ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

高峰秀子【おいしいおはなし:台所のエッセイ集】

2014-03-22 | 筑摩書房

おなかがすいている時に読んではいけない本…かと思いきや、意外にそうでもなかったのは、食べ物そのものよりも、それにまつわる出来事を語る人がぐっと迫ってくるような気がしたからだと思います。

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 おいしいおはなし: 台所のエッセイ集

 編者:高峰秀子
 発行:筑摩書房
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選ばれているのは23人の方の文章。

向田邦子『食らわんか』、沢木耕太郎『仏陀のラーメン』、北野武『食べることは排泄と同じ』。
幸田文『台所育ち』、池部良『天ぷらそば』、井上ひさし『カキ氷とアイスクリーム』。
中山千夏『おいしいものは恥ずかしい』、玉村豊男『食は三代』、安野光雅『かいわれのみち』。
宇野千代『私のカレー・ライス』、川本三郎『居酒屋の至福』、鄭大聲『箸文化と匙文化』。
石井好子『悲しいときにもおいしいスープ』、秋山ちえ子『「ねこ弁」/無花果/秋山食堂』。
土井勝『グルメブーム/心と心の通じあう家庭』、松山善三『「クエ」を食う』。
沢村貞子『私のお弁当』、林政明『ピー子ちゃんは山へ』。
茂出木心護『海老フライの旦那と大盛りの旦那 ほか』、水野正夫『茹玉子』。
宮尾登美子『かつおぶし削り器/そうめんの季節』、山田風太郎『B級グルメ考』。
佐藤愛子『お不動様とマヨネーズ』。

幸田文さんや沢村貞子さんには明治生まれの方らしい背筋の伸び方を感じ、北野武さんや安野光雅さんは「らしい」ひねりを感じさせる切り口で、沢木耕太郎さんは異国での味の思い出というあたりは、いかにもイメージにあうといった印象です。
タイトルからでもとりあげられる食べ物がわかるものも多いのですが、「ピーちゃんは山へ」は目次だけではわからなかった1篇。
ピーちゃんはおじいちゃんニワトリです。「ピーちゃんは山へ」。
さて、どんなエピソードを想像されるでしょうか。
わたしは、ピーちゃんがニワトリとわかった瞬間、『動物のお医者さん』のヒヨちゃんを思い出してしまいました。そして、ヒヨちゃんを思いだすと「影武者」という言葉をかならず連想してしまいます。変なことほど、忘れないものです。不思議と。

食べ物にまつわるエピソード、おいしいおはなしといってもいろいろで、食への思いを通して生きる姿勢が浮かびあがる、あるいは、食べることにも生き方に直結する思想をもつということを思わせる文章が選ばれていると実感できるアンソロジーです。
「生きる姿勢」などとおおげさな言葉を使ってしまいましたが、案外、ちょっとしたところに見え隠れするものだと思います。怖いことに。

こういった食べ物や食にまつわる本を性懲りもなく読んでしまうのは、たぶん、自分の食生活への後ろめたさから。
私の食生活はとても体を養うようなものではないことも、本を読んだからといって補われるわけでもないのは重々承知ですが、後ろめたさを忘れないようにだけはしておこうという気分でしょうか。
そんなふうに思いながら、サプリを摂り始めるようでは、私の食生活が改善されるのは遠い先のことになりそうです。
ああ、でも、何を食べてもおいしいというのは、きっと体に悪いことではないですよね。
それなら自信があるな。うん。



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