ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

筒井康隆編【70年代日本SFベスト集成1: 1971年度版】

2014-11-16 | 筑摩書房

70年代というと、私が本を読むことを意識する前…というか、自分のお金で本を買い始める前の時期。
1971年に限れば、本を読める歳じゃありませんが。
ざっと目を通した目次にある作家さんたちのお名前もがっつり読んではいなくて、たぶん、もうちょっとしないと、私にとってのおなじみ感は出てこないのよねという感じの顔ぶれです。
買ったのはベスト版に選ばれる星新一の作品って何かしらという純粋な興味と、単純に『美亜へ贈る真珠』が選ばれているのが嬉しかったからです。

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 70年代日本SFベスト集成1: 1971年度版

 編者:筒井康隆
 発行:筑摩書房
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収録作品は次のとおりの11篇。
◇『農閑期大作戦』半村良 著
◇『真昼の断層』眉村卓 著
◇『使者』星新一 著
◇『保護鳥』小松左京 著
◇『多聞寺討伐』光瀬龍 著
◇『二重人格』広瀬正 著
◇『パストラル』河野典生 著
◇『美亜へ贈る真珠』梶尾真治 著
◇『ススムちゃん大ショック』永井豪 作
◇『ニュルブルクリングに陽は落ちて』高齋正 著
◇『ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ』荒巻義雄 著

後から思えば、星新一の作品はショートショートなんだから、実は立ち読みでいけちゃったのか、ちょっと思ったりもしたのですが、ちゃんと買って読んで良かったです。
さすがベスト版という読みごたえ。
私の読んできた作品たちは、この作品たちあっての、その後のものたちなのだという気にさせられます。
作品のひねり方や、結末にはいかにもSFを読んでいるという実感がありますが、いかにもなSFを書こうと思って書かれたものという気もしないのです。
むしろ、SFであることが隠されているような気さえしてしまうほど。
改めてSFって自由だわーと思います。

これはSFなの??というところから、みっちりSFだ!というところへの移行の鮮やかさにくらくらしてしまいそうだったのは、『農閑期大作戦』、『多聞寺討伐』。
どちらも、どこからSFになるのかとドキドキしました。
『パストラル』、『ニュルブルクリングに陽は落ちて』、『ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ』は、作品の持つ、SF以外の要素の雰囲気に酔わされてしまいますが、結局はそれもSF的な仕掛けがあらばこそ。
初めから「これ、SFです!」と宣言しているのは、梶尾真治の『美亜へ贈る真珠』くらいで、あとは、いつの間にかSFで、読み終えてみれば、確かにSFなのです。

『美亜へ贈る真珠』に関して言えば、SFならではの仕掛けから生まれるせつなさがたまらないわけですが、たぶん、他の方がすでに実績のある職業作家であった中、梶尾真治はまだ駆け出しの駆け出しで、SFに対しての入れ込み方が違ったのではなかろうかと思います。SFとの出会いが違うというか。
ちなみに、半村良氏は昭和8年生まれ、梶尾真治は昭和22年生まれですから、一回り以上も年の差があります。(年齢で言えば、永井豪氏は昭和20年生まれですが、1971年(昭和46年)にはもうデビュー4年めです。)

ああ、ちょっと脱線したな。
ともかく、どれをとっても、ベスト版に収録されていることが心底納得できる作品ばかりでした。
間違いなく、もう1回読んでしまいます。きっと。






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