勝手にお喋りーSanctuaryー

マニアックな趣味のお喋りを勝手につらつらと語っていますー聖域と言うより、隠れ家ー

シェフマークははなむけの言葉

2006-07-09 | TVや舞台やスポーツのお喋り
ドイツワールドカップも、ついに決勝戦を残すのみとなった。
地元ドイツはセミファイナルで敗れ、8日21時(現地時間)に3位決定戦を行った。
開催国優勝を目論んでいたドイツにとっては、力の入らない3位決定戦かもしれない。
私も録画でいいかなと思いながら、ついつい明け方の4時にTVを見始めた。

大会前から膝を故障しているバラックは、この1戦を欠場した。
彼のワールドカップは、準決勝敗退で終わりを告げたのだ。

だがゴールを守っている12番を見た時、私の心が再び熱くなった。
4年前の思い出がふつふつと蘇ってくる。
世界1のゴールキーパー・カーンがピッチに戻ってきたのだ。

この4年間、カーンの身にはいろいろな事件が降りかかった。
だがゴール前に佇む姿は、ドイツの守護神であった頃と何一つ変わっていなかった。
東欧風の顔立ちのバラックと違い、まさにゲルマン民族そのものであるカーンの風貌は、金色の獅子のように見えた。

この大会でゴールを守りきり、若いクリスマン監督の決断の正しさを証明したレーマンが言ったそうだ。
「カーンにもピッチに立つ権利がある」
この言葉がどの程度の影響力を持つかは知らないが、さすがのクリスマン監督も、カーンに代表引退への花道を作ってやる気になったのだろう。

カーンの動きは全盛時代と変わっていない。
だがカーンがボールに触れるたび、サポーターからは過剰の声援と拍手が飛ぶ。
みなわかったいるからだ。
これがドイツのゴールを守るカーンの最後の姿になると言うことが。

後半11分、シュバインシュタイガーのミドルシュートが決まる。
シュバインシュタイガーはイタリア戦の先発から外れていた。
体調の問題と言うが、アルゼンチン戦の出来が良くなかったことも確かだ。
敗れた後、ピッチに倒れこんだまま、最後まで起き上がることが出来なかったシュバインシュタイガー。
彼の無念の思いは、この3位決定戦で爆発した。
まだ若い彼は、今後のドイツを背負っていくことになるのだろう。

試合終了のホイッスルが鳴ると(主審は日本人の上川さん)、カーンは一人ひとりを抱き寄せ、その健闘を讃えた。
内心どんな思いを抱いていようと、勝てば誰でも嬉しい。
カーンの顔もピッチ上とは打って変わった穏やかさだ。

そしてその間バラックは、ひとりでじっとその様子を見つめていた。
死力を尽くして戦ってきた準決勝戦まで、その左腕に付けられていたシェフマークを、バラックはこの日カーンに譲ったからだ。
仲間の健闘を讃えるのもシェフ(キャプテン)の務め。
だからバラックはひとりでいた。

仲間の姿を見つめるバラックの顔には、何とも言えない優しい笑みが浮かんでいた。
彼の戦いはとっくに終わっていたのだ。
この日はベンチにいても、彼はひとりのサポーターでしかなかったのだ。
カーンに譲ったシェフマークは、優勝トロフィーを受け取ることが出来なかったバラックの、カーンに対するただひとつのはなむけの言葉だったに違いない。
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