オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

来週放映される「裸の島」

2011-05-30 | 映画
当時、日本映画の台詞の多さと騒々しさに食傷気味だった思春期の私はこの映画に衝撃と深い感動を覚えた。

後にも先にもこれほど台詞のない映画は見たことがない。ほれ込んで、自主上映したのも思い出である。

瀬戸内海の一孤島。この島に中年の夫婦と二人の子供が生活している。島には水がなく、畑へやる水も飲む水も、遥か彼方に見える大きな島から船で運んでくる。仕事の大半は、水を運ぶ作業である。暑い日の午後、突然長男の太郎が発病し、医者が駈けつけた時にはもう死んでいた。葬式が終り、何事もなかったかのように、夫婦はいつもと同じように水を運ぶ。突然、妻は狂乱して作物を抜き始める。以前、水をこぼした妻に激しいビンタを食わせた夫も、この時は黙って見つめている。泣いても叫んでも、この土の上で生きてゆかねばならない。灼けつく大地へへばりついた二人の人間は、命が尽きるまで、水を運び続けなければならない。

裸の島は昭和35年の作品で、モスクワ国際映画祭でグランプリを受賞している。
台詞がない分、場面場面に出てくる音が鮮烈な印象となって、心に響いてくる。子供と戯れる父親の声。子供を亡くした母親の嗚咽。何度も繰り返されるテーマ曲。映像だけで季節の移ろいや人間の喜怒哀楽、家族の絆をより鮮烈に描写していく。小賢しい台詞は色を失う。世界中の人の心の深淵に響く、わかりやすく、簡潔で力強い映画に仕上がっている。


本質的には、我々の都会での人生もこの孤島の生活と変わりない。毎日、満員電車に揺られて、毎日同じ仕事をして、時には絶望的になっても与えられた運命を受容していく。
地球がなくなる日まで人間はこんな風に地球に這いつくばって地球の風景を変え、季節の移ろいや人との出会いに感動し、不本意ながらも自分の人生を全うし、命をつないでいく。
20代になる前にこの映画を見て、人間の力は微力で運命に逆らえないこと、過酷な人生を寡黙に受容しなければならないこと、そのつらい人生にも深い感動があることを感じ、つらい人生に立ち向かう覚悟ができたような気がした。

自然の圧倒的強さを忘れて人間は時に傲慢になる。山を崩し、生物を絶滅させ、自然を破壊して自分の種に都合の良いように作り変え、地球をコントロールしたような気分になる。
そんな傲慢になった人間が今回のように地球からしっぺ返しを食らうのは仕方がない。しかし、自分の作り出したものから何世代にも渡って苦痛を受ける愚だけは繰り返したくないものだ。

来週放映される裸の島。再度視聴して新たな感動はあるだろうか?

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