<3回戦 大津(熊本) 3-2 藤枝東(静岡)>
■大津が小気味いいテンポの攻撃で先制
サッカー名門校・藤枝東に挑んだ大津は3-2で接戦を制した
大津(熊本)対藤枝東(静岡)の試合は、3回戦屈指の好カードとあって7500人もの観客がニッパツ三ッ沢球技場を埋めた。攻守の切り替えが早い試合展開を見ながら、後ろに座った高校生も「面白い。この試合の勝者が優勝候補だな。勝ったチームが鹿島学園(茨城)と準々決勝か。5日もまた絶対三ッ沢へ来んべ」と、準々決勝も観戦に行こうと約束を始めている。大津が勝ち上がるにしても、藤枝東が勝ち上がるにしても、この先もまた追い続けてみたい――そう観客に思わせるだけのハイパフォーマンスだった。
前半は2-0で大津がリードした。1回戦の北越(新潟)戦では素晴らしいボレーシュートを決めたものの、2回戦の立正大淞南(島根)戦ではブレーキになった黒木一輝が12分に先制ゴールを挙げた。
「ケセラセラ。今日は今日の風が吹く。『昨日できなかったことを引きずるよりは、今日できることを整理しろ』と朝、黒木に話しました。メンタルの強い子ですから良かった」と大津の平岡和徳監督。ワンタッチパスを駆使しながら藤枝東の守備網を破り、最後は西田直斗から黒木へとボールが渡る大津らしい小気味いいテンポの攻撃だった。
25分、大津は中央で黒木と西田がタメを作ってから、右サイドの鵜木俊介がクロス。これに西田がニアサイドで突っ込んで2点目を決めた。
「今年のうちのサッカーは、サイドを崩すところから始まる。点を取れた場面も、真ん中で西田と黒木がしっかりポイントを作ってくれて、DFを寄せたところで両サイドのアタッカーが攻めるという形でしたね」と、平岡監督もしてやったりのゴールだった。
■名門校相手に試合を支配した大津
キックオフからしばらくはプレスの掛け合いでボールが落ち着かず、ロングボールの蹴り合いになった中、やや藤枝東の方が優勢だった。しかし、大津の選手たちのトラップ技術はとても高く、やがて試合をコントロールし始めて主導権を握ると、前半を2-0のリードで終えた。彼らの鮮やかなトラップ技術に観衆も「こんなトラップ、プロでも見たことがない」とうなりっ放し。GK江藤大輔の正確なキックを、黒木、西田、鵜木がキチンとトラップして攻撃につなげた。
こうして前半の40分間は大津優勢となり、そのサッカーに僕の後ろに座った高校生たちも興奮しっ放しだった。しかし、大津のハンドを審判が見逃したとき、メーンスタンドに座った自分たちの周囲だけでなく、遠くバックスタンドからも「ハンド!」といら立ちの声が飛んだ瞬間、彼らは「やばい。俺たちの周り、藤枝東の応援ばかりじゃん」と口が止まった。
静岡の代表校の試合はいつも多くの関係者やファン、OBでスタンドが埋まるが、特に清水の名門校や、藤枝東が出場する試合は半端ない数のサポーターが集まる。ハーフタイムには突然観客が立ち上がり、藤枝東の応援マフラーを即席販売し始め、あっという間に売り切れてしまったほど。藤枝東の選手たちが背負っているものの重みを感じざるを得ない。そして、その藤枝東のプライドが後半によみがえった。
■平岡監督の大胆な交代策が大成功
3点目を決めた藤崎裕太。平岡監督からの信頼も厚い
後半の藤枝東は、ボランチの位置から藤田息吹が視野の広いプレーでリズムを作り、MF蓮池柊兵とFW村松一樹がアジリティー(敏しょう性)のあるドリブルで攻撃のアクセントとなり、長身FW新井成明が落ち着いたポストプレーを見せた。後半10分にMF海野智之が1点を返した後も藤枝東は攻め続けた。
