ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

ウィリアム・J. パーマー【文豪ディケンズと倒錯の館】

2010-12-12 | 新潮社
 
なんというか、タイトルの言葉の並びに意表を突かれて、つい手にとってしまった本です。
妙な取り合わせですよねぇ。印象としては。

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 文豪ディケンズと倒錯の館

 著者:ウィリアム・J. パーマー
 発行:新潮社
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ウィルキー・コリンズの書いた、チャールズ・ディケンズとともに体験した冒険についての回想録が発見、出版されたという設定の本。
新進作家が師匠筋の大文豪と一緒に殺人事件の解決に奔走する顛末が、文豪の葬儀の後を振り出しに描かれます。
あれですね、たとえば、夏目漱石が探偵よろしく事件を解決とか、実はホームズに出会っていましたとか、ああいう趣向。
原題は「THE DETECTIVE AND MR.DICKENS」というそっけないものですが、邦題は読み終えてみれば、ああ、そうねぇ、というタイトルです。
こういうのって、舞台になる時代や人物にある程度馴染みがないとちゃんと楽しめないという類のもので、では、私はどうかというと、書いた人が想定した読者には達していなかったな、と。
「お、こんな人が出てきた」とにんまりしたり、びっくりしたりする気持ちがないとね、せっかくのタイトルも泣くというものでしょう。
申し訳なかったなぁ、と。
  
で、そういうことを抜きでどうかと言いますと、生の犯罪とは無縁だった紳士たちがその周辺の人々と出会う、言わば始まりの物語なので、登場人物たちがなかなか魅力的です。
ちょっと頭の固くて、律儀なウィルビー。
凄腕のフィールド警部。
元大泥棒で男前のタリ・ホー。
事件の目撃者の娼婦メグ。
ディケンズは一目惚れの真っ最中で、恋に落ちたシェイクスピアならぬ恋に落ちたディケンズ?
すでに不動の実績と名声を手にしているディケンズは怖いものなしですが、嫌味な人には感じません。
そういえば、みんながそんな感じかも。
あくが強くないというか。
終わりも、シリーズの始まりとして気持ちの良い感じです。
このさらっとした感じは、案外映画の原作としていいかもしれません。
美男美女とかインパクトのある俳優さんたちを配して、当時の風俗をみっちり映像化したらそれなりに見応えのある画面になると思います。
作りようによってはR18もありですね、「倒錯の館」だし。
女王陛下のイギリスの紳士たちが繰り広げる悪徳との鍔迫り合い、内なる葛藤をこれでもかと盛り上げるとそうなっちゃうかも。

シリーズは続刊。
本国では4冊目まで出版されているそうです。
日本では、えーっと、これだけみたいです。まだ…なのかな?
脇の登場人物たちのほうが主人公のディケンズよりいい感じなので、むしろこの先のほうが良さそうだとも思うのですけれど。






 

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