オータムリーフの部屋

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「のどが渇く前に水分補給」は必要か? スポーツドリンク「アクエリアス」CMのウソ

2012-09-02 | 健康

 ロンドンオリンピック直前の7月、英国の一流医学誌『BMJ』とBBCが共同で、スポーツドリンクの効能に関する科学的裏づけについて検証した結果を発表した。その論説で、「のどが渇く前に水分補給を」「水分だけでなく電解質も一緒に補給を」といった、一般にも信じられている情報が、実は科学的根拠に乏しい風説に過ぎないことが判明。スポーツドリンクの飲み過ぎでカロリー過多になる危険性も指摘された。英国での検証結果から、われわれ消費者が気をつけるべき点をまとめると・・・・・
 
◇「のどが渇く前に飲む」必要はない
◇水分の摂り過ぎの方が危険
◇スポーツドリンクでも低ナトリウム血症
◇一般人の運動では「のどが渇いてから水を飲む」で充分
◇塩分補給は食事から
◇スポーツドリンク飲み過ぎは糖分過多に
 
水で十分なのだが、あえて摂る場合に、糖分が一番多いワースト飲料はポカリスエット。人工甘味料なし、糖分も比較的少なめなのはダイドードリンコ社のもの。

 日本コカコーラ社のアクエリアスのCMでは、ゴルフの石川遼、サッカーの本田圭祐、なでしこジャパンの澤穂希、水泳の北島康介という一流アスリートたちが口々にアクエリアスを勧めている。アピールポイントは二つ。「のどが渇く前に飲む」「水ではなくて適度な糖分や電解質を含んだスポーツドリンクの方が優れている」という点だ。
スポーツドリンクがただの水より健康に良いという、広く信じられている考えには、あまり明確な科学的裏付けがなく、それを補強するデータの殆どは、スポーツドリンクのメーカーの資金提供を受けた研究結果の可能性が高いらしい。
血液の塩分濃度はかなり高く、汗の塩分濃度が血液を超えることはない。つまり、体温の上昇を抑えるために汗を掻くが、その時に身体から失われるのは、主に水分だ。身体から水分が喪失すれば、血液は濃縮され脱水状態になる。この時、通常は血液のナトリウムの濃度は上昇している。従って、この時点では水だけが補給されれば、充分だ。塩分の喪失が問題になるのは、もう少しその状態が長く持続した場合で、食事が普通に摂れている状態であれば、昼間に摂るのはただの水だけで良く、塩分は後から食事と一緒に摂れば、それで良いらしい。
脱水を感知する口渇のメカニズムは、高齢者では鈍る可能性があり、高齢者は脱水になり易く、口渇も感じ難い。しかし、それはかなり個人差の大きな事項で、一般的には「咽喉が渇いたら早めにこまめに水分を摂りなさい」というアドバイスで充分らしい。

スポーツや猛暑など脱水を生じ易い環境では、スポーツドリンクを飲むのが望ましい、という考え方は、そう古くからあるものではない。スポーツドリンクというのはそもそも、プロスポーツにおいて、より効率的に運動中に喪失する水分やエネルギー、イオンなどを補充するには、どのような補充法がより適切で、運動効率を落とさず、結果として良い成績や記録に繋がるか、
という研究から始まった。激しい運動をすれば、身体はそれによりエネルギーを消費し、汗として水分やイオンを喪失する。この時、糖と水分と塩分とカリウムとが、失われるので、これを一緒にした飲料水を作り、それを運動中に適宜補充すれば、運動の効率が持続し、高いパフォーマンスが持続するのでは、という発想が生まれた。この推定を元に、1960年代にアメリカで生まれた商品が、ゲータレード。このゲータレードが大ヒットとなったので、世界中で同じようなスポーツドリンクが販売され、現在のスポーツドリンク信仰に、繋がっている。ゲータレードの戦略は多くの科学者を抱き込み、自ら研究機関を設立し、科学誌を発刊して、科学的なデータにより、その効果が裏付けられた飲料として、医薬品に近いような位置付けで、この商品を販売することにあった。その戦略は成功し、コカコーラ社など、それに続くスポーツドリンクの販売会社も、同様の戦略で、「ただの水では身体は守れない」として、水の代わりにスポーツドリンクを、という宣伝を精力的に行なった。オリンピックや世界的な競技会で、こうしたスポーツドリンクは公認の飲料として採用され、そのために巨額の資金が、スポンサーから競技会側に流れる。この時点でのスポーツドリンクの効能というのは、あくまでプロスポーツに限ってのものだ。その効果を裏付けるデータも、メーカー主導で行なわれた。しかし、プロスポーツの選手にとって良いものなら、当然アマチュアのスポーツ選手にも良く、運動を始めたばかりの素人にも、悪いことはない、というメーカーにとって都合の良い理屈が流布され、その使用範囲は急激に拡大し、学校での運動においても推奨されるようになり、遂には高齢者の脱水症の予防や、熱中症の予防のためにも、スポーツドリンクが有用であると、その使用範囲は無制限に拡大することになった。しかし、現実にはお子さんや高齢者において、明確にただの水よりもスポーツドリンクの方が、脱水症の予防に優れている、という根拠は乏しく、信頼のおける研究も殆どない。つまり、メーカーの都合の良い理屈により、「脱水症の予防にはスポーツドリンクを!」という言説は信じられているが、どのような条件において真実であるかは、まだ分かっていない。
 
