優しく美しい短篇集です。
びしっとストレートな表紙カバーもすてきです。モネの睡蓮。
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ジヴェルニーの食卓
著者:原田 マハ
発行:集英社
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収められているのは4篇。
晩年のアンリ・マティスにメイドとして仕えた女性の語りで進む『うつくしい墓』。
『エトワール』はタイトルからも想像できるようにドガが登場します。
ポール・セザンヌへの手紙として書かれた『タンギー爺さん』。
最後の『ジヴェルニーの食卓』はモネの姿が義理の娘の目を通して描かれます。
芸術家の登場する作品は美の深淵を覗き込み魅入られた者の狂気と悦楽を描く、読んでいて胸がキリキリするようなものが多いように思います。
それはそれで好みなので選ぶようにして読んでしまうのですが、この作品はちょっと違う雰囲気を持っています。
芸術家自身を主軸にせず、彼らの傍近くにあった人々の視点から描かれているからでしょうか。
作品を生み出す苦悩そのものより、生み出された作品がもたらした悦び、幸せな思い、彼らと彼らの作品がいかに愛されていたかが伝わります。
『うつくしい墓』でマティスとその芸術に捧げられる純粋な敬愛、『タンギー爺さん』に登場するポール・セザンヌの絵画の革新性を疑うことのなかった画商の素朴なあたたかさ。
ドガに魅せられた少女の純情、モネの芸術を心から理解し、その制作を支え続けた家族の情愛。
唯一『エトワール』だけは同時代の画家からみたドガが描かれるので芸術家としてのドガの情熱が印象に残りますが、この作品にしてもやはり画家がいかに愛されたかを描いた点では違いがありません。
また、どの作品にも同時代の画家が登場し、彼らの交流が描かれます。
例えば、『うつくしい墓』でのマティスとピカソ。
冒頭にはピカソがマティスについて語った言葉が記されています。
『もしも、マティスが死んでしまったら、ほかの誰にも話せないことを胸の中にためこんでしまうことになる。
なんといっても、私には、マティスしかいないんだ。』
作品を描写する言葉もうつくしく、芸術とはこんなふうに人の心をあたためることができるのだと、改めて思いだすことのできる1冊。
何度も読み返したくなるような、やさしい印象を残す短篇集です。
きしさんの書評を拝見してますます読むのが楽しみになりました(^^)
期待を裏切らない作品だと思います。優しい情に包まれ、秘められたものがセツナイです。
「読む美術館」というキャッチフレーズがついているようですが、絵画作品自体よりも美術の力そのものに触れることができる気がする物語ですよね。
おっしゃるとおりそれができたこの作品はすてきです。