日本代表に選出されたこともある、選手会長の新井貴浩。7月20日に予定される臨時大会で、最終結論を協議することになる。
これも一つのねじれ現象といえるだろう。
来年3月に行なわれるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への参加問題だ。
若い選手の意見を聞くと、実はおおむね参加に積極的なのである。
「できるのなら代表に選ばれて、日の丸を背負ってメジャーのスタジアムに立ちたい」
純粋にプレーヤーの夢を語る声は、これまでも何度となく聞いたことがある。だが、現実はねじれている。
そんな夢を語る選手たちが所属する選手会が、頑なに不参加の方針を貫いているのである。主張は判らなくはない。この大会が様々な運営上の問題を抱えているのも確かだ。アメリカ偏重の利益配分には、どうにも納得しかねる部分があるのもうなずける。そういう矛盾に目を向けたからこそ、一時は球団サイドも不参加の方針を打ち出していた時期があった。
だが、昨年行なわれたスポンサー収入の配分を巡っての日米交渉は決裂した。
そこで次回大会への参加か、ボイコットかを迫られた結果、日本野球機構(NPB)側は新しい方法を見つけて参加への道を探った。
日本代表を常設化して、そこにスポンサーをつけて経済的な基盤を作るという方法だった。
3連覇がかかるWBCだが日本は「仮参加」という現状。
だが選手会は違った。
冒頭で書いたように、若手選手の間では、「参加」という声が少なくなかった。だが、ベテランを中心とした昨年7月の臨時大会で、執行部の方針を踏襲する形で不参加の方針を決めたのだ。
これがWBCを巡るねじれ現象である。
こうして日本の足並みがそろわない間も、アメリカのWBC運営会社のスケジュールは着々と進んでいる。
過去2大会で優勝した実績を考慮されて、日本は第3回大会では予選は免除されてシード出場となっている。
そこで先ごろ発表された予選のスケジュールには日本は入らないで済んだわけだが、本大会のスケジュールではそうはいかない。現段階で日本の名前はあるが、それが仮参加という形になっているのが現状である。
WBCに積極的なNPBと参加を渋る選手会との温度差。
また国内でも、代表チーム常設化を決めたNPBの方針に従ってWBCを見据えた様々な動きが始まっている。
3月には復興支援チャリティーゲームで「侍ジャパン」が結成され、台湾とのエキジビションマッチを行なった。そして今年の11月にはWBCに向けた強化試合2試合を計画。そこに向けて加藤良三コミッショナーを中心に代表監督の選任を行なう方針なのである。
ただ、選手会だけが置いてけぼりになってしまっている。ここでもねじれは起こっているわけである。
そこで選手たちにはもう一度、見直してもらいたいものがある。
球団と契約を交わす際にサインする統一契約書の内容とその精神である。
プロ選手にはWBCに出場する義務と責任がある!?
統一契約書の冒頭の前文は、球団と選手の契約を野球協約とそれに附随する諸規程を受け入れて署名するものとして、こう続けている。
「これらの野球協約ないし規程の目的は球団と選手、球団と球団、連盟と連盟の関係を規律して、わが国のプロフェッショナル野球を利益ある産業とするとともに、不朽の国技とすることを契約者双方堅く信奉する」
すなわちプロ野球選手として球団と契約する精神というのは、野球協約とそれに附随する規則を守り、球団と選手、アマチュア野球連盟や他国の連盟との規律を尊重した上で、プロ野球が「不朽の国技」となるように努める責任を負うことなんですよ、ということである。
そしてもう一つ、統一契約書の第4条には、この契約に基づく選手の「野球活動」が、以下のよう規定されてもいる。
「選手は……年度の球団のトレーニング、非公式試合、年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し、(中略)また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼することを承諾する」
要は、その精神の下で球団のキャンプや春のオープン戦、そして公式戦やオールスターゲームへの出場義務があるとともに、「球団が指定する試合」に報酬をもらって出場しなければならないということなのだ。
となれば、もし球団が契約期間内である来年3月にWBCへの出場を命じたときには、統一契約書にサインしている限り、選手はそれに従わなければならないという解釈ができるわけだ。
選手会は日本球界全体の利益を鑑みるべきだ。
もちろんこの条文をどう読むかには、まだまだ検討の余地はある。WBCは別枠という考えもあるだろう。
ただ、解釈の仕方では球団が出場を指定したWBCへの参加を拒否すれば、選手は契約違反で損害賠償の対象にもなりかねない。
何にもまして、前文に掲げられた野球を「不朽の国技」とするという精神に鑑みれば、統一契約書にサインした以上は、ボイコットという選択が決して契約履行の上からも正解ではないと思うのだ。
現状では選手への参加報酬を含めたスポンサー料の配分やケガの補償の問題、その他にも様々な課題を抱えて見切り発車的な部分があることは認めざるを得ない。
ただ逆に、WBCを通してスターが生まれ、そのスターたちが各チームに戻って日本の野球を盛りたてていく。そのことは、選手にとっても決して不利益をもたらすものではないはずである。
さらに言えば、メジャー挑戦を夢見る選手たちにとってみれば、WBCは自分の実力を計り、メジャーのスカウトにその力を見せる格好の舞台でもある。
だから若い選手の間では、WBC待望論といえる意見があるのも否定はできないだろう。
選手会は7月に行なわれる臨時大会で、参加かボイコットか、最終判断を下すことになる。
ならばもう一度、統一契約書を読んでほしい。そしてもう一度、プロ野球選手として契約することの意義を考えてから、結論を出してほしい。(Number Web)