ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

リチャード・ブローティガン【芝生の復讐】

2008-10-07 | 新潮社
 
表紙カバー裏の説明文によれば、「囁きながら流れていく清冽な小川のような62の物語。『アメリカの鱒釣り』の作家が遺したもっとも美しい短篇集。」

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 芝生の復讐
 著者:リチャード・ブローティガン
 訳者:藤本和子
 発行:新潮社
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好きかと問われれば、好きじゃないと答えてしまうかもしれない。
どれもこれも、痛々しいような気がしてしまう。

偶然乗ったバスに感じる違和感。
自分以外の乗客はすべて老人であり、彼一人が若い。
彼の存在は、彼らの老いを思い出させ、失われた若さはもう二度と戻らないものである事実を突き付ける。
そして、それは避けられない先の自分。
本当に周りが見えないほど若ければ、それは誰をも傷つけないかもしれない。
けれど、すでに失われ始めた若さは双方を傷つけ、彼はバスを降りるしかないのである。

詩のような比喩がちりばめられた不思議と印象的な文章が続き、明に暗に現れる悲哀は、甘い感傷というよりも痛みの記憶を呼ぶ。
コーヒーも熊も鹿も。
メイドがこっそり置いて行ったようなホテルの朝の光も、1ポンドの生レバーも、一間きりのアパートでヴァイオリンの稽古をする男と暮らす難儀さも、墓の中に埋められた犬のための敷物も。
「若きギリシャ神さながら」にやってきた「電気」も、雨に水を懇願する川も。
ずぶぬれの子供たちがこちらに向ける視線も。

ただ、甘さより痛みはいっそ清々しく、去った後、その記憶は懐かしいものになるのかもしれない。





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