この作家のデビュー作『夜市』(良い血、と変換されて、我ながらびっくりした。)を読んだとき、この先、この人の作品をずっと読んでいくことになるかもしれないと思ったことを思い出します。
ほんとにそうなりました。
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月夜の島渡り
著者:恒川光太郎
発行:KADOKAWA/角川書店
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追いかけているほどではないにしても気にはしているので、この本を書店の店頭でみた時には、ちょっと驚きました。
いきなり文庫?
単行本に気がつかなかったぞと思ってみてみましたら、なんのことはない、単行本の時はタイトルが違っていたようです。
幽BOOKSから出ていた『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』。
表紙を載せないのは気持ち悪いから。
この表紙では気づかない…というより、見なかったことにしたのかもしれません。記憶から消去。
表紙って大切ですわねー。
というわけで、タイトルが変わったことで無事読むことができたこの1冊。
物語の舞台が沖縄に限定されています。
不思議への入り口がすぐ隣にぽっかり開いている、怪かしもすぐ隣に座っているような作品を描くこの方にはぴったりの舞台に思えます。
もともとが怪談短篇集ですので怖いには違いないのですが、グロくありません。
でも、いままでに読んだ作品と比べて、ふと心惹かれて、自らついていってしまうような美しさがなかった気がします
もしかしたら、美しさに目がいかないほど、物語の風景の中に魔が溶け込んでしまっているのか、それとも、今までの「異界」を思わせる怪異ではなく、人の世界からそのまま生まれた魔であるからか。
相変わらず文章はすっきりと美しく、するするとなんの抵抗感も抱かずに読まされてしまったのですけれども。
収録作品は「弥勒節」、「クームン」、「ニョラ穴」、「夜のパーラー」、「幻灯電車」、「月夜の夢の、帰り道」、「私はフーイー」7つ。
好きだったのは、人の魂を送り、また呼びもする胡弓の音が響く「弥勒節」。
それと、「月夜の夢の、帰り道」でした。
描かれるのは人の生きる時間の綾の中に光が見えるような、少年少女の夏休みの一場面。ほんの一瞬。でもきっとそれは一生を支えるのです。
書名は作品のタイトルそのままではなく、物語の舞台となる島々を渡っていくというイメージなのでしょう。
これで、島が七つ。もし百の島を渡ったら…などという連想も湧いてきます。
渡り終えたら、お墓というお墓がすべて開いて、ひそんでいた何かが出てきてしまいそうです…。
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