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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

第九十景・人喰い桜

2019-04-27 10:21:53 | 桜百景
たかあきは、真夜中の田舎と桜の狭間に関わるお話を語ってください。

 その時期、僕の暮らしていた田舎の夜道に浮かび上がる光は天を彩る月星の白々と冴え渡った輝きだけではなかった。彼方の森に広がる薄らとした紅色の霞はその蠱惑的な色彩で視線を奪い、美しさに魅せられた人間が突然に薄紅の散る森で首を括り、桜に食われたと囁かれるのも珍しいことではなかった。
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第八十九景・花見の季節

2019-04-26 23:27:25 | 桜百景
たかあきは、秋の異星と桜の上に関わるお話を語ってください。

 テラフォーミングに成功して居住可能となった惑星は、だからと言って気候や植生が地球のそれと完璧にリンクしている訳ではない場合も多く、そういう場合、例えば地球では秋に当たる筈の季節に桜が咲いたり、まあ色々とズレが発生するのだが、当の移住民は住めば都とばかりにあまり気にしないようだ。
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第八十八景・老木と若葉

2019-04-25 19:06:08 | 桜百景
たかあきは、朝の友達と桜の枝に関わるお話を語ってください。

 病院の中庭で仲良くなったお爺ちゃんは僕と同じ入院患者で元気な時は漫画のお話を書く人だったそうだ。僕がもっと大きくなったらお爺ちゃんの書いたお話を読んであげるねと言うと嬉しそうに笑ってくれた。あの後すぐ僕は退院したけど、お爺ちゃんも今は元気になって、また漫画のお話を書いているのだろうか。
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第八十七景・破れ汚れりゃ錦も襤褸に

2019-04-24 20:47:19 | 桜百景
たかあきは、迅雷の初恋と桜の上に関わるお話を語ってください。

 雷に打たれたような衝撃と共に告白したオレの初恋は、相手から済まなそうに返ってきた詫びの言葉で終わった。一体何が悪かったのだろうと親友に尋ねると、相手に対する無神経と無配慮が酷い、むしろお前に恋人としての良い点を見つける事自体が出来ないと断言されてあの世に逃避してしまいたくなった。
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第八十六景・舞い踊るひとたち

2019-04-23 19:06:59 | 桜百景
たかあきは、真夜中過ぎの公園と桜の下に関わるお話を語ってください。

 昔は春になると公園で歌ったり踊っているひとをよく見かけた。たまにいい年をした大人が派手に遊具を揺らしながら大声で歌っていたりもするので危ないなと思っていたが、そういうひとたちは成長するうちにいつの間にか見えなくなっていたし友人にもそんなものは見たことがないと言われた。僕も今では深夜の公園の桜の散る元でしか、そんなひとたちを見かけなくなった。
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第八十五景・折られた枝

2019-04-22 21:18:56 | 桜百景
たかあきは、悪夢の初恋と桜の枝に関わるお話を語ってください。

 恋した女の子の奴隷に成り下がった幼い頃の僕は、命じられるままに公園の桜の枝を折って管理人のおじさんにしこたま怒られた。あの子が欲しいと言ったからと僕が指差すと、彼女はそんなの知らないと叫ぶなり逃げて行った。その背中を無言で見送りながら女は選べよと忠告してくれたおじさんの優しさは、まるで自分が折り取られた枝にでもなったかのように酷く痛かった。
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第八十四景・花を蓄える

2019-04-21 22:19:31 | 桜百景
たかあきは、冬の友達と桜の根に関わるお話を語ってください。

 桜が春に綺麗な花を咲かせるのは夏から秋にかけて茂らせた緑でエネルギーを蓄えているからだし、落葉の終わった冬は貧相に見えるかもしれないけど次の春に備えての休養期間だ。で、君は自身の花を咲かせる為に一体どれだけのことをやって来たのかなと尋ねられた私は、彼に返すべき言葉を思い付けない。

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第八十三景・今はもう何処にもない星より

2019-04-18 21:52:20 | 桜百景
たかあきは、晩秋の異星と桜の葉に関わるお話を語ってください。

 故郷を遠く離れた星でも桜は同じように咲き、秋には紅葉しますと書かれた便りには紅く色付いた桜の葉っぱが同封されていた。開拓団の誰かが母星の誰かに宛てた手紙だと一目で分かったが、哀しいことに便りを届けるべき彼らの母星も差出人の暮らしていた開拓星すらも、今となっては何処にも存在しないのだ。
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第八十二景・春の装い

2019-04-17 20:26:10 | 桜百景
たかあきは、初夏の哀しみと桜の造花に関わるお話を語ってください。

 小さい頃から桜が好きだったが、桜の花のアクセサリーを欲しがっても買って貰えたことがなかった。だから大きくなって自分で購入したが、そこでようやく桜の花弁は春の季節にしか雰囲気が合わないことに気付いて愕然とした。
 季節商品というのは食べ物ばかりではないのだと思い知った初夏のある日。
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第八十一景・春高楼の花の宴

2019-04-16 20:16:19 | 桜百景
たかあきは、春の廃墟と桜の上に関わるお話を語ってください。

 桜の樹の下には廃墟が埋まっている。
 既に土中に埋もれて久しい失われた都市を覆うように枝葉を茂らせた桜樹の群れは気の遠くなる程の長い月日を掛けながら、まるで慰霊の儀式であるかのように毎年春になると満開の花弁を惜しみなく廃墟の上に散らし、かつての廃墟を更に形なきものへと変えていくのだ。
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