しかし後半14分、大津は両サイドの鵜木、蔵田岬平の3年生を下げて、右に藤崎裕太、左に澤田崇という2年生コンビを投入。ゲームの流れを変えようと試みて、これが大成功した。後半20分、藤崎は右サイドから藤枝東のDFを切り刻み、鋭い切り返しから重いシュートをドカンと決めた。苦しい後半の大津だったが、藤崎のゴールでようやく一息つけることができ、その後1点を返されたものの何とか3-2のスコアで逃げ切ることに成功した。
平岡監督の大胆なダブル交代策だった。特に鵜木はこの日左サイドで利いていた。しかし平岡監督の目からすれば、先発の鵜木と蔵田は飛ばしすぎていた。チームとしてもサイドアタックの意識が薄れていた。そこで藤崎と澤田を同時に投入することによってチームに新鮮な空気と、もう一度サイドから攻めようというメッセージをピッチに送ったのだ。これが当たり、特に藤崎が右サイドで大暴れした。
2回戦の立正大淞南戦でも平岡監督はやはり後半に藤崎、澤田を投入し、このときは左サイドで澤田が元気あふれるプレーでチームを活性化した。
「最高です」
この日ヒーローとなった藤崎は照れながら笑った。
■大津サッカーの裏側にあるもの
「藤崎に限らず2年生をベンチに置いていることは非常に心強い。この後に累積警告だったり、けがもあるかもしれないが、そこはすっと2年生で埋められるようになっている」と、平岡監督の控えの選手に対する信頼はとても厚い。1~11番の背番号を付けた選手たちがずらりと試合開始のピッチに並ぶ大津だが、いつでも15番(藤崎)、17番(澤田)、14番(松本大輝)といった2年生たちが代わりにスタメンを張る準備はできている。非常に豊富な選手層だ。それは平岡監督が「(今季の)ガンバ大阪じゃないけれど、うち以上に公式戦を戦った高校はない。天皇杯も戦いましたし」と語る公式戦と、多くの練習試合で鍛えられた。
「夏休みだけでも遠征は33~34日になり、インターハイ(高校総体)を含め、35試合くらいやっています。夏休みの間だけで3150キロくらい運転しました。運転するのは僕だけです。インターハイは埼玉県で行われたので、バスが排ガス規制に引っ掛かったので、置いて行きました。(予算の少ない)県立高校ですからバスで行きたい気持ちはあったんですが」。時には1日3試合をこなした日もあるという。
「僕が(母校の)帝京で学んだことの1つが『理不尽さが人を作る』というのがある。限界というのをどんどん伸ばしてあげるのが大事な部分じゃないか。3年間で心技体を鍛え抜く。こういったものは掛け算。どれかがゼロになると、すべてがゼロになる。そのパワーをどんな状況でもゼロにさせない。特にメンタリティーの部分ですよね。巻誠一郎(ジェフユナイテッド千葉/大津OB)なんていうのは技術も体力も普通のプロと同じくらいですが、最終的にメンタリティーの中で自分のパフォーマンスを大きくするというのはあると思う。いろいろな意味のいい掛け算を作っていければいいと思います」
センターバックとして藤枝東の猛反撃をしのぎ切った藤本大主将は夏の遠征を振り返る。
「1日2~3試合もやってきつかったが、こうして人間性も大きくなっていった。古沼先生(古沼貞雄/帝京元監督、現大津臨時コーチ)もそうやってきたわけですし。移動は5~6時間というのもありました。僕たちは寝ていることも多かったんですが、それでも体が伸ばせないから辛かった」
その結果、選手はたくましくなり、選手層が厚くなることにつながった。
試合後の平岡監督は語る。
「サッカー王国に勝ち、熊本は財産を1つ得ることができた。大津だけでなく熊本のサッカーが、この勝利によって、またいい方向に変化できればいいと思います」
