優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

あの日から 四 「誰も愛したくないから…」

2005-06-29 23:26:34 | あの日から
「な~にユジン、その髪!まるで子供のおかっぱ頭じゃない!」

チェリンはユジンを見るなりそう言った。
大学路(デハンノ)の喫茶店に春川高校の仲間が集まっていた。

ヨングクとサンヒョク、ジンスクはまめに会っているようだったが、ユジンも皆とは久しぶりだった。
チェリンとは大学入学以来だから半年ぶりになる。

「おい、久しぶりに会ったのにいきなりなんだよ。
まったくオ・チェリンは大学生になっても相変わらずだな。」

「だってヨングク、ユジンの髪型何なの?
服だって、もう高校生じゃないんだから、もっとおしゃれしなさいよ。
そんなんじゃ恋人もできないわよ。
ミーティング(合コン)も出たことないんでしょ、ユジン。
ははぁ、まさかあんた達まだ付き合っているわけ?よく続くわね。」
チェリンはユジンとサンヒョク、二人の顔を見比べながら言った。

「そんなんじゃないよ。
僕だってユジンに会うのは久しぶりさ。
2ヶ月ぶりかな?ユジンはいつも忙しいから、たまに誘ってもふられっぱなしさ。
それにユジンのショートカット、似合ってると思うけどな。」

「サンヒョクは相変わらずユジンなら何でもいいわけね。まあいいわ。
とにかく、愛しいユジンに久しぶりに会えたのは私のお陰ってわけね。
私が皆に声をかけたからなんだから、感謝しなさい!」

「はいはい、チェリン様、おありがとうございます。(笑)」
ヨングクが引き受けて、おどけて言った。
「しかし、お前の化粧はちょっとケバイぞ。」

チェリンは自分から皆に会いたいと声をかけただけあって、次々と皆を質問攻めにした。

「それにしても、ユジンは美大にいくと思っていたのに、ずいぶん畑違いのところに入ったものね。」

「だって、絵じゃいくら好きでもそれで食べていくのは大変じゃない?建築業界ならそんな心配はないし、趣味に生きられるような身分じゃないもの、私は。」

「あら、嫌味?ま、いいわ。
で、ヨングクはどうして獣医なんかになろうとしてるわけ?
あんたは『東洋哲学』みたいなのが好きだったでしょう?だからてっきりその方面に進むのかと思っていたのに。」

「俺はちゃんと自分の未来を自分で占ったのさ。もちろん動物が好きって言うのもあるけど。
韓国社会も裕福になってきたから、これからは絶対ペットブームになると思うんだ。俺は家畜じゃなくてペットを扱う獣医を目指すんだ。」

「へ~え、なるほどね。」

「人のことばかり聞いているけど、チェリンはどうなの?彼氏はできた?」

「私は別に文学をやりたくて仏文科に入ったんじゃないわ。フランス語とフランス文化を知るためね。
いずれ大学を卒業したら留学するつもりよ。
向こうで何を勉強するかはまだひ・み・つ。
彼氏はまだよ。
ボーイフレンドならいっぱいいるけどね。誰でもいいってわけじゃないもの。」

「サンヒョクは大学でも放送部に入ったのよね。」

「うん、僕はラジオ局を目指しているから。」

「アナウンサーになるの?」

「いや、番組を制作する側さ。」

「それにしても狭き門じゃない。大学にいっても真面目に頑張っているわけか。えらい、えらい、学級委員長殿。(笑)」


「あ~あ、皆それぞれ目指す道がもう決まっているのね。結局まだふらふらしているのは私だけか…。」

「ジンスク、まだ大学に入ったばっかりなんだから、なにも焦ることないわよ。これからゆっくり決めていけばいいじゃない。」

「ありがとう、チング(友よ)。
ねえ、そういえばユジンのルームメイト、引っ越しちゃったってほんと?」

「ええ、先輩と一緒に住んでいたんだけど、留学することになって、いったん実家に戻るって先月の末に引き払っていったわ。」

「ねえ、それじゃさ、ユジンのアパートに越していってもいいかな~?だって、寮は規則がうるさくて、食事も美味しくないし、出ようかなと思って。どお?」


「おい、ジンスク、お前アパートになんか入ったって自炊できるわけないし、ユジンが料理上手いからって食わしてもらう気か?迷惑になるだけだぞ。やめとけ。」

「ヨングクったら酷いわ。そりゃ、私は料理下手だけど、ユジンに教えてもらったりしてだんだん覚えていけばいいし、そのほかのことだって自分でちゃんとやるもの。大丈夫よ。」


「いいわよ、ジンスク。越してきなさいよ。私もどうせいつまでも一人で家賃を払っているわけにはいかないから、ルームメイトを探さなくちゃと思っていたんだもの。
ジンスクだったらお母さんも安心するわ。」

