最近、しょっちゅう吉田篤弘さんの本を読んでいるような気がします。
針がとぶ - Goodbye Porkpie Hat
著者:吉田篤弘
発行:中央公論社
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『伯母が遺したLPの小さなキズ。針がとぶ一瞬の空白に、いつか、どこかで出会ったなつかしい人の記憶が降りてくる。遠い半島の雑貨屋。小さなホテルのクローク係。釣りの好きな女占い師…。ひそやかに響き合う、七つのストーリー。 』
…らしい…といえばらしく、そうでないといえばそうではない、と思うのは、最初に置かれた物語、表題作の『針がとぶ』の語り手である「私」が女性であったからかもしれません。
私と敬愛する伯母さんの物語。そして、その伯母さんを悼む物語であることが、帯にある解説者の小川洋子さんの名前と相まって、彼女の作品を連想させたこともその理由だったと思います。
この方の作品の「私」は男性で、著者自身を思わせる人物であることに慣れ過ぎていたのかもしれません。
けれども、The Beatlesの『The White Album』が登場したところで、ああ、これは吉田さんと腑に落ち、ふたつめの『金曜日の本』ではすっかりいつもの雰囲気にもどったことにちょっと安心した気分。
冒険したくないわけではありませんが、どちらかといえば、この方の本を手にするときは「いつもの気分」を求めているので。
『月と6月と観覧車』、『パスパルトゥ』、『少しだけ海の見えるところ 1990-1995』、『最後から二番目の晩餐』、『水曜日の帽子』と続いていく物語は、ほんの少しずつつながりながら世界を広げていきます。
その世界は絵や写真の中の風景のようにあるようでない、けれども、その奥を想像させるような場所であり、そこにある人々の物語は、様々な感情のどす黒くものどもは底に沈ませ、上澄みの部分に身を浸すよう。
私自身には、「私」のような旅をできるわけではないし、「私」のような旅人を迎えることもないけれど、忙しい時でも、こういう世界に臨む窓を自分の中に開いておきたいと思わせてくれる1冊、というか、それがクラフト・エヴィング商會、吉田篤弘さんの本です。たぶん。