オータムリーフの部屋

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核の先制不使用

2016-08-20 | 戦争
米国のオバマ大統領が核兵器の「先制不使用」宣言を検討しているという。相手が核攻撃をしてこない限り核兵器を使わない政策で、実現すれば米核政策の大転換になる。
核の先制不使用は偶発的な核戦争のリスクを回避できる利点がある。米国が先制核攻撃はしないと宣言すれば米国の意図を誤解して核戦争が起きる可能性は大幅に小さくなる。
川口順子元外相とエバンズ元豪外相らアジア各国の元閣僚や学者ら40人が連名で「アジア太平洋の米国の同盟国が先制不使用を支持するよう求める」とする共同声明を発表し、日本に支持するよう促した。両氏を共同議長とする核軍縮の国際委員会は2009年の報告書で、核廃絶実現までの経過措置として「すべての核保有国が核の先制不使用を宣言すべきだ」と提案している。核の先制不使用は国際的な世論だ。一方で、核戦力を強化する中露や核開発を進める北朝鮮など日本は核の脅威にさらされている。日本は米国の「核の傘」を自国を守る安全保障の大きな柱にしてきた。
米紙ワシントン・ポストによると、核の先制不使用について、安倍晋三首相は北朝鮮への抑止力が低下すると米側に懸念を伝えたという。
米国がただちに核の先制不使用を宣言した場合、米国の「核の傘」が弱まらないかと懸念を抱くのはもっともだ。反対論は同盟国の韓国や英仏などに加え、オバマ政権の主要閣僚からも出ているという。
しかし、唯一の被爆国として「非核三原則」を堅持する日本が、核廃絶に向けた新たな動きにブレーキをかけるだけでいいのか。
中国はすでに核の先制不使用を宣言しており、ロシアも旧ソ連時代は宣言していた。米国が主導する形で米英仏中露の国連安保理常任理事国がそろって核の先制不使用に合意することが最善ではないか。それを後押しするのが日本の役割だ。仮に米中が合意して宣言しても日本の安全が守られるか疑問が残るが、核保有5カ国が足並みをそろえれば核戦争のリスクは格段に下がる。実現すれば北朝鮮への圧力ともなろう。オバマ政権は核戦略を見直し、核兵器の役割を低減させる一方、圧倒的な通常戦力の構築で抑止力を維持する方針を示した。 安倍首相はオバマ氏と訪問した広島での演説で「核なき世界」への責任を誓った。「核兵器依存」からの脱却を試みるオバマ氏とともに核の先制不使用につながる環境整備に力を尽くすべきだ。(毎日 社説)
 
核の世界では「先制使用」は取り返しのつかない事態となり、国自体が消滅することにつながり、核兵器保有国はその危険性を十分認識している。最大核保有国が核の先制使用を行わないとの宣言は大きな意味を持つ。オバマ氏は5月に現職米大統領として初めて広島を訪問した際の演説で、「私の国のように核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない。私が生きているうちにこの目標は達成できないかもしれないが、たゆまぬ努力が大惨事の可能性を小さくする」と訴えていた。
 
核廃絶の道筋を探る賢人会議の共同議長を務めた川口順子元外相と豪のエバンズ元外相らアジア太平洋地域の元閣僚や軍高官ら40人が16日、オバマ米政権に核兵器の「先制不使用」政策の採用を強く促し、「太平洋地域の米同盟国」に採用支持を求める声明を連名で出したが、被爆国でありながら先制不使用採用に反対の日本政府の姿勢を変えることはなかった。
核兵器の先制不使用に反対するのは、被爆者や多くの国民の気持ちに相反するものであり、核戦争を阻止するには、核兵器を全面的に廃絶する以外にない。唯一の戦争被爆国の総理大臣が取るべき態度は、核兵器のない平和で安全な地球をつくるため核兵器の廃絶に力を尽くすことであるはずなのだが。
オバマ大統領の宣言の裏には、中国が「核の先制不使用」のを見直すことを懸念し、アメリカもそれを採用することによって、中国の動きを封じようという考えがある。つまり、これに反対する日本の態度は、逆に中国の脅威を高めかねない。安倍首相の「『核兵器のない世界』に向け、努力を積み重ねてまいります」という言葉が口先だけのものであることがよくわかる。
 
