ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

道尾秀介【光媒の花】

2012-11-19 | 集英社
 
第23回山本周五郎賞受賞作。
山本周五郎賞は気になる賞です。かつて稲見一良が受賞したからという単純な理由ですけれど。
文庫版の解説は玄侑宗久さんで、帯の惹句は藤井フミヤさんの推薦文となっています。
曰く『幸福の答えを求め、不器用にもがきながら生きてゆく人々。この物語のどこかに自分もいるような気がする』。

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 光媒の花
 著者:道尾 秀介
 発行:集英社
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一匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界―。認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束…。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。
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それぞれの章のタイトルは順に『隠れ鬼』、『虫送り』、『冬の蝶』、『春の蝶』、『風媒花』、『遠い光』。
それぞれの章は登場人物でわずかにつながりながら配置されていきます。
たとえば、最初の『隠れ鬼』の主人公が見ていた公園で遊んでいた男の子が、次の『虫送り』の主人公になるというような、登場人物本人たちは気がつかないけれど、読んでいるほうにはとてもわかりやすいつながりです。
そして、本のタイトルは『光媒の花』。
同じタイトルの作品がないのは、物語ひとつひとつ、登場する人それぞれが「花」であるということなのでしょう。
他人が知ろうと知るまいと、人ぞれぞれに生きてきた時間があり、それは光だけでも影だけでもなく、その両方でかたちづくられていることを描いた作品は、表紙カバーのイメージとも相まって非常にくっきりとした印象をもっています。

出来上がりについての明確な意図があって、そのとおりに書かれ、しかも狙いどおりに出来上がったという感じがする作品。
読み終えたときにどんな感想を持つのか、いくらか読み進めた頃にもうわかるような気がしてしまいました。
たとえば、登場人物の絶望にやりきれなさを感じ、その希望に心を温められるとか。
そして、実際、想像どおりで、たぶん、それは著者が読者の感想として想定しているもののとおりのものではないだろうかと思います。

私自身の予想と違ったのは「想像どおりの感想だったということ」のほうが印象深く残ってしまったことくらい。
作品が類型的だったと言いたいわけではありません。
テーマは普遍的ともいえるものですし、材にふさわしい形式で書かれた端正な作品だと思います。
パターン化していたのはたぶん私の読み方のほうでしょう。
これまでの何かをなぞるように、気分を引き出してしまった気がします。
惰性で読んでいないかと、しばし反省をした1冊となりました。



[読了:2012-11-12]





 

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