goo blog サービス終了のお知らせ 

アジアはでっかい子宮だと思う。

~牧野佳奈子の人生日記~

はじめての派遣体験

2014-12-08 | 2014年たわごと

また可笑しなことになってきた。

今日行った先は、ほぼ外国人専用の派遣会社。

そこからパチンコ台の製造工場に派遣されることになった。

 

親しくしている日系ブラジル人の友人が紹介してくれたのだけど、彼女が教えてくれたのはその派遣会社の人の携帯電話で、私は思わず「ブローカーじゃないよね?」と聞いてしまったくらい、最初は怪しんでいた。

それで1人になったら絶対に電話できない、と思い、彼女のいる前で電話した。

「あの、牧野と申しますが、バイトの紹介をしていただきたくで電話しました。…日本人でも働けますか?」

「はい、大丈夫ですよ。では面接をしますので10時に◯◯駅に来て下さい」

「…え? いつの?」

 

そんな会話の末、私は今日の朝10時に◯◯駅に降り立ったのです。

 

20分ほど待たされて、ようやく迎えの車が来た。

「よろしくお願いします」

と言って助手席に乗り込んだら、どこからかガタイのいい黒人さんが現れ、後部ドアを開けて乗り込んできた。

「あぁ、面接のお迎え、2人まとめてだったんですね…」

とその場の状況をすばやく理解。

運転手は日系ブラジル人のおじさんで、早速3カ国のインターナショナルな雰囲気に。

 

ブラジルおじさんと少し話し、彼が電話に出ている隙に黒人さんに挨拶した。

ウガンダ人で、日本歴は6年。

ガタイはでかいが顔は柔和で、日本人に負けず劣らずシャイそうな紳士に見えた。

 

そして派遣会社の事務所に到着。

室内はなかなか広く、入ってすぐに面接スペース、奥に事務スペース、間にしっかりとパーテーションが置かれている。

ブラジル人らしき男性が2人ほど手前と奥を行き来していて、私たちはそこに割り込むような形で別々のテーブルに着いた。

「これを書いて下さい」

と出された紙にプロフィールを記入していく。

名前、住所、連絡先、国籍、ビザの種類、既婚か未婚か、免許の有無、保険の有無、等々。

 

そのうちパーテーションの奥で、「ジャーナリスタ」とかなんとかという単語が聞こえた。

やばい…。

さっき運転手のおじさんに、普段はジャーナリストみたいなことをやっています、と言ってしまったんだ。

潜入取材だと思われたらどうしよう…。

 

用紙記入が終わった頃、私を担当してくれるらしいブラジル人の男性がやってきて、仕事内容などを説明し始めた。その時もう一人のブラジル人男性が来て、説明の輪の中に。と、更にもう一人オヤジ風の男性が来て、「え、どこに住んでんの?」などとブラジル人男性に聞きながら輪に加わった。

…え、何ですかこのシチュエーション?

ブラジル人男性2人はオヤジ風男性に席を譲り、そのうち私たちは2人きりになった。

その人こそが、どうやら社長らしかった。

ちなみに社長さんは日本人。名刺をいただき、はじめてその派遣会社の名前を知った。

 

「君、それで、今までどんな仕事してきたの?」

「取材をしたり、インタビューをしたり、ですね。つまりライターです。」

「だったらこういう仕事、できるかなぁ」

「…できませんかね?」

「こんな単純な作業、本当にできる?」

「いや、やったことがないので、できるかどうか分かりませんが…」

「営業の経験とかないの?」

「営業はないんです」

「君には、こういう仕事より、もっと知的な仕事の方がいいんじゃないかなぁ」

「いえ…、なんでも経験ですから…」

 

そんなこんなで、社長さんは“いいカモが来た”といわんばかりに、私を営業に回したがった。今は社長自らが営業に回っているが、最近は紹介が増えたためにそれほど飛び込みはないのだ、と。

