ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

オースン・スコット・カード【無伴奏ソナタ】

2014-04-09 | 早川書房

カラフルな書店の新刊平台のなかで目を引いた表紙。
白の中に置かれたピアノと、シンプルな文字のそのタイトルは『無伴奏ソナタ』。
SFらしからぬそのタイトルだけは知っていましたが、読む機会がなかった作品でした。

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 無伴奏ソナタ

 著者:オースン・スコット・カード
 訳者:金子 浩, 金子 司, 山田 和子
 発行:早川書房
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なぜ新刊?と思いましたが、その理由は『エンダーのゲーム』だったようです。
映画化されましたものね。
そのおかげで読めた1冊です。

収められているのは11篇。
『エンダーのゲーム』、『王の食肉』、『深呼吸』、『タイムリッド』、『ブルーな遺伝子(ジーンズ)を身につけて』、『四階共用トイレの悪夢』、『死すべき神々』、『解放の時』、『アグネスとヘクトルの物語』、『磁器のサラマンダー』、『無伴奏ソナタ』。

シャープな印象の文章によって展開する作品には余分な肉付けがなく、核となるアイディアやイメージがそのまま作品になったよう。
その無駄のなさは読後感の鮮烈さに直結するのか、アイディア自体に心を奪われてしまう作品もあれば、そのアイディアによって浮き彫りになるもののほうに心を鷲掴みにされるかの違いはありますが、いずれにせよ、印象深いものです。

『死すべき神々』。このタイトルからどういう物語を想像するでしょう。神として崇められたのは…。
王が食べる人肉を集める男。その真意と私には皮肉と思える結末を描く『王の食肉』。
童話のような設定のなかで語り出される『磁器のサラマンダー』では、あまりの愛らしさに、容易に結末が想像できること自体に読んでいる途中からせつなくなります。

そして、表題作の『無伴奏ソナタ』は幼くして音楽の天才として評価されたクリスの生涯を描いた作品。
その才能を極限まで高めようとする社会のシステムは、彼を一般の人間社会から隔絶し、自然界の音以外の音、ましてや、彼以外の人間が作った音楽すら聴かせずに成長させます。
無二のものとして開花した彼の才能は、彼自身と社会にもたらしたものは何か。
何かを生み出す才能についての想いが深い人にはたまらない物語だと思います。
そういった才能に無縁の私にですら、彼の人生が、一見奪われつづけてゆくだけのようでありながらも、とても豊かで幸せなものであるように思えてしまいました。
短い作品です。
機会がありましたら、ぜひ。









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2 コメント

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これ読みたい! (かもめ)
2014-04-10 09:56:54
きしさんの書評とタイトルと装丁,3連続パンチでノックアウト~?!

図書館にはないみたい。
リクエストすべきか,Kindleで買おうか,それとも紙本で……と迷いますねえ。
返信する
かもめさん (きし)
2014-04-11 00:59:07
読みたいといっていただけると嬉しいです!
でも、図書館にはないのですね。…むむむ。
そうかぁ。でも、でも、このシンプルさ、ちょっと味わっていただきたいですねぇ。
短篇集なので、Kindle版もいいかも。
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