優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

あの日から 九 「あなたを忘れるわけじゃない」

2005-07-22 14:39:44 | あの日から
ユジンは“あの湖”に来ていた。

〈ジュンサン、久しぶりね。
ここへはもう何年も来てなかったわ。
春川を出て以来かしら?
ここはあの頃と変わらないわね。〉

ユジンは湖畔に生えている大きな樹を見上げた。
そしてそのごつごつとした木肌の上に手を置くと、そこに頭をもたれかけるようにして湖を眺めた。

湖面を渡る風がユジンの頬をなでてゆく。
水面(みなも)が微(かす)かに揺らぎ陽(ひ)の光をまばゆく反射させていた。


ユジンは眩しそうに目を細めると林のほうに目をやった。

人影はなくひっそりとしている。


〈ジュンサン、私サンヒョクと結婚することにしたの。
決めたの。今日はそれを言いにきた。

ごめんね。
あなた以外の人を、二度と愛したくなかったのに。

そうするつもりだったから、だから髪も切ってずっとそのまま伸ばさずにきた。

もう十年になるわ。〉


〈サンヒョクのことを愛しているのかい?〉

ユジンの瞳が揺れた。

〈サンヒョクは…、私のことを分かってくれるわ。

あなたのことをいまだに忘れられないでいることも。

それに、今まで私のことを待ち続けてくれているのよ。申し訳なくて…。


母がね、心配しているの。それはそうよね。もう私も二十八になるんだもの。

母を安心させてあげたいの。

サンヒョクなら、母も喜んでくれるわ。
私も、彼といると気持ちが落ち着くの。〉



ユジンは樹から離れると、林の中をゆっくりと歩き出した。


〈ごめんね、ジュンサン。

彼のことを愛してるって言えればあなたも想いを残すこともないのかもしれないのに。


…私、幸せになれるわよね。

サンヒョクとなら、心静かに、穏やかに暮らせると思うの。

だから…、許して。〉


〈ユジン、僕のことはもう心配しないで…。大丈夫だよ、淋しくなんかないから。
サンヒョクと幸せになるんだよ…。〉


ユジンは立ち止まると空を見上げた。

見ているとそのまま吸い込まれていきそうな、そんな抜けるような青空だった。


「ラピスラズリの青…平和を現すという

…平安の地、理想郷。

あなたはそこにいるのかしら?」


〈ジュンサン…。許してくれるのね。


幸せになれって言ってくれているのよね。ありがとう。


でも…ごめん、ほんとうにごめんなさい。

あなたを忘れるわけじゃないの。

あなたを忘れるわけじゃないから…。〉




平安を 呼ぶといわれる 瑠璃の色
      ラピスラズリの 空を見上げて


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