シッピングニュース[Shippingnews] 2001年作品 アメリカ
監督:ラッセ・ハルステレム
出演:ケビン・スペイシー、ジュリアン・ムーア
私が今最も愛する映画監督であるラッセ・ハルステレムの作品。
なんだけど、どれを選ぶかかなり迷った。
「ギルバート・グレイプ」「ショコラ」「サイダーハウスルール」
どれをとってもいい!
ま、これらの作品についてもいずれは語ろうかなと思ってるが、今回はこれ。
某深夜TV番組(虎ノ門)で「品川庄司」のツッコミ担当庄司クンが「ショッピングニュース?」と発言。
ボケの品川さんに「誰がおまえの買い物情報なんか知りたがるよ」と強烈なツッコミ返しをされる。
照れ笑いで「天然出ちゃった」の忘れられない名言を残してくれた庄司クンの思い出が蘇る作品。
まるっきりの余談・・・。
もちろんショッピングニュース(買い物情報)ではなく、シッピングニュース(港湾便り)が正解です。
私がハルステレム監督を敬愛する最大の理由は、彼の映画が常に「さすらい」と「定住」をテーマにしているからだ。
現状に満足できないもの、閉塞的な環境からの逃亡を夢見るもの、一箇所に腰を落ち着けることができないもの。
彼らがさまよい、やがて自分の本当の「住処」を見つけ出す。
それは元の環境だったりすることが多いんだけど、さすらい、自らが変化することで、彼らはまったく別の視点から自分の環境を見つめ直し、そこに定住する。
「良い・悪い」の判断ではなく、「縛り付けられている環境」からの逃亡を諦めるのでもなく、自らが進んで「定住」を決意する。
ハルステレム監督はスウェーデン人だ。
まったくの独断ではあるが、彼はまさしくヴァイキングの血を濃く引継いだスウェーデン人なのだと思う。
ヴァイキングは冬になると闇に閉ざされる不毛な土地から脱出を試み、海原(陸のほうが多いんだけど)をさまよい、別天地を見つけ、そこに定住する。
ちっぽけな船で、厳しい外海に乗り出した彼らの中で、無事別天地に辿り着けるのは10%程度でしかない。
彼らは死を賭した旅をして、さすらい、定住する。
ハルステレム監督は現代のヴァイキングたちのドラマを撮っているのではないだろうか。
以下ネタバレ注意!
さて、「シッピングニュース」
「ユージュアル・サスペクツ」のヴァーバル役で渋い演技と存在感を見せ付けてくれたケビン・スペイシーがいい。
この「冴えない中年のおっさん」という形容詞がぴったりのスペイシーだからこそ、前半の呆れ果てるまでの情けない人生も、「まあ、そんな人もいるだろう」と思わせてしまう。
なにが情けないって、仕事は長く続かない。
偶然に結ばれ、偶然に子供が出来、偶然に結婚した美人の妻ペタルにも、とことん裏切られる。
ペタルは娘バニーを売り飛ばした金で男と逃亡中、事故で死んでしまう。
なのにこの男・クオイルは妻の死を嘆き悲しむのだ。
クオイルが何故ここまで情けない男なのか。
簡単に言ってしまえば、父親との関わりがトラウマになってるからだ。
泳げない息子を海に投げ入れ、「泳げ!」と命じる。
それで泳げるようになる子供もいるのだろうが、恐怖に縛られたクオイル少年は泳ぐどころじゃない。
危うく死に掛けたのに、父親は息子を罵る。
「おまえはダメな奴だ」
この言葉が、クオイルの人生を縛り付ける鎖になった。
「ダメだ!バカだ!」と言われ続けると、人間「ダメでバカ」になりきってしまう。
どんなにもがいても、クオイルは自分の人生を上手く泳ぐことが出来ず、「ダメでバカ」な男でい続けるのだ。
だが妻の死を切っ掛けに、クオイルにもさすらう時がやってくる。
同時期になくなった父親の「異父妹」アグニス(ジュディー・デンチ)が彼の元を尋ねてきたのだ。
クオイルは見ず知らずの伯母と共に、父親の生まれ故郷であるニューファーランド島へ旅立つ。
そこで彼は新聞社に雇われ、シッピングニュースを書くようになるのだが。
この新聞社の社長ジャックが、まるで理想の父親だ。(実の息子とはうまく行ってないのに)
死んだ父親が「ダメでバカ」と決め付けたクオイルを、「やれば出来る」方向に導く。
人間期待され、ほめられ、「おまえなら出来る」と励まされると、かなりのことまでやってしまうものだ。
子供の教育に悩んでる人は、是非こっちの方法をお勧めしたい。
どうにか自分の人生の海(まだ浅瀬だが)を泳ぎ始めたクオイルを大きく変えたのは、自分と同じように不幸な結婚生活を送ってきた未亡人ウエイビーとの出会い。
そして本物の海でボートが転覆し、自力で泳ぎ、クーラーボックスにしがみついて生き延びた経験だ。
「やれば出来る!」
そう信じ始めたクオイルは、長いこと彼を縛り付けていた父親の呪文「ダメな男」からやっとのことで解放されるのだ。
スパイシーの相手役のウエイビーを演じるのジュリアン・ムーアが、まったくのすッピンなのにメチャきれいだ。
ウエイビーもまた夫に裏切られ逃げられた真実を隠して、漁に出たところを嵐に遭い死亡したことにしてる、自分の人生ときちんと向き合えないダメ女。
(あまりきれいすぎて、ダメに見えないところが欠点)
この二人の大人の、あまりに不器用な恋愛がかわいらしい(と思わず言ってしまう)。
アグニス役のジュディー・デンチ(この人しかいないって感じ)もいい。
彼女もまた傷つき、さすらい、過去に向き合って人生を変えようとしているひとりだ。
ニューファーランド島の、いいとこだけを取り上げたロケーションも素晴らしい!
