ぼくは体が小さいしのろまで、頭もよくない。気がついたら親はいなかったし、育ててくれる大人もいなかった。
だから、ぼくはお館で魔王様にお仕えすることになった。魔王様はこの地方のご領主で、だからこの地に住む魔族の生活を保障する義務があると魔王様の家来の人は仰ったのだ。
ぼくが連れて来られたお館には、ぼくのように小さい魔族がたくさん働いていた。魔王様の身なりを整えたりお食事を給仕するもの、衣類の管理、お部屋の掃除などなど、こまかく割り当てられた小さい魔族にも出来るお仕事をしながら本当にたくさんの小さい魔族が働いていて、それはむしろ魔王様のためではなく小さい魔族の為だという。
なにしろ魔王様は領地内の魔族を守る義務を負われているので、はっきりした反逆者を処分するならともかく、仕事や住まいをなくして行き倒れるような魔族が領内にいてはいけないのだそうだ。だから、小さい魔族の仕事が不十分でも魔王様が我慢しなければならない時もあって、実際は魔王様もけっこう大変らしい。
ただ、そんな魔王様や魔王様の家来たちも、ぼくの扱いは困ったようだ。皿を持たせれば割り、服を持たせれば汚す、それこそ何の役にも立たないぼくの特技を必死に探した魔王様や魔王様の家来は、やがてぼくの最大にして最悪の欠点である物忘れのひどさに気付くことになった。悪気はないし一生懸命だが、とにかく教えられたことを次々と忘れるぼくは、しまいには魔力による記憶定着を使って何とか魔王様やその家来の顔や名前を忘れることはなくなったが、それ以外の事は次の日になると殆ど全部忘れるようになってしまい、事態は日に日に悪化していった。
そんな生活が劇的に変わったのは、魔王様を引退して離れで暮らす先代の魔王様のお相手を任せられてからだ。身の回りのお世話は魔王様と同じように他のたくさんの魔族が行っていて、ぼくの新しいお仕事は先代様の思い出話を聞くことになった。そして、他の誰もが長くは耐えられなかったお仕事は、ぼくの天職となった。何度も同じ言葉で繰り返される先代様の自慢も、何度か聞いているとつじつまが合わなくなってくる英雄談も、ぼくにとっては何時だってはじめての物語で、そのたびに真剣に話を聞きながら熱心に話の先を促すぼくを、先代様はすっかり気に入って下さったのだ。
だから今、ぼくは先代魔王様の最も忠実なる使い魔ということになっている。