、これは何度読んでも胸を打たれる。
作家となるまでの半生で、自らの結婚でさえも一行ですまし、簡潔に淡々と述べていく。
読書も、私小説は性に合わないと言っているから、自分のことをだらだら書くのは、それこそ性に合わないのだろう。
削いで、削いで、削ぎ落としたことで、かえって浮かび上がってくるものがある。
貧しかった戦前の暮らしぶりや、学歴のない者が職を得るのが、どんなに難しいかということなど。
戦後も逆境のなか大家族を守るため、いかに誠実に頑張り通したかが、行間に滲み出ている。
ひたすら家族のためにのみ働き続けるが、一方、そのことの空しさが胸を打つ。
ーー濁った暗い半生であった。
ーー私の心には星は一つも見えなかった。
作者の後半生を知っているから、こんな言葉がよけい心に残るのだろうか。
(函入り上製本、帯裏の惹句より)
最後の部分は自分のことではなく、今でも続く米軍キャンプについて詳しく書かれ、社会派と言われた筆致を感じた。
2012.12.13 より再掲
内田康夫氏を悼んでのおまけ写真。
20年くらい前かしら、本は読んだことないけれど、素敵な方だった。
両手に姥桜(含私)は、貼り付けになるのでカット!