「…でも私、仕事の内容よりもむしろ時間に制限がありまして…」

たとえば来週は月火しかダメ、再来週は月水しかダメ、と例をあげると、社長さんは「あぁ~それは無理だなあ」と一転して、「言っちゃ悪いけどね、君のような我がままをきいてくれるところは、基本的にないよ」とバッサリ言い捨てた。

 

わがまま、ねぇ…。

 

社長は私担当のブラジル人Aさんに向きを変えて「A君、どうだい?」と聞く。

A君「いえ、大高なら大丈夫です」とキリッと返答。

…おぅ、捨てる神ありゃ拾う神あり。

 

その大高にあるという工場は、時給950円で8時間労働、エアコン完備と好条件だそうだ。

社長はあっさり「そうか」と言って、給与の話や仕事内容について話を進め始めた。

外国人の派遣会社というと、私の偏見では悪質業者なイメージがモワモワっとしていたのだが、目の前にいる社長さんは実に明るく気さくな人で、社員らしきブラジル人たちにも親切そうだった。

「仕事先はいろいろあるけどね、中には上司になる人が厳しかったり、汚い言葉を使ったりするところもある。けどこちらはあまり文句もいえんからね。そんな時はその現場を辞めて、別のところに行ってもらってるんですよ」

 

ということで、次は早速ネジ締めの練習をしましょう、ということに。

上から電動ドライバーがぶら下がった台の前に立ち、Aさんが見本を見せてくれた。

なんだ、簡単じゃん。

と思ってやってみると、ネジが小さくてAさんのようにはいかない。

「右手はこう、左手のネジはこうやって持って」とAさんの指導が入る。

「右手はあまり動かさない。ネジは常に次のものを用意して…」どんどん指導される。

「僕のをもう一回見てください」…だんだん容赦なくなってくる。

 

単純作業って、難しいかも…。

 

頭ではどうやればいいか(完璧に)分かるのに、なかなかその通りにはいかないもどかしさ。

特に左手でネジを次々と出していくのが、滑ってしまったりネジが逆さになってしまったりで上手くいかない。

「あぁーん…」とか「いぃー!」とか「むずー!」とか、要らぬ声が事務所に響く。

 

「じゃあ、10本を30秒でやってみましょうか」

AさんがiPhoneのストップウォッチを出してきた。

ついにそうきたか…、と勇んで臨む。

1回目35秒、2回目33秒、3回目34秒、4回目43秒、5回目56秒。

一端焦り出すとどんどん手は滑り、集中力も欠けてモタモタしてしまう。

それに比べてAさんは、スタートから余裕のヨッチャンで26秒だった。

…すごい。

 

帰り道、ウガンダ人の彼と名古屋駅まで一緒になった。彼が派遣される先はパチンコ工場ではなく、車の部品工場になる予定らしい。

電車の中で「僕もあれ、やったことあるよ」とおもむろに彼が言うので、「そうなの。難しいね」と返すと、「左手をこうしたらいいんだよ」と左手の動きをやって見せてくれた。きっと不器用な私の姿を隣で見ていて、自分もアドバイスしたくなったんだろう。

「そうそう、頭では分かってるのよ…」と私は笑って、軽く溜め息をついた。

「明日が心配。」

「大丈夫だよ。だけど工場では、こうやってラインに並んで次々とネジを打っていくんだ。だから1人がもたついたら後ろまでずっと止まってしまうんだよ」

「えぇ!そうなの!」

 

明日は7時20分集合、8時15分開始。

一体どうなることやら。

 

また報告します。

 


着ることは、生きること?

