このまま君を抱きながら
白い世界に包まれて朽ち果てるまで。
怠惰な時を刻みつつ、湿り気を帯びた愛撫を受ける。
永遠はまだ遠いから。
燃え尽きる前に冷えて消えてなくなる。
あなたはまた新しい刺激へ向かっていってしまうから。
あたしにとって愛なんて。
そんなもんだ。
当時、絹さんはいつも店先でテレビを見ていた。
煙草を買いに行くとすこしだけ話をする。
孫がどうの。天気がいいの。他愛もない世間話。
何回か通ううちに顔を覚えてくれていた。
ある日、店に行くと彼女が居ない。
「すみません」と奥に声をかけると、ちょっと危なっかしい足取りで店先に降り、あたしの顔を見るなり。
「きぬって言うのよ。」
最初は分からなかった。怪訝そうなあたしの顔を見つめて彼女は微笑んで
「次からはきぬさんって呼んでね」
お互いに名前を名乗り、次からは「きぬさん」と「あくあさん」の関係になった。
きぬさんの旦那さんはとても物静かな人でいつも二言三言の言葉しか聞いた事がなかったそうです。
そしてきぬさんを呼ぶときも「おい」としか言わなかったそうです。
「もしかしたらあたしの名前なんて、忘れてしまったのかもしれないわね。」
そう微笑んだ絹さんはなんだかすこし遠くのほうを見つめていたような気がします。
「おい」と呼ばれ「はい」と答えれば何でも通じてしまう仲。
そんな仲もいいのかもしれません。
ただ、きぬさんの見た先は何か少しくぐもって取り戻せない時間をなぞっていたような気持ちがしました。
通うようになって気がついたのは、ご近所の人はもちろん、家族の方も彼女のことを「きぬさん」と呼びます。
「自分の名前だけど、この歳になったら忘れてしまうかもしれないでしょう。」
笑って言うきぬさんのこの言葉は、なぞった時間の中で求めた答えの照れ隠しのようでなんだか切なかった。
うちではぱぱんが「おい」と呼ぶと、ままんは「はい」と答え、あたしは「あい」と答えていた。
なんでもない日常の中、「おとうさん」「おかあさん」「彼」「彼女」「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」「おじいちゃん」「おばあちゃん」・・・
そう呼ばれる人はたくさんいる。だれでもかれでも当てはまる。
あなたはあなたという人しかいないのに。
あたしもあたしという人しかいないのに。
どんなに長く連れ添っていても、「おとうさん」「おかあさん」になったとしても。
たまにはお互いが一緒にいるかけがえのない人なんだと思えるように、少し照れても名前を呼べる。
そんな仲で居たいなと思います。
昔の話、「ねぇ」としか呼ばない彼にはあたし以外の人がいた。
ずっと知らないふりをしていたけれど。
ベッドの中で、しかもイク時に違う名前で呼ばれた日、「とぼけたほうがいいかしら」と真剣に悩んだあたい。
別れるときに「最後に名前を呼んでもらえますか?」とお願いしてみた。
彼の呼んだ名前は、これまた別の名前でしたわ♪
笑ってありがとうと答えたけれど、結構凹んだ恋でした。
今度もし、パートナーが出来たとしたらたまにでいいので、
さんづけでもちゃんづけでも呼び捨てでもなんでもいいから『忘れないうちに』名前で呼ばれてみたいなぁと思います♪
あげはねぇの『
人の弱みは蜜の味』に虎♪