「クオイル家の秘密」とか、ドラマの味付けは他にもあるのだが全部は書き切れない。
「ダメだ」と決め付けるのは、子供を「ダメ人間」にする早道。
だけどもしそう言う親の元で育ってしまったら、旅に出て、さすらい、自力で泳ぐ方法を覚えるしかない。
なにもニューファーランド島までいかなくても、さすらうことは簡単に出来る。
私もまだ、「定住」できる土地を求めて、さすらっている。
時には命を懸けて、さすらってみる。
そんなことを考えさせられた映画だった。
(これは以前別の日記に発表したものです。読んだことがある方はごめんなさい)
監督:ラッセ・ハルステレム
出演:ケビン・スペイシー、ジュリアン・ムーア
私が今最も愛する映画監督であるラッセ・ハルステレムの作品。
なんだけど、どれを選ぶかかなり迷った。
「ギルバート・グレイプ」「ショコラ」「サイダーハウスルール」
どれをとってもいい!
ま、これらの作品についてもいずれは語ろうかなと思ってるが、今回はこれ。
某深夜TV番組(虎ノ門)で「品川庄司」のツッコミ担当庄司クンが「ショッピングニュース?」と発言。
ボケの品川さんに「誰がおまえの買い物情報なんか知りたがるよ」と強烈なツッコミ返しをされる。
照れ笑いで「天然出ちゃった」の忘れられない名言を残してくれた庄司クンの思い出が蘇る作品。
まるっきりの余談・・・。
もちろんショッピングニュース(買い物情報)ではなく、シッピングニュース(港湾便り)が正解です。
私がハルステレム監督を敬愛する最大の理由は、彼の映画が常に「さすらい」と「定住」をテーマにしているからだ。
現状に満足できないもの、閉塞的な環境からの逃亡を夢見るもの、一箇所に腰を落ち着けることができないもの。
彼らがさまよい、やがて自分の本当の「住処」を見つけ出す。
それは元の環境だったりすることが多いんだけど、さすらい、自らが変化することで、彼らはまったく別の視点から自分の環境を見つめ直し、そこに定住する。
「良い・悪い」の判断ではなく、「縛り付けられている環境」からの逃亡を諦めるのでもなく、自らが進んで「定住」を決意する。
ハルステレム監督はスウェーデン人だ。
まったくの独断ではあるが、彼はまさしくヴァイキングの血を濃く引継いだスウェーデン人なのだと思う。
ヴァイキングは冬になると闇に閉ざされる不毛な土地から脱出を試み、海原(陸のほうが多いんだけど)をさまよい、別天地を見つけ、そこに定住する。
ちっぽけな船で、厳しい外海に乗り出した彼らの中で、無事別天地に辿り着けるのは10%程度でしかない。
彼らは死を賭した旅をして、さすらい、定住する。
ハルステレム監督は現代のヴァイキングたちのドラマを撮っているのではないだろうか。
以下ネタバレ注意!
