猫が嫌いだと言う人には、とても理解出来ないことかもしれない。
だが猫の肉球ほど気持いい感触のものは他にないと思う。
きゅっと押して、爪を出して遊んでみたり、とにかく飽きない。
私は過去に2度ほど猫を飼った経験がある。
いずれもオスで、生後1年を過ぎた頃、大人になって旅立ってしまった。
繁殖期になると、オス猫は思いもかけないほど遠出してしまい、戻ってこられなくなるらしい。
強いネコがいるテリトリーを避けて旅するので、迷うのだろう。
2度とも、自転車でずいぶん探し回ったりしたが、見つけ出すことは出来なかった。
この悲しい経験以来、猫を飼うのをためらっている。
別離の悲しさはどの動物でも同じだから、他の動物も飼っていない。
街中で猫を見つけると、ついつい声をかけ、人懐こい猫が寄ってくると、しばしその柔らかい毛の感触を楽しんだり、喉がごろごろ鳴る音を懐かしく聞いたりしてる。
だがさすがに余所の猫の肉球で遊ぶことは出来ない。
あの気持ちのよい感触を、もうずいぶん長いこと味わえないでいる。
カメラを持ち歩くようになってからは、猫を被写体にすることが多くなった。
通勤路には2匹、馴染みのネコがいる。
少し遠回りして、親子やら兄弟やらの野良猫が住み着いている住処を訪れることもある。
毎週通っているテニスクラブにも、2匹の野良猫がうろついてる。
最初はカメラに警戒する彼らも、慣れてくると怪しい武器じゃないことをわかってくれる。
一番困るのは、低い姿勢でカメラを構えるので、膝に乗られてしまうことだ。
近すぎて撮れないのだ。
猫は忠誠心を持たない動物だ。
犬のように、飼い主が世界の中心だとは思ってくれない。
大人になるとじゃれることもなくなり、家にいるときは大抵眠っている。
そしてその小さな体に思い切り寄り添うと、信じられないほど早い呼吸音が聞こえる。
心臓があんなに早く動くから、猫の時間は人の何倍もの速さで過ぎて行くのだろう。
1分が1時間に、もしかしたら1時間が1日に。
人間とはまったく違う時間を生きている小さなこの生き物を、人間が完全に理解することは、きっと不可能なんだと思う。
2004/8/23