「やった!じゃ決まりね。
引越しの日が決まったら連絡するから、ヨングクとサンヒョクは手伝いに来てよね。お願いよ。

ヨングク、そんなに睨まなくても大丈夫。ちゃんと迷惑かけないようにやるから。」

窮屈な寮を出られることになって、ジンスクはご機嫌だった。


「あら、もうこんな時間。行かなくちゃ。
呼び出しておいて悪いけど、私先に失礼するわ。」

「あら、チェリン、もう帰っちゃうの?ボーイフレンドとデート?」

「まあね、そんなところ。じゃあ、またね。」


「じゃあ、俺もそろそろ帰るかな。ジンスク、一緒に途中まで行くか?」

「うん、いくいく。」

「僕達も出ようか。」

「そうね。」

「じゃあ、サンヒョク、ユジン、また連絡するよ。」


  ***

「ユジン、明日時間ある?映画でも見に行かないか?」

「ごめん、明日はバイトなの。この間休みを替わってもらったばっかりだから明日は無理だわ。
いつも断ってばかりでごめんね。」

「いいよ、しょうがないさ。理系は授業も大変だし、ユジンはバイトもしているんだから、忙しいさ。
でも、あんまり無理するなよ。

今日は会えてよかった。車でアパートまで送るよ。」

「ありがとう。でもいいわ。本屋さんに寄っていきたいから。
じゃあ、サンヒョク、またね。」


そういってユジンは小さく手を振ると商店街のほうへ歩いていってしまった。

ユジンの背中を見つめながら、サンヒョクはユジンとの間に見えない壁のようなものを感じていた。


[半年前 入学式後]

ユジンはジュンサンの肖像画を引き出しから取り出すと、話しかけるようにつぶやいた。

「ジュンサン、やっと髪を切ってきたわ。
似合わない?いいのよ。

あなたがいなくなってからずっと切りたかったの。

何故って?

ジュンサンは『ユジンの長い髪が好きだ。』って言ってくれたでしょ。

もうあなたはいないんですもの。
美しく粧(よそお)う必要なんかないじゃない。


私、あなたがいなくなってから、湖に何回も行ったわ。

ジュンサンに会いたくなると行ったの。

ひょっとして、あなたがいるかもしれないと思って。

でもいなかった…。

そうよね、あなたは影の国にいってしまったんだもの。


あなたに会いたくて、側に行きたくて、…何度湖に入ろうとしたかしら?

でもできなかった。


お母さんとヒジンが私の足を捕まえて離さないの。

だから、できなかった。


ごめんね、ジュンサン。

二人を置いていけないの。

私が守らなければいけない家族なのよ。


ジュンサン、一人で淋しい?

ごめんね、一人にして。


ジュンサンは私が側に行ける様になるまで一人で待っていてくれるかしら。


湖を見つめながら、あの時私は決めたの。
春川を離れたら髪を切ろうと。

もう、あなた意外誰も愛したくないから…。



この湖(うみ)の 水に入りて 君がいる
          影の国へと 行きたしと思う

もう誰も 愛さぬ証 髪を切る
      君が愛でたる 黒髪だから


      

別れの後 五 「びんの中の海①」

2005-06-29 20:51:54 | 別れの後
[時間が少しさかのぼり遡ります。フランスのパリに来たユジンのお話です。]

パリへ来て初めての夏が訪れた。
私は勉強の遅れを取り戻すため、夏休みの間もパリにいて休日返上で頑張るつもりだったが、大学の友人であるロザリーに「休みも必要よ」と誘われ彼女の実家のある海沿いの町に来ていた。

小さな町はとても静かで、パリでの生活が嘘のようにゆったりと時が流れていた。

ある日の夕方、砂浜をロザリーと二人で散策した。
夕日が波に映ってとても美しい。

遥かな島なみ
鈍色(にびいろ)の波の海(いい日旅立ちより)

「人気(ひとけ)のない海は寂しいけれども、どこか懐かしいわね。…」
「ユジンは、海に思い出があるのね。
ねえユジン、話してみない?お国のお友達には話せないことも、何も知らない私にだったらかえって話せるってこともあるんじゃない?
ユジンは、何かピンと張り詰めた糸の様な感じがするのよ。今にも切れてしまいそうな」

私はジュンサンと二人で過ごした海の日を思い出していた。
二人で訪れた初めての海。
あの日の海も美しかった。
一緒に見た夕日。
初めてけんかをしたのもあの時だった。
ジュンサンも覚えていてくれるわよね。 

「私、好きな人がいるの、アメリカに。
交通事故の後遺症で、たぶん病院に入院していると思うわ」
「たぶんって、連絡取り合っていないの?その人はあなたのこと好きじゃないの?」
「いいえ、とても…深く愛してくれているわ」
私の頬を一筋の涙が伝って落ちた。

