ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

岡本綺堂【岡本綺堂読物集三 近代異妖篇】

2013-05-16 | 中央公論(新)社

中央公論新社から出ている岡本綺堂読物集の第三集。
第一集の『三浦老人昔話』、第二集の『青蛙堂鬼談』に続く一冊です。

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 近代異妖篇 - 岡本綺堂読物集三

 著者:岡本綺堂
 発行:中央公論新社
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第一集、第二集からこぼれたお話をまとめてみましたという体裁の第三集。
『こま犬』、『異妖編』、『月の夜がたり』、『水鬼』、『馬来俳優の死』。
『停車場の少女』、『木曾の旅人』、『影を踏まれた女』、『鐘が淵』、『河鹿』。
『指環一つ』、『父の怪談』、『離魂病』、『百物語』、『雨夜の怪談』、『赤い杭』。
全部で16。といっても、ひとつにいくつかまとめられているものもありますので、実際はもう少し多くなっています。
怖いお話とまではいかない不思議なお話ばかり。
影を踏まれてしまったことにおびえる娘のお話や、山で漁師たちが出会う「えてもの」のお話など、話としての顛末ははっきりしているけれど、原因はわからないというところが、この読物集らしいところです。
ただ、お話の背景となる時代は江戸末期、明治といったあたり。
人魂にもカマイタチにも科学的な説明がつきはじめ、さまざまな怪異も神経の問題として考えられ始めるころで、物語の中にもそんなふうな記述がでてきます。
ただ、そう思ってはいても、出来事の不思議は不思議。
亡くした家族の指輪が偶然立ち寄ることになった土地の宿で遺された家族の手に戻ることも、たった一軒の店だけが辺り一帯の火事から逃れ得たことも、人にはその理由の真実を知ることの叶わぬものとしてあるのです。
そのようなことがあったと受けとめ、人々はただその不思議を思う。
物語ごとに変わる語り手たちの、当時の暮らしと心持が垣間見える言葉の流れのまま、読んでいる私もそういう気分になってしまう1冊です。
こってりしたものを読みたいときや、身も凍るようなホラーを読みたいときには向かないのかもしれませんが。



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