今年は、NHKスペシャルが原爆投下のトル-マンの役割に対し、歴史を塗り替える素晴らしい検証を行った。
「原爆投下は戦争を早く終わらせ、数百万の米兵の命を救うため、2発が必要だとしてトルーマンが決断した」という捉え方が一般的だ。その定説が今、歴史家たちによって見直されようとしている。アメリカでは軍の責任を問うような研究は、退役軍人らの反発を受けるため、歴史家たちが避けてきた。しかし、戦後70年が経ち、多くの退役軍人が世を去る中、検証が不十分だった軍内部の資料や、政権との親書が解析され、意思決定をめぐる新事実が次々と明らかになっている。最新の研究からは、原爆投下を巡る決断は、終始、軍の主導で進められ、トルーマン大統領は、それに追随していく他なかったこと、そして、広島・長崎の「市街地」への投下にすら気付いていなかった可能性が浮かび上がっている。それにも関わらず大統領は、戦後しばらくたってから、原爆投下を「必要だと考え自らが指示した」と宣言した。
今回、NHKでは投下作戦に加わった10人を超える元軍人の証言、原爆開発の指揮官・陸軍グローブズ将軍らの肉声を録音したテープを相次いで発見し、証言を裏付けるため、軍の内部資料や、各地に散逸していた政権中枢の極秘文書を読み解いた。
 
これまで、原爆投下の目標から京都が除外されたのは「米軍が京都の価値を知っていたからあえて外した」などという見当はずれの説もあった。本番組は、米空軍基地に眠っていたグローブス准将のインタビューテープを掘り起こして上記の論争に決着をつけた。グローブス准将は原爆計画の責任者だった。1945年4月、原爆の完成を待たずにルーズベルト大統領が急死し、副大統領だったハリー・トルーマンはルーズベルトから何の引き継ぎもないまま、突然巨大国家の最高責任者となった。 グローブス准将は国家的なプロジェクト、22億ドルもの国家予算をつぎ込んだ計画の責任者でもあり、「終戦後に、これだけ金をかけて何をしていた?戦争勝利に何か貢献したのか?」と批判されることを恐れ、とにかく日本の敗戦前に原爆を落とそうと画策した。原爆の効果を最大限に引き出すために、半径5km以上の都市をリストアップして、その最有力候補が何と京都だった。しかも、紡績工場を軍需工場と申告し、京都を軍需都市であるかのごとく、装った。グローブス准将を始めとする米軍は一般市民を巻き込んで最大の効果を上げることしか考えていなかった。 グローブス准将は何度も京都への投下を進言するが、それを阻止したのが陸軍長官のヘンリー・スティムソンだった。彼は京都へ二度も訪問したことがあり、京都への投下に反対した。
 
「この戦争を遂行するにあたって気がかりなことがある。アメリカがヒトラーをしのぐ残虐行為をしたという汚名を着せられはしないかということだ」(スティムソンの日記より)
 
トルーマン大統領は京都投下を否認して、グローブス准将に「女性や子供は傷つけないように」と命じた。グローブス准将は京都を諦めて、広島に投下した。あたかも広島は軍事都市であり、市民など住んでいないかのように進言していた。確かに広島は軍港や日本軍司令部があり、軍事都市の側面があったことは否定できない。しかし、タ-ゲットは市民であり、原子爆弾の最大の効果を狙って、中心街に落とされた。また、長崎の投下は、タイプの違う原爆を試したいという実験的な側面が強い。長崎の原爆は、威力として広島型の1.5倍と言われ、プルトニウムの物性に由来する毒性の強い原爆と言われている。長崎市は周りが山で囲まれた地形であったため、熱線や爆風が山によって遮断された結果、広島よりも被害は軽減された。そして、3つ目の投下も予定されていた。
 
