ドイツに貴重な先制点をもたらしたキャプテンのラーム
エース、カラグニス不在のギリシャに対して、ドイツは前線のメンバーを大幅に入れ替えて臨んだ。レーブ監督の狙いは何なのか。決勝までの道のりを考え、使える駒を増やしておきたかったのか。だとすれば、ギリシャを楽な相手だと踏んでいたことになる。
実際ドイツは、立ち上がりからギリシャを攻め立てた。ゴール前に迫り、決定的に近いシーンを幾度となく作り出した。だが、ゴールはなかなか決まらない。前半30分をすぎても、0-0の状態が続く。そのうえ、ギリシャにカウンターをしばしば食うようになっていく。
記者席の備え付けモニター画面には、レーブ監督の落ち着かない様子が、何度となく映し出されていた。
そんなドイツを救ったのが、ベテランの左サイドバック、ラーム。サイドチェンジ気味のボールを受けるや、グイグイ切れ込み、右足でミドルシュートを放った。モニターで見ると、キックの瞬間、ボールはイレギュラーした。少しばかりピッチから跳ね上がっている。インステップがややアウトに当たり、スライスの軌道を描いた理由である。シュートはGKから逃げるように、ネットに吸い込まれていった。
こうなれば、優勝候補の本命ドイツが、当初16番目のチームと目されていたギリシャを簡単に寄り切るだろうと、誰もが思ったハズだ。ギリシャが後半10分、同点ゴールを叩き込むことを予想した人は少なかったと思う。だが、その気配は、後半のキックオフ時からそこはかとなく漂っていた。ギリシャのカウンターにドイツはしばしば混乱。泡を食った。
カウンターと言っても、ギリシャのそれには深みと奥行きがある。3FWが幅を保ちながら構えているので、カウンターにありがちな単純さがない。味気なさもない。次への絡み、発展性が期待できるので、先細り感がない。04年のユーロを制した時も、これと同じようなサッカーだったが、それは人が言うほど、悪いものではないのである。
ピッチに描かれるデザインは、守備的サッカーを象徴するクリスマスリー型ではない。同点ゴールも高い位置でのボールのカットから、サイドをえぐり、中央で合わせた立体感のある攻撃だった。苦しまぎれの小狡(こずる)い作戦とは一線を画した、鑑賞に十分たえうるサッカーといえた。
その6分後、ドイツはケディラのボレーシュートで再びリードしたが、そこまでの6分間の攻防こそが、この試合のハイライトだった。ギリシャは先制ゴー ルを奪われても、少しも焦る様子はなかったが、ふたたびリードを許すと、さすがに少しばかり意気消沈。相手ボールの時にサボる選手をちらほら見かけるようになった。その後、ドイツに連続ゴールを許してしまった原因だ。
とはいえ1-4とされたあと、2-4に押し返したのは立派。スコア的にも大敗という感じはしない。次への自信に繋がる敗戦だったのではないか。0-2より2-4のほうが収穫は多い。僕はそう思う。
試合後、ギリシャサポーターは、応援団席に向かって挨拶する自国の代表に惜しみない拍手を送っていたが、それは傷をなめ合うような低レベルのものではなかった。
その満足度は、ドイツといい勝負なのではないだろうか。「美しい敗者」とは言い過ぎだが、ギリシャらしさだけは披露した。独特の匂いを十分アピールできたと思う。
弱小ギリシャに2ゴールを奪われたとはいえ、ドイツにも悪い印象は抱かなかった。少なくとも4年前のユーロ、2年前のW杯より上昇している。特に攻撃はバラエティに富んでいる。両ウイングがワイドに広く開き、立体感のある奥行きの深い攻撃をした。典型的なクリスマスツリー型を描いていた10年ほど前とはもはや180度別のサッカーだ。
守備的サッカーから攻撃サッカーへ。なにより見た目がパッとしている。短期間の間にここまで劇的な変化を遂げたチームも珍しい。隣国のライバル、攻撃サッカーを自負するオランダよりオランダ的。攻撃的といえる。そのうえバランスにも優れている。急傾斜のスタンドから、そのピッチに描かれるデザインを俯瞰で眺めると、それはよく分かる。
今大会に出場している16チームの中で、ドイツはやはり総合力という点で最も高そうだ。それに加えてモチベーションも高い。この試合では、弱小ギリシャに最大限の抵抗を許したが、それはギリシャを讃えるべきで、ドイツ自身の問題にはあらず、だ。メンバーを入れ替えて臨んだことも原因ではない。
準決勝の相手はイングランド対イタリアの勝者。ドイツ決勝進出の可能性は7割以上あると僕は思う。(スポルディーバ Web)