(スポーツナビ)
■大津が小気味いいテンポの攻撃で先制
サッカー名門校・藤枝東に挑んだ大津は3-2で接戦を制した
大津(熊本)対藤枝東(静岡)の試合は、3回戦屈指の好カードとあって7500人もの観客がニッパツ三ッ沢球技場を埋めた。攻守の切り替えが早い試合展開を見ながら、後ろに座った高校生も「面白い。この試合の勝者が優勝候補だな。勝ったチームが鹿島学園(茨城)と準々決勝か。5日もまた絶対三ッ沢へ来んべ」と、準々決勝も観戦に行こうと約束を始めている。大津が勝ち上がるにしても、藤枝東が勝ち上がるにしても、この先もまた追い続けてみたい――そう観客に思わせるだけのハイパフォーマンスだった。
前半は2-0で大津がリードした。1回戦の北越(新潟)戦では素晴らしいボレーシュートを決めたものの、2回戦の立正大淞南(島根)戦ではブレーキになった黒木一輝が12分に先制ゴールを挙げた。
「ケセラセラ。今日は今日の風が吹く。『昨日できなかったことを引きずるよりは、今日できることを整理しろ』と朝、黒木に話しました。メンタルの強い子ですから良かった」と大津の平岡和徳監督。ワンタッチパスを駆使しながら藤枝東の守備網を破り、最後は西田直斗から黒木へとボールが渡る大津らしい小気味いいテンポの攻撃だった。
25分、大津は中央で黒木と西田がタメを作ってから、右サイドの鵜木俊介がクロス。これに西田がニアサイドで突っ込んで2点目を決めた。
「今年のうちのサッカーは、サイドを崩すところから始まる。点を取れた場面も、真ん中で西田と黒木がしっかりポイントを作ってくれて、DFを寄せたところで両サイドのアタッカーが攻めるという形でしたね」と、平岡監督もしてやったりのゴールだった。
■名門校相手に試合を支配した大津
キックオフからしばらくはプレスの掛け合いでボールが落ち着かず、ロングボールの蹴り合いになった中、やや藤枝東の方が優勢だった。しかし、大津の選手たちのトラップ技術はとても高く、やがて試合をコントロールし始めて主導権を握ると、前半を2-0のリードで終えた。彼らの鮮やかなトラップ技術に観衆も「こんなトラップ、プロでも見たことがない」とうなりっ放し。GK江藤大輔の正確なキックを、黒木、西田、鵜木がキチンとトラップして攻撃につなげた。
こうして前半の40分間は大津優勢となり、そのサッカーに僕の後ろに座った高校生たちも興奮しっ放しだった。しかし、大津のハンドを審判が見逃したとき、メーンスタンドに座った自分たちの周囲だけでなく、遠くバックスタンドからも「ハンド!」といら立ちの声が飛んだ瞬間、彼らは「やばい。俺たちの周り、藤枝東の応援ばかりじゃん」と口が止まった。
静岡の代表校の試合はいつも多くの関係者やファン、OBでスタンドが埋まるが、特に清水の名門校や、藤枝東が出場する試合は半端ない数のサポーターが集まる。ハーフタイムには突然観客が立ち上がり、藤枝東の応援マフラーを即席販売し始め、あっという間に売り切れてしまったほど。藤枝東の選手たちが背負っているものの重みを感じざるを得ない。そして、その藤枝東のプライドが後半によみがえった。
■平岡監督の大胆な交代策が大成功
3点目を決めた藤崎裕太。平岡監督からの信頼も厚い
後半の藤枝東は、ボランチの位置から藤田息吹が視野の広いプレーでリズムを作り、MF蓮池柊兵とFW村松一樹がアジリティー(敏しょう性)のあるドリブルで攻撃のアクセントとなり、長身FW新井成明が落ち着いたポストプレーを見せた。後半10分にMF海野智之が1点を返した後も藤枝東は攻め続けた。
