新聞の広告を見たときから、気になっていた作品。
アイアン・ハウス
著者:ジョン・ハート
訳者:東野 さやか
発行:早川書房
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孤児院で育った兄弟。
ある事件をきっかけに脱走した兄は腕利きの殺し屋になり、今は、愛する女性とお腹の子供のために、組織から抜けようとしています。
ところが、ボスは許してくれたのに、その息子とナンバー2の男は決して許そうとせず、恋人の命を狙い、さらには、裕福な家庭に引き取られて今は児童文学の作家になっている弟の命を狙うと脅しをかけてきます。
兄は恋人と弟を守りきることができるのか。
おとなしく守られてくれるなら単純なアクション映画のように終われるのでしょうけれど、兄が殺し屋であることを明かされた恋人は当然のことながら激しい葛藤に苛まれて彼から逃げようとしますし、弟は弟で、孤児院での体験が刻んだ深い深い傷のために心身に失調をきたしていて、これまた逃げる。
加えて、兄自身も組織が仕組んだ爆破事件の容疑者として指名手配中。
時を同じくして、弟が引き取られた家で死体が発見され、それがいずれも兄弟と同時期に孤児院にいて弟を痛めつけていた連中であり、殺人者として弟が疑われることになります。
過去の事件、現在の事件、登場人物たちの思惑、事情が絡み合いながら進んでいく物語は、想像していたものよりずっと重く、予想よりももうひとひねりあっての着地でした。
「アイアン・ハート」は孤児院の名称であるだけでなく、登場人物たちの心の在り様でもあるでしょうか。
分厚い鉄の装甲でやわらかい部分を守るか、それとも、やわらかい部分を晒し血を流しながらも奥の奥、硬い芯を保ちきるか。
人の強さも弱さも、さまざまです。
こういう雰囲気の本を読むのは久しぶり。
兄が尋常じゃなく強いです。
冷徹な殺し屋であり、かつ、底なしに愛情深くて義理堅い。
恋人に会うまで、その対象は弟とボスだけだったようで、愛情が分散しないから仕事では情け容赦なくできていたのかもしれませんね。
本編の中では、はっきりとわかる形としてはひとりも殺しません。
仕事じゃないから。
そうじゃないと、恋人に対しての言葉に説得力がなくなってしまいますものねー。
徹底してるなー。
この物語の先の兄が、心配です。
兄が父になって、初めて人並みの家庭生活を知るようになったら、過去が重くなるだろうなぁと。
今までに殺したのは死んでよかったような奴ばかりだと言ってましたけれど、その人にも家族があって、愛した人も、愛してくれた人もあったかもしれないという、想像力が働くようになってしまったら、大変な重荷ではなかろうかと思います。
たぶん、それにも兄は負けないのでしょうし、「ひとでなし」は存在した物語でもあったことは、登場人物や読者に対しての親切だったかも。
…あ、結末をばらしてしまったか。
でも、大丈夫。結末より、本筋の過程ですから。
[読了:2012-04-30]
参加しています。地味に…。
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