ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

パオロ・バチガルピ【第六ポンプ】

2012-05-17 | 早川書房
 
10篇が収められた短編集。

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 第六ポンプ
 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ


 著者:パオロ・バチガルピ
 訳者:中原尚哉 金子浩
 発行:早川書房
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『ポケットの中の法(ダルマ) 』、『フルーテッド・ガール』、『砂と灰の人々』。
『パショ 』、『カロリーマン 』、『タマリスク・ハンター 』。
『ポップ隊 』、『イエローカードマン 』、『やわらかく 』、『第六ポンプ 』。
この本1冊で、話題となった長編『ねじまき少女』に至るまでに書かれた短篇がほとんど読めたことになるそうです。

作品の多くは、環境あるいは世界の仕組みが激変したのちの世界が舞台となっています。
短編であるせいか、背景の説明にあまり多くは割かれないので、書いてあることを読み落とさないようにと私にしてはゆっくりと読み進めていたところへ、いきなり突きつけられるその世界の現実はかなり衝撃的でした。
えっ、犬、食べちゃったよ?!
子供の頭にいきなり銃弾?!

所変われば品変わる。
そのとおり。
環境が変わり、それに対応していけば人類も変わるわけです。
緑の森も澄んだ水も失った世界に生きる人間は毒を栄養に変えるムシを体内に飼い、人体改造が自由自在の世界では少女が甘美な音色と姿の楽器となる。
若返りの技術によって不死性を得た世界は出産を禁じ、資源の枯渇した世界ではねじまき動力が復活する。
世界の環境に適応できぬものは淘汰され、仕組みに従わぬものは狩られ、排除されていきます。

なんと過酷な世界観。
けれど、人間はそれでも生きています。
生き延びるために自分を変え、あるいは世界を変えながら。
特にアジアを思わせる街を舞台にしたものは雑然とした街の活力と相まって、生きることへの熱が立ち昇るよう。
良くも悪くも、人間はあきらめるようにはできていないのかもしれません。

10篇の中のひとつ、『カロリーマン』。
『ねじまき少女』につながるこの世界では、食糧となる植物の種が独占されて他所では育てることができないように改良されています。
育てようと思っても土の中で腐ってしまう。
その絶望感は想像して余りありますが、物語の中では、それに対抗するための種子が作られていきます。
実りを許さない環境と独占へのレジスタンス。
もし、さまざまな種類の作物が世界中で実るようになれば、なんと鮮やかで豊かな反撃でしょうか。

多様な作物が実ること、たったそれだけのことがこれほどまぶしく思える病んだ世界。
他の作品でも、世界は資源の枯渇や取り返しのつかないほどの環境汚染を問題として抱えています。
食糧、水、燃料資源、遺伝子操作…。
これは別世界や未来ではなく…と思うと、最後の作品にしては軽めと思った『第六ポンプ』もずっしり。

この読後感にこの表紙。
看板に偽りあり…は言いすぎにしても、微妙にズレあり、と思っても、許されそうな気がします。
でも、ぜんぶの要素が入っている…。うーん。

彼女が「ねじまき少女」なのでしょうねぇ。
日本では先になった、こちらの。

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 ねじまき少女

 著者:パオロ・バチガルピ
 発行:早川書房



[読了:2012-05-11]






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