ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

ディック・フランシス【大穴】

2013-02-05 | 早川書房
 
ディック・フランシスの競馬シリーズ。
昔から定評のあるシリーズだけあって、やっぱり、おもしろいです。

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 大穴

 著者:ディック・フランシス
 訳者:菊池 光
 発行:早川書房
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始まりは病室。
主人公シッド・ハレーは、腹部を撃たれるという重傷を負って横たわっています。
ベッドの周囲には医師の他に、彼の上司がいました。
シッドは仕事中に撃たれたのです。
彼の仕事は探偵。

ここから少しずつ、彼のことがわかってきます。
基本、第一人称での語りです。
うーん。ハードボイルド。

文庫裏の説明文はこんな感じです。

==========
ラドナー探偵社の調査員シッド・ハレーは、脇腹に喰いこんだ鉛の弾丸のおかげで生き返った。かつて一流の騎手だったハレーは、レース中に腕を負傷して騎手生命を断たれ死人も同然だったのだ。だが、いま彼の胸に怒りが燃え上がってきた!
彼を撃った男は誰に頼まれたのか、その黒幕は何をたくらんでいるのか? 傷の癒えたハレーは過去への未練を断ち切り競馬界にうごめく陰謀に敢然と挑戦していった! シリーズ代表作。
==========

何がいいって、主人公が応援しやすい人なんです。
徹底して、自分を過大評価しないタイプ。
自己憐憫を自己憐憫として自覚できるタイプというか。
手のハンデにしても、上には上がいることを受けとめられるような人物でもあります。
厳しいなぁ、自分に。
彼を正当に評価しているのは周囲の人々のほうだというあたり、基本的な礼儀正しさや魅力を備えているのだなと思えます。
なんで、離婚しようとしているかな、奥さんは。
ただ、それについても、ハレー本人は、彼女が求めるものを提供できなかったからだという思うわけです。
まあ、それはそうなんでしょうけれども、物分かり良すぎるんじゃないか?と言いたい気分もわくような。
そういうところもきっと奥さんには向かなかったのだな、きっと、奥さんのお父さんのリチャードと出会うための結婚だったのだと思うことにしましょう…うん。
ただ、離婚問題などは二の次、三の次。
問題は、彼の愛する競馬場のことです。
大袈裟に競馬の華やかなレースを描くのではなく、むしろバックヤード、知っている人しか描けないという雰囲気があふれ、競馬界の日常、実情が何気ないところから見えてくる感じ。
およそのことに強い執着をもたない風情のハレーも、こと競馬に関しては別。
引退を余儀なくされたことで、なお一層なのでしょうか、端々に深い愛情を感じます。
次第に本気になっていくハレー。
それこそが、他の登場人物の期待するところ、そして、読んでいる私も期待するところです。
でも、あくまでもハレーは静かなまま。
カッコいいですなぁ。こういう、秘めた熱血の主人公。
加えて、悪役がすっきりと悪役らしいので、なおさら気持ちよく読めます。
悪役はもうちょっとひねっていただいても…と思わなくはありませんが。

何読もうかなぁ、と思うようなとき、ディック・フランシスの競馬シリーズ。
いいかもしれません。
やっぱり人気シリーズですねぇ。
しかも、古本屋さんでは100円。
お得です。
読書にお得かどうかの考えを持ち込むのはいかがなものかとは思いますけれど。




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大好きです (ときわ)
2013-02-08 15:23:08
きしさん、ディック・フランシス・競馬シリーズは私が大好きな作品群です。
「名門」の時にはまってすぐに全過去作品を読み、以来出版されるとすぐに読んでました。彼が亡くなったときにはとてもショックでした。
これだけたくさんあると、やはり出来にはばらつきもありますが、ダメなのはないと思ってます。

きしさんは、他の作品は未読ですか?

私が好きなのは後期で晩年より少し前の作品群。円熟した感じがします。
「黄金」「横断」「直線」「告解」など大好き。
ほとんどの作品で一度しか登場しない主人公ですが、シッド・ハレーだけ3回も登場してます。作者にとって思い入れが深いのでしょうね。
それが「利腕」と「敵手」。
もし未読でしたら、この2作品読みませんか?
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ときわさん (きし)
2013-02-08 23:51:40
コメントありがとうございます。
他に読んだことがあるのは『興奮』の1冊だけなので、ときわさんお薦めの作品たち、ぜひ読んでみたいと思います。
はずれがないってすごいですよね。どこの本屋さんに行っても数冊は必ずある人気シリーズですものね。
まずはハレーの活躍を追う2作からでしょうか。でも、ときわさんがシリーズを読破するきっかけになった『名門』も気になります。うーん、ちゃんとタイトルをメモっておかないと!だって、たくさんあってどれがどれだかわからなくなってしまいそうですからw
よし、読むぞ~。
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