ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

服部真澄【骨董市で家を買う―ハットリ邸古民家新築プロジェクト】

2013-08-04 | 中央公論(新)社

家を建てる気は毛頭ありませんが、お家を建てる番組や、お家を紹介するTV番組を、すごいこだわりだわねぇと、半ば尊敬、半ば呆れながら観るのが好きです。
そんななかでも古民家を再利用した家の雰囲気の良さは観るたびにいいわぁと思うもののひとつ。
古本屋さんでタイトル買いの1冊です。

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 骨董市で家を買う―ハットリ邸古民家新築プロジェクト

 著者:服部真澄
 発行:中央公論新社
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この本は、小説家の著者がだんなさまの視点から自分自身をも客観視しながら書いたものです。
なかには古民家をはじめとする古いものや技術への思いがさしはさまれますが、全体として軽い調子(著者の小説の印象とはだいぶ異なります。)で、すいすいと読み進めることができるノンフィクション。
骨董市で古民家を売る骨董商と話すところから始まって、次には古民家を現地に見に行き、と、話が進むのもハイスピードで、欲しい!と思ってからの流れが、ざっくりとわかります。
その気のない私には、ただ楽しい読書ですが、古民家を移築したいという漠然とした思いを持っておいでの方が読んだら、はじめの一歩の参考になるかもしれません。
大手の工務店や建築家に依頼して現在の工法で新築することとは全く異なる要素が入ってくる古民家移築。
思わぬ問題も持ち上がります。
古いものを活かすには古くからの技術への精通が必要。でも、現在では依頼する方も、依頼される方もその経験をもつ人が圧倒的に少ないわけですから。

長い期間を経て(それも、予定をはるかに超える!)完成した家の写真はとても良い雰囲気。
古い素材の良さと、新しい技術の快適さを併せ持つ古民家再生の家での暮らしはとても気分が良さそうだと思います。
いいなぁ。
でも、この本のよいところは、良さを強調するよりも、失敗が強調されていること。
完成に至るまでのこともそうですが、完成後、住み始めてからの問題点にもちゃんと触れられています。
住んでみないと実感できないことってありますものね。
実際のところ、雪国なら古民家再生の家はよほど暖かくつくらなければならないだろうと思います。

実際に建てるなら、この本を読んで、その後にしーっかりとした情報収集をして、長期計画で実行。
この文庫に先立つ単行本は1998年発行ですから、古民家再生もはしりのころだと思います。今現在であれば、もっと情報があり、楽になっている部分もあるでしょうし、さらに難しくなっていることも次第によってはあるのかもしれません。
できることなら、心残りのないように時間もお金もできる限り準備して、建てること自体を楽しんで、長く住んで楽しんで、といきたいものです。
そして、できることなら、自分が住んだその後にも、ここに住みたいと思ってくださる方が現れるような家としてあってくれればいいなあと。
建てるならば、ですけれどね。



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