さて、「シッピングニュース」
「ユージュアル・サスペクツ」のヴァーバル役で渋い演技と存在感を見せ付けてくれたケビン・スペイシーがいい。
この「冴えない中年のおっさん」という形容詞がぴったりのスペイシーだからこそ、前半の呆れ果てるまでの情けない人生も、「まあ、そんな人もいるだろう」と思わせてしまう。
なにが情けないって、仕事は長く続かない。
偶然に結ばれ、偶然に子供が出来、偶然に結婚した美人の妻ペタルにも、とことん裏切られる。
ペタルは娘バニーを売り飛ばした金で男と逃亡中、事故で死んでしまう。
なのにこの男・クオイルは妻の死を嘆き悲しむのだ。
クオイルが何故ここまで情けない男なのか。
簡単に言ってしまえば、父親との関わりがトラウマになってるからだ。
泳げない息子を海に投げ入れ、「泳げ!」と命じる。
それで泳げるようになる子供もいるのだろうが、恐怖に縛られたクオイル少年は泳ぐどころじゃない。
危うく死に掛けたのに、父親は息子を罵る。
「おまえはダメな奴だ」
この言葉が、クオイルの人生を縛り付ける鎖になった。
「ダメだ!バカだ!」と言われ続けると、人間「ダメでバカ」になりきってしまう。
どんなにもがいても、クオイルは自分の人生を上手く泳ぐことが出来ず、「ダメでバカ」な男でい続けるのだ。
だが妻の死を切っ掛けに、クオイルにもさすらう時がやってくる。
同時期になくなった父親の「異父妹」アグニス(ジュディー・デンチ)が彼の元を尋ねてきたのだ。
クオイルは見ず知らずの伯母と共に、父親の生まれ故郷であるニューファーランド島へ旅立つ。
そこで彼は新聞社に雇われ、シッピングニュースを書くようになるのだが。
この新聞社の社長ジャックが、まるで理想の父親だ。(実の息子とはうまく行ってないのに)
死んだ父親が「ダメでバカ」と決め付けたクオイルを、「やれば出来る」方向に導く。
人間期待され、ほめられ、「おまえなら出来る」と励まされると、かなりのことまでやってしまうものだ。
子供の教育に悩んでる人は、是非こっちの方法をお勧めしたい。
どうにか自分の人生の海(まだ浅瀬だが)を泳ぎ始めたクオイルを大きく変えたのは、自分と同じように不幸な結婚生活を送ってきた未亡人ウエイビーとの出会い。
そして本物の海でボートが転覆し、自力で泳ぎ、クーラーボックスにしがみついて生き延びた経験だ。
「やれば出来る!」
そう信じ始めたクオイルは、長いこと彼を縛り付けていた父親の呪文「ダメな男」からやっとのことで解放されるのだ。
スパイシーの相手役のウエイビーを演じるのジュリアン・ムーアが、まったくのすッピンなのにメチャきれいだ。
ウエイビーもまた夫に裏切られ逃げられた真実を隠して、漁に出たところを嵐に遭い死亡したことにしてる、自分の人生ときちんと向き合えないダメ女。
(あまりきれいすぎて、ダメに見えないところが欠点)
この二人の大人の、あまりに不器用な恋愛がかわいらしい(と思わず言ってしまう)。
アグニス役のジュディー・デンチ(この人しかいないって感じ)もいい。
彼女もまた傷つき、さすらい、過去に向き合って人生を変えようとしているひとりだ。
ニューファーランド島の、いいとこだけを取り上げたロケーションも素晴らしい!
「クオイル家の秘密」とか、ドラマの味付けは他にもあるのだが全部は書き切れない。
「ダメだ」と決め付けるのは、子供を「ダメ人間」にする早道。
だけどもしそう言う親の元で育ってしまったら、旅に出て、さすらい、自力で泳ぐ方法を覚えるしかない。
なにもニューファーランド島までいかなくても、さすらうことは簡単に出来る。
私もまだ、「定住」できる土地を求めて、さすらっている。
時には命を懸けて、さすらってみる。
そんなことを考えさせられた映画だった。
(これは以前別の日記に発表したものです。読んだことがある方はごめんなさい)
大分前の放送なので、覚えていらっしゃるとは驚きました。
今度いらっしゃることがあったら、ぜひHNを教えてくださいね。
ブログがあったら遊びに行きます。
もちろんファンです!
もし品庄についてあれこれおしゃべりしてみたいななんて気持ちがおありでしたら、こちらをご覧になってください。
コアな品庄ファンが集まって、メールのやり取りをしてます。
もちろん怪しげなところはいっさいありませんよ!(私も入ってます)
http://members2.tsukaeru.net/shinasho/
私が最初に見たのは「ギルバート・グレイブ」でした。
それからスウェーデン時代の「やかまし村の子供たち」をDVDで見つけて、もう感動でしたね。
リンドグレーンは子供の頃に一番好きだった作家なので。(いまだに台詞部分で影響されてます)
その世界を忠実に再現してくれたハルステレム監督に、もう夢中になりました。
「ショコラ」も大好きです。ジョニデがカッコよ過ぎる~!