「彼は、ジュンサンは私を助けようをして事故にあったの。
アメリカに行ったのも私のためなの。
複雑に絡んで解けなくなった糸のようにいろんなことがあって、…私達何度も別れなければならなかったの」

私はジュンサンとの出会いと別れを話し始めた。

私はいつも間にか自分でも気付かぬうちに泣いていた。
涙は後から後からとめどもなく流れ落ち、頬を濡らした。

ロザリーがそっとハンカチを差し出してくれた。

「ごめんね、泣いたりして…」
「いいわよ。ここにはあなたの彼もサンヒョクさんもいないんだからイッパイ泣いたって大丈夫よ。
泣きたいときは、泣いた方がすっきりするじゃない。思いっきり泣いちゃいなさいよ」
「ありがとう、ロザリー」

「私、彼と愛し合っているのに別れなければならなかった時、辛くてこのまま死んでしまえたらと思うことが何度もあったわ。耐えられないって。
…でも、こうして生きてる。
だからね、今は、ひょっとして乗り越えられない試練なんてないんじゃないかって思えてきたの。
今も、もしジュンサンが死んだらって考えたらすごく怖い。でも私がここで頑張って元気に生きていればきっと大丈夫、ジュンサンも元気になれるって信じているの」
「ユジンは強いのね」
「ううん、まだ全然。
本当は…、今すぐにでも飛んで行きたいくらい会いたい。でも、まだ自信がないの。今会ったら帰れなくなって、泣いてばかりいたわたしに戻ってしまいそうで…。
そうしたら、またジュンサンを悲しませることになる。
私もっと強くなりたいの。
一人でも幸せになれるように。
私が幸せでないとジュンサンは幸せになれないから」
「ユジン、そんなに頑張んないで、会いに行けばいいのに」
「そうね、…行っちゃおうか?
会いに行くのに会いたいって事以外理由なんか要らないものね」
二人は顔を見合わせて微笑みあった。


砂浜でコインを拾った、あの日のように。
私は綺麗なビンに海の水、砂と一緒に拾ったコインと綺麗な貝殻を入れた。

ジュンサンへのプレゼント。
渡すあてのないプレゼント…。
届けたいな、何とかして…。
私は思案した。
〈そうだ、マルシアンのキム次長にお願いしよう。キム次長ならアメリカに仕事で行くことがあるだろう。〉

私は急いで手紙を書き小包にして送った。
 
母なる海の潮の香が
ジュンサンに命の息吹を与えてくれることを願って。


♪「びんの中の海」[高木あきこ作詞]
 
 空っぽのビンに海の水詰めて
 あなたの窓辺に届けたい
 
 青い波のささやきと魚たちの子守唄
 一緒に詰めて送りたい

 海へ行けないあなたのために

 小さなビンをあなたが開けると
 海は香ってあふれ出し・・・
 ひたひたと あなたの部屋を満たすだろう

 あなたは海の風の中で光り輝く沖を見る
 海はあなたに限りない命を分けてくれるだろう

 いま
 私の手のひらで
 虹色にきらめいてゆれている
 思い出の海 あの日の海よ…

「日本はそんなに悪い国なのか」

2005-06-29 12:29:09 | 読書
上坂冬子著 PHP研究所 2003年8月11日発行

上坂冬子さんとの出会いとなった本です。

「そもそも日本は、一方的にそんなに悪いことをした国なのであろうか。」

「…日本は敗戦国である。敗戦国としての辱めは十分すぎるほど受け、日本はそれを言われるままに果たしてきた。裁判とはいえない裁判によって『お前は戦争犯罪人だ!』と決め付けられたあげく、健康な父や息子の命を提供して平和条約にこぎつけた国が、なぜ半世紀もさかのぼって新たな補償やお詫びを求められるのであろうか。贖いはとうに済んでいる。」

「贖いはとうに済んでいる」と上坂さんは言います。
平和条約を結び、金銭的な補償も済ませ、1068人もの人命を”平和の生贄”として差し出しているのです。

「戦争というものが勝った側にのみ有利で、負けた側は半世紀どころか未来永劫にわたって謝罪と補償を要求され、揉み手しながらそれに耐えねばならぬ習慣をつくり上げたのは、日本の罪であり恥である。」

中国や韓国との軋轢は、”謝罪と補償”でやり過せることではなく、日本の立場と考えを責任ある人(つまり総理大臣)がはっきりと”宣言”することでしか解決しないと思いました。

「『戦争犯罪人と言われる人間は平和への生贄としての面をもつ。以後、日本政府の名において戦争”犯罪人”の呼称を受け付けない』と簡潔に声明すべきである。」

上坂さんの著書でこのほかに読んだ本
「贖いは済んでいる」
「歴史は捻じ曲げられない」
「貝になった男」
「私の人生私の昭和史」