ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

石川直樹【最後の冒険家】

2011-10-21 | 集英社
 
第6回開高健ノンフィクション賞受賞作。

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 最後の冒険家

 著者:石川直樹
 発行:集英社
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自作の気球で太平洋横断を計画した神田道夫氏の足跡をたどったノンフィクション。
著者はその神田氏の同乗者として太平洋横断に挑戦した経歴を持ち、自身も世界七大陸最高峰登頂の最年少記録を打ち立てている。

…というようなことは、実際に本を開いてから知ったことだった。
私は、錆びたカメラの写真をみて、これは遠い過去の人物の記録なのだろうと思っていた。

知らないとはそういうことだ。当時話題になったらしいがまったく記憶にない。
知らないうえに、しかも、私は不注意だった。
成功した計画に使用されたカメラなら、状態がこうも悪いわけがない。
わざわざ、その写真が使われている意味をちょっと考えてみれば、裏表紙に目をやることになって、たぶん、私は、この本の内容を読むに至らなかったと思う。

「最後の冒険家」の直近の計画・自作気球による大西洋単独横断は2008年で、神田氏はまだ帰ってきていない。
そういう記録だった。

著者は、その経歴から神田氏に同乗者として見込まれ、気球と出会う。
そこから記録は、記録しようと著者に強く思わせた神田氏との付き合いは始まっていく。
気球とはどのようなもので、どのような歩みがあったのか。
気球で空を飛ぶ感覚とはどのようなものか。
神田氏はどのような人物として周囲の人々にとらえられていたのか。
冒険とは。「最後の冒険家」という意味は。

無駄がなく、そうでありながら、味気なくない文章はするするとページを進ませる。
ずいぶんとこなれた印象だ。
この本の中にあった、九死に一生を得てアメリカについた後、「活字に飢えていた」と、すぐさま本屋に行ったというエピソードに納得してしまった。

著者には土門拳賞の受賞歴もあった。

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 発行:青土社
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多才だ。
でも、最たる才能は、生きて帰ってくること、それに尽きるだろう。
どうしてもそう思わずにいられなかった。
 
 
 
 

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