2005年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、2002年のボストンマラソンにおける、ランナーの低ナトリウム血症の発症と、その要因とを検証した論文
2002年のボストンマラソンにおいては、レース後に28歳の女性が、低ナトリウム血症のために死亡したが、マラソンなどの持久性のスポーツにおいて、特に素人の選手が低ナトリウム血症を来す事例の多いことは、それ以前から知られていた。この論文においては、レースに参加した選手のうち、488名の採血を行ない、その13%に血液のナトリウム濃度が、135mEq/l以下の低ナトリウム血症を認めている。かなりの高率である。それではどういう選手が低ナトリウム血症になるのかで、解析を行なうと、レース後に体重が増えていることが、その要因となっている。マラソンをして、多大なエネルギーを消費した筈なのに、何故体重が増加するのか?それは水分の摂り過ぎによるものだ。運動中には水分を摂らなければならない、というスポーツドリンクメーカーによって広められた言説を信じ、マラソンを走りながらじゃんじゃん水分を摂り、却って身体は水中毒の状態となって、ナトリウムが低下し、脳への障害から最悪は死に至ったのだ。スポーツドリンクを推奨する専門家は、水よりも塩分が入っているスポーツドリンクでは、そうしたことは起こり難い、と主張しているが、この論文の結果においては摂取した水分が、ただの水であってもスポーツドリンクであっても、低ナトリウム血症の発症には、何ら違いはなかった。
つまり、スポーツドリンクであっても、大量に飲めば、低ナトリウム血症になる。「咽喉が渇いたらこまめに水を摂りなさい。無理はしないで休みを取りなさい」というくらいの指導であれば、こうしたことは起こらない。しかし、「咽喉が渇いてからでは遅いので、時間を決めてスポーツドリンクを摂りなさい。そうでないと脱水や熱中症になりますよ」という指示では、、素人は不安になって際限なく水を飲み、水中毒になる危険性が高い。

British Journal of Sports Medicine誌に、昨年掲載された論文
サイクリングのタイムトライアルにおいて、脱水を補正するために、予め水分を補給した場合と、咽喉の渇きに応じて、少し脱水になった時点で、その都度水分を補充した場合とで、実際の運動の効率が、どのように違うのかを検証した。結果は、若干の脱水が生じた方が成績は良く、重度の脱水でも、脱水を補正しても、その成績は低下した。そして、運動時の水分の補充については、咽喉の渇きにより、その都度補充した方が、定期的に補充を強制するより、効果的である、という結果だった。この結果のポイントは、スポーツドリンク導入のそもそもの始まりであった、「喪失する水分と電解質と糖質とを補充した方が、運動の効率は高まる」というドグマを否定したところにある。多少の脱水があった方が、運動の効率は高まるのであり、脱水があるレベル以上に達すれば、口渇が生じるので、それに合わせて水分を補給するのが、一番人間の生理に合っていて、効率的な可能性が高い。

要するに、運動をするとか、一時的に暑い中で作業をする、というような状況、脱水が予想される状況では、咽喉が渇けば速やかに水分補給をすれば、基本的にはそれでよく、その時に使用するのは水やお茶でも問題はない。熱中症というのは、身体が適正な体温を維持出来なくなった時に生じる現象であり、水分を摂るだけで防げる、というものではない。勿論脱水はそのリスクを高めるが、スポーツドリンクをじゃんじゃん飲めば、それで良い、という性質のものではない。その対策だけが妙に強調されることは、水中毒のリスクを高め、特に糖尿病や高血圧などの基礎疾患があれば、スポーツドリンクの使用は、逆効果になりかねない。そもそも、スポーツドリンクの成分は、点滴に使用する維持輸液を元にしたものだ。これは食事が摂れない時などには、身体に負担の少ない点滴液だが、それと同じ成分を口から摂れば、点滴の代わりになる、というものではない。1人暮らしの高齢者では、毎日一定量のアルカリイオン飲料を、飲んでもらうことを強要するような指導が、時に行われているが、確かに脱水の兆候が発見し難く、室内でも熱中症になり易い高齢者は、早め早めの対応が必要なケースが多いが、食事が摂れていれば、水分は別に水やお茶でも問題はなく、アルカリイオン飲料の使用が、推奨されるのは危険なことのように見える。高齢者が食事が摂れなくなった時や、下痢などの時は、電解質と糖質とを含む飲み物は有用性が高い。問題なのは、それが体調を崩さないための予防に、効果があるように宣伝され使用されていることだ。そうした予防的な使用に、確たる根拠はなく、かえって危険な場合もあることは心に留めておくべきだ。

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