しかし後半14分、大津は両サイドの鵜木、蔵田岬平の3年生を下げて、右に藤崎裕太、左に澤田崇という2年生コンビを投入。ゲームの流れを変えようと試みて、これが大成功した。後半20分、藤崎は右サイドから藤枝東のDFを切り刻み、鋭い切り返しから重いシュートをドカンと決めた。苦しい後半の大津だったが、藤崎のゴールでようやく一息つけることができ、その後1点を返されたものの何とか3-2のスコアで逃げ切ることに成功した。
平岡監督の大胆なダブル交代策だった。特に鵜木はこの日左サイドで利いていた。しかし平岡監督の目からすれば、先発の鵜木と蔵田は飛ばしすぎていた。チームとしてもサイドアタックの意識が薄れていた。そこで藤崎と澤田を同時に投入することによってチームに新鮮な空気と、もう一度サイドから攻めようというメッセージをピッチに送ったのだ。これが当たり、特に藤崎が右サイドで大暴れした。
2回戦の立正大淞南戦でも平岡監督はやはり後半に藤崎、澤田を投入し、このときは左サイドで澤田が元気あふれるプレーでチームを活性化した。
「最高です」
この日ヒーローとなった藤崎は照れながら笑った。
■大津サッカーの裏側にあるもの
「藤崎に限らず2年生をベンチに置いていることは非常に心強い。この後に累積警告だったり、けがもあるかもしれないが、そこはすっと2年生で埋められるようになっている」と、平岡監督の控えの選手に対する信頼はとても厚い。1~11番の背番号を付けた選手たちがずらりと試合開始のピッチに並ぶ大津だが、いつでも15番(藤崎)、17番(澤田)、14番(松本大輝)といった2年生たちが代わりにスタメンを張る準備はできている。非常に豊富な選手層だ。それは平岡監督が「(今季の)ガンバ大阪じゃないけれど、うち以上に公式戦を戦った高校はない。天皇杯も戦いましたし」と語る公式戦と、多くの練習試合で鍛えられた。
「夏休みだけでも遠征は33~34日になり、インターハイ(高校総体)を含め、35試合くらいやっています。夏休みの間だけで3150キロくらい運転しました。運転するのは僕だけです。インターハイは埼玉県で行われたので、バスが排ガス規制に引っ掛かったので、置いて行きました。(予算の少ない)県立高校ですからバスで行きたい気持ちはあったんですが」。時には1日3試合をこなした日もあるという。
「僕が(母校の)帝京で学んだことの1つが『理不尽さが人を作る』というのがある。限界というのをどんどん伸ばしてあげるのが大事な部分じゃないか。3年間で心技体を鍛え抜く。こういったものは掛け算。どれかがゼロになると、すべてがゼロになる。そのパワーをどんな状況でもゼロにさせない。特にメンタリティーの部分ですよね。巻誠一郎(ジェフユナイテッド千葉/大津OB)なんていうのは技術も体力も普通のプロと同じくらいですが、最終的にメンタリティーの中で自分のパフォーマンスを大きくするというのはあると思う。いろいろな意味のいい掛け算を作っていければいいと思います」
センターバックとして藤枝東の猛反撃をしのぎ切った藤本大主将は夏の遠征を振り返る。
「1日2~3試合もやってきつかったが、こうして人間性も大きくなっていった。古沼先生(古沼貞雄/帝京元監督、現大津臨時コーチ)もそうやってきたわけですし。移動は5~6時間というのもありました。僕たちは寝ていることも多かったんですが、それでも体が伸ばせないから辛かった」
その結果、選手はたくましくなり、選手層が厚くなることにつながった。
試合後の平岡監督は語る。
「サッカー王国に勝ち、熊本は財産を1つ得ることができた。大津だけでなく熊本のサッカーが、この勝利によって、またいい方向に変化できればいいと思います」
(スポーツナビ)