ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

全部が「浅倉久志 訳」。【きょうも上天気 SF短編傑作選】

2012-12-03 | 角川書店
 
ご本人のことは存じ上げないけれども、目に馴染みのある名前というものがいくつかあります。
「浅倉久志」という四文字の並びはまちがいなくその常連です。
場合によっては、訳者から作品の雰囲気を推し量ったりしてしまいますものね。

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 きょうも上天気 SF短編傑作選
 訳者:浅倉久志
 編者:大森 望
 発行:角川書店
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おさめられているのは9編。

『オメラスから歩み去る人々』 アーシュラ・K.ル・グィン
『コーラルDの雲の彫刻師』 J.G.バラード 著
『ひる』 ロバート・シェクリイ 著
『きょうも上天気』 ジェローム・ビクスビイ 著
『ロト』 ウォード・ムーア 著
『時は金』マック・レナルズ 著
『空飛ぶヴォルプラ』 ワイマン・グイン 著
『明日も明日もその明日も』 カート・ヴォネガット・ジュニア 著
『時間飛行士へのささやかな贈物』 フィリップ・K.ディック 著

このSF短編のアンソロジーの肝は、何と言っても、これらの作品がたった一人の翻訳家の仕事だということ。
あとがきによると、浅倉久志さんは600以上ものSF短編を翻訳されているのだそうで、もし、改めてお仕事の一覧をみることがあれば、ああ、あれもこれもそうだったと懐かしくなりそうです。
私ですらそうなのですから、年季や気合の入ったSFファンの方にとっては思いもひとしおでしょう。あとがきは、愛され、信頼された先達であった浅倉さんをしのぶ言葉にあふれています。

9作には、翻訳家・浅倉久志さんがこよなく愛した作家たちの作品と、有名どころの作品、そして浅倉さん好みの作品が選ばれたとのこと。
むむ、なるほど。
このなかで、はっきりと読んだ記憶がある作品は、ディックとカート・ヴォネガットくらい。
他は、発表年度が古いものが多いためだけでなく、いずれも古典の匂いがする感じです。
はずれのない確かさがあるというか、ああ、こういうところから、SFって始まったんだなぁと思うような。
たとえば、不老不死の薬が開発されました、とか、見慣れぬ金貨を持った男はこれを元手に投資をしたいと言いだす、とか。未来への期待と疑いに満ちています。
読んだこともないのに懐かしいような気分になったのは、その古典の雰囲気と、やはり翻訳家の味のためでしょうか。
名前を意識していたかどうかは別にして、翻訳ものの読み始めはSF。
覚えてはいませんが、最初の一冊が浅倉さんであってもおかしくはないのですから。
そう考えると、私の「翻訳もの」に対しての印象をつくったのは、浅倉さんの作品だったのかもしれません。

それにしても、たったひとりの翻訳家のお仕事の中だけで編まれたアンソロジーで、こんなに読み応えがあるってすごいですよねぇ。










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