ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

柏葉幸子【つづきの図書館】

2011-12-27 | 講談社
 
「本が好き!」で以前からずっと話題になっていた作品です。
 
続きが気になるのは、読むほうだけじゃなく、読まれるほうも一緒?
「青田早苗ちゃんのつづきが知りたいんじゃ!」
読んでくれたあの子のつづきがどうしても気になると、絵本の中から出てきてしまった登場人物たちのために、新米(でも40代)の司書・桃さんががんばる物語。
裸の王様は、狼は、気になるあの子のつづきを知ることはできるのか。
そもそも、なぜ絵本から出てこられるようになったのか。

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 つづきの図書館

 著者:柏葉幸子
 発行:講談社
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発表のされ方に違いがあるだけで、物語や出来事ってほんとうはおとな向けもこども向けも区別はないのよねえ、物語の中にもこどもがいて、おとながいるんだから、と、ぼんやりと思う作品。
そういえば、前回そんなふうに思ったのも、この方の作品『ミラクル・ファミリー』を読んだ時だったと思います。
こどもだけのためにも、おとなだけのためにも書かれていない。どこをどう読むかなんですよねぇ。わたくし、「七匹の子やぎ」の狼が怖い顔だった理由にとても納得してしまいました。

おとなが主人公のこの本を、こどもの時に読んでいたらどう思っていただろうと想像してみたとき、頭に浮かんだ作品がひとつありました。
コロボックルシリーズの第1作『だれも知らない小さな国』。
せいたかさんと、親指ほどの小さな人たちが出会う物語です。
最初こそ少年として登場しますが、物語の大半は成長したせいたかさんが不思議としっかり向き合うことになります。
本の中のことだからといってなんでもありではなく、不思議と無縁のおとなたち、社会の都合も描かれることで、かえって物語の世界が自分のいるところと地続きになった気がしていたように思います。
彼らにはたぶん会えないだろうけれど、もし会えたら味方になりたい、コロボックルたちの味方になれるおとなになりたいと。
せいたかさんがおとなになってからの物語だからこそ、今もこんなに好きなのかもしれません。

この物語の主人公・桃さんもおとな。
でも、今の時代のこどもたち、しかも対象年齢を考えれば、私がせいたかさんを仰ぎ見たような感じはないだろうと思います。
しかも、桃さんはおとなのうちでも不器用な部類の人です。
人見知りをするほうで、人とおしゃべりをするのが苦手だったりと、どうも人生楽勝、順風満帆とはいいがたい感じ。
そんな桃さんは、案外、身近に感じられるおとなではないでしょうか。
こどもだって、友達づきあいも何もかも、全部が全部うまくいってるなんてこと、そうそうないでしょう?
そんなときに、ちょっと大変な思いをしていて一見地味な桃さん、つまらなそうなおとなのうちのひとりの桃さんに秘められていた物語を読んで、つまらなくみえてもつまらなくない、ひとりにみえてもひとりっきりじゃない、もしかしたら私のつづきを気にしてくれている本があるかもしれないと想像できたら、それはずいぶんと元気を出す助けになるような気がします。
それに、本の中の誰かに安心してもらえるような自分でいるというのは、けっこう目標としてハードルが高そうではありませんか。
…ああ、なんだか急に本棚が気になってきました。…背中がちくちくするような…。

 

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