決して心あたたまらない、けれど、つい夢中になってしまった短編集。
壜の中の手記
著者:ジェラルド・カーシュ
訳者:西崎 憲・ 駒月 雅子・吉村 満美子・若島 正
発行:角川書店
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収められているのは、奇妙なお話が12。
『豚の島の女王』、『黄金の河』、『ねじくれた骨』。
『凍れる美女』、『骨のない人間』、『壜の中の手記』。
『ブライトンの怪物』、『破滅の種子』、『壁のない部屋で』。
『時計収集家の王』、『狂える花』、『死こそ我が同志』。
まずは、いろいろな予備知識や先入観を持たずに読んだほうがおもしろいと思うのです。
たとえば、『時計収集家の王』。
これは、カーシュさんが「ポメルが私に語ったような秘密は、どうしても誰かにもらさずにはいられなくなる。」とカーシュさんが書き出して、「どうです、かなり奇想天外な話だったでしょう。そうでもないですか?では少しだけ変わった話、ということにしますか。それならいいですって?」とポメルさんが終わらせるのです。
表題作『壜の中の手記』は、入り口と思しき突起の3つついた、用途のわからない壜状の発掘品のなかにあった紙片が発端。
それは失踪した作家の絶筆か?!というお話。
彼の最後に何があったのか。
気になる。
気になるから読んだのですが、驚けるかどうかは人によると思います。
でも、全然驚かなかったと言うのは、ちょっと、後出しじゃんけんのような感じかも。
ひとつめの短編『豚の島の女王』などは、タイトルからしてでなんだか凄惨なイメージをもって読み始めましたが、意外なことに悲しい寓話でありましたし、『骨のない人間』はそう終わるかという感じ。
一番意表を突かれ、つながりの予想もまるでつかなかったのは『ブライトンの怪物』。
驚いた後、読後にじわりと苦さがわきます。
思い返すと、どれもこれも印象深くて、案外、表題作の影は薄いような…。
どうしても『注文の多い料理店』を連想してしまうからかもしれません。
誰かが語るウソかホントかわからない体験談を聞きながら、ウソでしょうと思うのは突拍子もないことだから。
そして、心のどこかで、似たようなことがホントにあるかもと思うのは人の気持ちのいやなところを絶妙につついてくるから。
皮肉な可笑しさがあって、苦い。
この後に残る苦味が、癖になります、奇妙な物語は。
[読了:2012-10-03]
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