広島への投下を後で知らされたトルーマンは、「こんな破壊行為をした責任は大統領の私にある」とスティムソンに語った。おそらくトルーマンは原爆投下を正当化するために「戦争を早く終わらせ、多くの米兵の命を救った」と宣言したのだろう。原爆投下を巡る決断は、終始、軍の主導で進められ、トルーマン大統領は、黙認するしかなく、広島・長崎が「市街地」であることにすら気付いていなかったようであり、投下の指示自体、明確には行われなかったらしい。今回の検証がなくても、4日間の間に、急いで違う種類の原爆を落とし、その効果を評価するために調査団がやってきたのだから、動物実験のような感覚で落としたことは容易に想像ができた。しかし、トル-マンが明確に決断しなかったという事実は、アメリカの政治家は軍人とは違って、無辜の子供たちを傷つけることには、消極的だったということが推測でき、いくらかほっとした。
 
日本の軍人の残虐性も凄まじい。確かに2発の原爆投下がなかったら、終戦がどの程度遅れていたか、わからない。自爆テロと変わりない特攻を考え出して、敗戦を遅らせ、戦死者を増加させた。もしも、日本が先に原爆を開発していたら・・・・考えるだけでも恐ろしい。第3の原爆投下がなかったこと、ソ連侵攻によって日本が分割されなかったことは、アメリカによる核の先制使用のおかげだったかもしれない。核の先制使用が戦争を終わらせるのは相手側が核を持っていない場合だけである。核による報復が連鎖的に行われれば、小さい国など跡形もなくなってしまう。
 
核の先制使用と言うのはどういう場合が考えられるだろうか?日本政府は相手が核攻撃をしてきそうなときに、こちら側が先制攻撃をかける場合を想定しているように思う。しかし、核を持っている国、核の傘下に入っている国に突然核攻撃をしてくる国があると考える国自体が人間の叡智を信じない、かなり好戦的で挑発的な国ではなかろうか。普通は通常兵器で争いになり、負けそうになった側が核の使用を考える。初めから核を使って先制攻撃をかけることは考えづらい。そこまで疑心暗鬼に陥っていること自体が恐ろしい。
負けそうな国に対して核の先制使用を行い、相手側の核使用を止めさせるのが核の先制使用だと思われる。アメリカは核を持たない国に対して核を使用した。あと少しで負けそうな国に対して、先制的に核を使用するのが人道的なことだとは到底考えられない。オバマ大統領が核の先制不使用を宣言することはないだろう。せめて、核の持たない国に対しては絶対に核攻撃をしないことぐらいは宣言してもらいたい。
 
日本への原爆投下は、十分な根拠にもとづく明確な指示なしに行われた。戦前の日本政府も帝国主義の仲間入りをしたくて、国を滅亡寸前まで追いやった。大量破壊兵器があるとしてイラクに攻め込んだ米国の意思決定も、また単なる言いがかりだった。対外的、国民に向けての説明は国にとって都合の悪いことを隠すため、己の行為を正当化するために行われることが多い。
米軍にとって原爆投下は、それまでにかけた膨大な開発コストを無為にしないために必要なことだった。そうした事実は明らかにされず、対外的にはトルーマン大統領が「米軍の損害を最小化するために原爆投下は必要だった」と正当化した。どの国でもどんな人でも自己防衛のために積極的・消極的な嘘をつくことがある。指導者の嘘を見破るためにも情報を多方面から収集し、見識を深めることは重要である。
 
毎年この時期に戦争と平和について新しい発見がある。歴史が検証されるのは悪くない。過去に学ぶことで、未来をよりよくできる可能性はある。

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