2014-12-08 | アフリカの旅

コンゴ共和国の紳士「サプール」を紹介する番組を観た。

NHKオンデマンド:http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2014059592SC000/index.html?capid=sns003

 

月収2~3万円の暮らしをしている普通の男たちが、週末になるとブランドもののスーツに身を包んで通りを闊歩する。こどもたちはそれを憧れの眼差しで眺め、大人たちは自分の町のヒーローとして賞賛する。
服にかけるお金は収入の3~5割。それでも「これは文化だから」と家族も誇らし気に見守る。

そんな内容。

 

感動的な言葉がいくつもあった。

「サプールは暗闇を照らす明かりのような存在」

「着飾ることで品位が身に付き、心も豊かになる」

「着飾っている時は幸福感がある。頭の中から馬鹿げた考えがなくなる。悪いことをしたり、誰かを罵ったり、無礼なことをしなくなる」

「金持ちの家に生まれなくても、楽しみは自分で見出せる」

「サプールは平和主義を貫く者。服こそが己を主張する武器である」

「人から見られていることを意識して、常に前を向くこと。美しい所作があってこそ、人を惹き付けられる」

「サプールは、相手がライバルであっても尊敬しなければならない。それは自分も尊敬される存在でなければならないということ」

「サプールが怯えたり悲しがったりしてはいけない。自分を信じて、不安がらず、男として勇敢な振る舞いをすること」

「着飾るとは、誇りをもつこと」

 

そして最も感動的なシーンは、一番弟子がサプールデビューする日にスーツを買ってあげる師匠の言葉。

3年間無償で服のコーディネイトや紳士の心得を教え、デビューの日には4万円もするジャケットを身銭を叩いて買い与える師匠に、「なんでそこまでするんですか?」と尋ねる漫才師の大地洋輔さんに、こんな言葉が返ってきた。

「そこから、この国の将来が生まれると思うんだ。この国には若者が必要なんだよ」

 

…もうそれだけでも充分ジーンとくるのだけど、大地さんは更に尋ねる。「どうしてそこまでできるのか?」と。そしてこの返答。

「それが美学なんだよ。愛情であり、平和なんだ」

「愛情があるなら、大人はいい習慣やいい行いを見せてあげるべきなんだ」

「いい服はいい習慣を生み、それで人はまた成長できるんだ」

 

もう、ガツーンって感じだった。

 

サプールという文化は、こどもや青年たちの憧れをつくり、人としてのモラルを教え、町のヒーローとなって人々の誇りを高めている。そしてそれを担う男たちは、全て自費でまかなうばかりか持ち出しで後継者を育て、文化という名の平和を未来につないでいるんだ。

そしてその土台にあるのは、愛情なのだという。

 

本来なら、彼らの役割は政治家であるはずなんだろうなぁ、と画面を見ながら思った。

1960年に独立したばかりのコンゴではきっとまだそれが難しい。

だけど日本だったら、本来の政治家はそういう町のヒーローであるべきなんじゃないかって。

 

ちなみにサプールという文化は、フランス植民地時代にヨーロッパ服の気品と清潔感に憧れたコンゴの人々が、独自の色彩を加えて楽しむようになったのが始まりだという。

「好きな色を選ぶことで自由を表現している」と、自らもサプールだという経済大臣は言う。

 

アフリカの、根本的なたくましさと遊び心が、愛おしい。

 

番組の中で、こどもたちが大地さんのコメントを嬉しそうにリピートしているのが微笑ましかった。

「全然ダメだったよ!」「これはヤバい!」

 

…そうやってすぐに真似できちゃうんだぁ。すごいなぁ~。

 

日本も和洋折衷をつくり出すのが上手だといわれる(もしくはそう思っている)けれど、それを誇りに変えるところまではなかなか難しい。

「愛国」ということすら、教科書で政府見解を教え込む、なんて意味不明な方法でしか高められない現状ですから。

 

そしてはたと思う。

私も、週末くらいはお洒落して出かけてみようかしら…。

ジャージにトレーナーでコンビニ行って1日終わり、とか、コンゴの男性が見たら零点なんだろうなぁ…自分。

深く反省して、上記の言葉リストを見直した。

 

「いい服はいい習慣を生み、それで人はまた成長できるんだ」

 

…重い。…重すぎるぞ、今の私には。