『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ
本を読んだのが2年まえ。
読後に、近来にない衝撃を受けた作品だった。
細かいところは覚えていなかったのが幸いし、違う印象を受けても、映画そのものとしては佳い作品として観ることができた。
『日の名残り」でもそうだったように、映画になると、ロマンスに重きがおかれてしまうが、それは仕方ないのかな。
三人の男女の背景に出てくる景色の美しさが、彼らの運命の哀しさをよりせつなくさせる。終わったときは、すすり泣いている人も多く、エンドロールが終わるまで立ち上がる人はいなかった。
原作者のカズオ・イシグロは当時のテレビインタビューで、
「もし命が短かく、たとえばみんなが30歳の寿命しかなかったとしたら、金も権力も名誉もいらない。そこに残るのは記憶だけである」と語っていた。
それが、ラストシーンでは十分表されている。
それを描くために彼らの運命を一見奇異な設定にしたのは、作者にとって素材にすぎなかったのだと、あらためて思わされた。
主演のキャリー・マリガンがじつによく、淡々と真面目に自分の運命を受け容れ、それでいて愛らしさもある主人公役を見事に演じていた。
「愛の嵐」や「地獄に堕ちた勇者ども」の、あのシャーロット・ランプリングが健在で、原作どおりの雰囲気で出演。
冷たいけれど激しいまなざしもそのままだった。
これは、以前のブログからの再掲である。(2012年04月14日)
以前も取り上げたような気がするので、再々掲かも。
『日の名残り』で、土屋政雄が翻訳賞をもらったとき、翻訳をしている友人が言っていた。
「原作の文章にもよるのよ。カズオ・イシグロの文体はいいもの。ああいうの得よぉ」と。
写真は東京新聞より
カズオ・イシグロはイギリスに帰化しているが、長崎生れの日本人。翻訳といえども、どこか和風な語り口がいい。
主役のキャリー・マリガンは、レオナルド・ディカプリオ版の『華麗なるギャツビィ』にも出演。写真はネットより
日本では、キーラ・ナイトレイのほうが名が知れているのではないか。写真ネットより
日本でも、テレビドラマ化されたようだが、見る気にはなれなかった。「わたしを離さないで」の解釈の仕方も、私自身が受け取ったものと違っていた。
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