数年前、読売新聞の人生相談の回答者のうちのひとりが藤原正彦氏だった。
そのときの回答をまとめた本の文庫化。
藤原正彦といえば、ベストセラーとなった『国家の品格』の著者として有名な数学者。
両親は藤原ていと新田次郎で、エッセイストとしても知られている…のではないだろうか。
人生に関する72章
著者:藤原 正彦
発行:新潮社
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いずれもすぱーん、と音がしそうな回答ばかり。
息子や娘の行状が芳しくないと相談を寄せる親御さんたちには、育て方を間違えたあなたたちの責任だと、受験生生活中にバイトをしていたら試験に落ちてしまったという学生さんには、なめてかかっていたら落ちるのは当たり前だと躊躇なく言い切る。
その上で、相談者の事情に合わせて親身に回答を続けるが、それは著者の考え方が如実に表れたものであるように思う。
基本的に、著者は現代日本を嘆いている人である。
ありがちな回答と違うと特に思うのは、あきらめろというもの。
嫁姑の関係が難しいのも、上司が威張るのも、若者が年配者をうっとおしく思い、年配者には若輩者が無礼千万に思えるのはどうしようもないことなのだから、耐えがたきを耐えよと。
世の中に自由はなく、人は平等ではない。
もし、人が平等であるならば、キムタクと私に対する世の女性たちの対応は同じくあるはずであると、著者はいうのである。
人生相談を読んで笑うのは不謹慎かとは思うが、笑わずにいられなかった。
回答の中で、著者はよく自分自身を引き合いに出す。
古典的なユーモアセンスとも言えるが、著者の風貌や著書を思い浮かべると、やはり可笑しくなる。
中学生などが引き起こす信じがたいような事件に身がすくみ、子供を連れての外出も控えてしまう、心配のしすぎだとは思うが、どう考えれば楽になれるかという相談に答えてはこう。
1年間にそれが10件起こったとして、中学生は1000万人。
事件を起こすのは100万人に1人。
百万にひとつのことを心配するのは愚かなこと。
百万回、餅を食べれば1回は窒息するだろう。
それを考えるならば、交通事故の発生件数は比ではなく、自動車を観るたびに失神しなければならなくなる。
百万回お餅を食べる。
私などは、それを想像しただけで、心配は、お餅を百万個食べるという苦痛と可笑しさにすり替わってしまった。
どうしても、可笑しいと思うようなところが頭に残ってしまうが、具体的、かつ実際的な回答も多い。
いずれにしても、同情に終始するような回答ではなく、その時点で著者がベストと思う回答をすっぱりと言いきっている。
相談者に人気のある回答者だったかどうか、気になるところだ。
解説も相談と回答になっていた。
相談者は著者と連れ添って30年の夫人、回答者は著者本人。
著者のエッセイを何冊か読んだ後なので、とても楽しく読めた。
ただし、著者が嫌いならば、徹頭徹尾、腹の立つ本だろうと思う。
直ちに訂正します。
narkejpさま。ありがとうございました。
さて、改めまして。
>古武士のような
まさに。学生さんに武士道の話をして嫌がられているというくだりを思い出して笑ってしまいました。