𠮷田忠「(第1章)農業統計とは何か」『農業統計の作成と利用(食糧・農業問題全集20)』農山漁村文化協会,1987年
「統計とは何か」「日本の農業統計」の2節からなる。「統計とは何か」では,『農業白書』に見る各種の数値として,「いろいろな事実資料」「統計資料と実態調査資料」「統計資料と統計的方法」について論じられ,「日本の農業統計」では「農業とは何か」「わが国農業統計の体系」の2つがテーマである。
「統計とは何か」の目的は,本来の統計,すなわち政府やそれに準ずる機関が,普通,法令にもとづいて,ある社会的な集団の個性要素に関して一律かつ画一的な聞きとり調査を行い,その結果を定期的な統計報告書の形で公表している一般に統計といわれているものを正確に位置づけることである。まとめた図が掲げられている(p.45)。
筆者はまず『農業白書(昭和60年度)』の冒頭にある「主要経済指標」と「付属統計表」に掲げられている農業統計の基本指標を材料として,統計の説明に入っている。統計のように見えながら,厳密に言えば統計とは呼べないものがある。筆者はその例として,為替レート,穀物などの国際価格をあげている。これらは記録資料であり,統計資料ではない。また耕地面積,農作物作付面積などは測定資料であり,これも統計資料と区別される。測定資料は,人と物との関係から出てくる数字で,統計資料は人が人を調査して得られる(聞き取りなど)数字だからである。通関統計,国際収支統計,職業安定業務統計などは統計資料であるが,これらはそれぞれの機関がその業務記録をまとめたものなので,とくに業務統計という。また農業及び農家の社会勘定,物価指数,生産指数などは,加工統計という範疇に属する統計である。
上記の『農業白書』では「食糧消費構造の変化」「農業構造の変化」をみる箇所で統計資料が多用されている。家計調査,農業センサスと農業調査,農家就業動向調査などである。他にも全中『食料・農業・食生活・農協に関するイメージ調査』があるが,これは問題を限定して臨時に行われた調査で,統計資料に準ずるものである。また先進事例の紹介,実態調査も頻繁に出てくる。とくにあるべき方向性を示そうという場合にこの種の資料が利用される。
次に統計指標の紹介がある。統計指標は,重要な事実のエッセンスを端的に示す数値を導出したものである。このなかには,(イ)加工統計資料が示す統計指標[国民総生産の構成と循環をとらえた各種の数値など],(ロ)一般の統計資料からの統計指標[平均経営耕地規模,経営耕地規模別農家比率など],(ハ)複数の統計資料から算出される統計指標[農業の比較生産性など]がある。
さらに,図表に示された時計数値や統計指標の形態に注目し,分布の形,動向における傾向や循環,(複数系列間の)関連性などに関する何らかの整った秩序,すなわち統計的規則性に手掛かりをもとめることがある。さらに進んで確率という考え方を持ち込み,将来予測をする場合もある。
日本の農業の変革の方向と方策を明らかにするためには,統計的規則性に重きをおき,その析出を数理統計学にたよるやり方と,統計資料を重要な基礎資料としながら各種事実資料を組み合わせ問題にせまっていくやり方とがあるが,筆者は後者のやり方に従って,本書(『農業統計の作成と利用』)を執筆している。ただし,統計的規則性を数式でとらえる方法も,それが後者で位置づけられるかぎりで,検討の対象に加える,としている。
統計資料を以上のようにおさえると,次に問題となるのは農業統計である。農業統計は,農業という産業部門に属する人・企業・農家などの集団を対象に行う統計調査から作成された資料を指す。また,農業統計に関する研究対象は,農業での統計調査の企画・実施と統計資料の作成,さらに農業問題の分析と解明のために各種事実資料と組み合わせて行われる統計資料の利用である。農業の量的全体像の把握のための測定資料も常に関連資料として使われる。国民経済計算,工業統計,商業統計,林業統計,漁業統計も並行的に利用される。
その農業統計の体系であるが,筆者はそれを『農水省統計表』の目次でつかんでいる。掲げられている項目は以下のとおりである。①農家(農業生産力の担い手,営利としての農業経営,兼業化進行状況),②農用地,③農業生産資材,④農作物,⑤養蚕及び製糸,⑥畜産,⑦農産物生産費,⑧農村物価賃金,⑨農家経済,⑩林業,⑪水産業,⑫農林水産業生産指数,⑬農林水産業所得,⑭農林水産物流通,⑮農水産加工品,⑯食料需給,⑰農林水産物貿易,⑱農林漁業共済・保険,⑲農林水産財政および金融,⑳農林水産団体。
筆者はこの目次を通観し,日本の農業統計の体系がまず農業の担い手としての農家の構造,および農業生産力要素の総量をとらえ,次にその農業生産力の発現である農業生産資材の投入や農産物の産出をみ,最後にその農産物の流通と加工をみるという順序になっていて,物の流れとしての農業生産の物的順序に準じている,ととらえる。ただし,この流れは農業生産の経済的側面をみる部分(農産物生産費,農村物価賃金,農家経済),林業と水産業,農林水産物の総括(農林水産業生産指数,農林水産業所得)の三者で中断している。しかも,経済的側面は農業全体の経済や農家の経済に関するもので,農業経営を扱ってはいない。目次はこのように,全体としてかなり混乱した内容のものである。この混乱は,他ならぬ日本の農業の実態(一部に企業的農業経営を析出しながら膨大な兼業農家の堆積と農業生産の担い手の多様化)を反映したものである。
「統計とは何か」「日本の農業統計」の2節からなる。「統計とは何か」では,『農業白書』に見る各種の数値として,「いろいろな事実資料」「統計資料と実態調査資料」「統計資料と統計的方法」について論じられ,「日本の農業統計」では「農業とは何か」「わが国農業統計の体系」の2つがテーマである。
「統計とは何か」の目的は,本来の統計,すなわち政府やそれに準ずる機関が,普通,法令にもとづいて,ある社会的な集団の個性要素に関して一律かつ画一的な聞きとり調査を行い,その結果を定期的な統計報告書の形で公表している一般に統計といわれているものを正確に位置づけることである。まとめた図が掲げられている(p.45)。
筆者はまず『農業白書(昭和60年度)』の冒頭にある「主要経済指標」と「付属統計表」に掲げられている農業統計の基本指標を材料として,統計の説明に入っている。統計のように見えながら,厳密に言えば統計とは呼べないものがある。筆者はその例として,為替レート,穀物などの国際価格をあげている。これらは記録資料であり,統計資料ではない。また耕地面積,農作物作付面積などは測定資料であり,これも統計資料と区別される。測定資料は,人と物との関係から出てくる数字で,統計資料は人が人を調査して得られる(聞き取りなど)数字だからである。通関統計,国際収支統計,職業安定業務統計などは統計資料であるが,これらはそれぞれの機関がその業務記録をまとめたものなので,とくに業務統計という。また農業及び農家の社会勘定,物価指数,生産指数などは,加工統計という範疇に属する統計である。
上記の『農業白書』では「食糧消費構造の変化」「農業構造の変化」をみる箇所で統計資料が多用されている。家計調査,農業センサスと農業調査,農家就業動向調査などである。他にも全中『食料・農業・食生活・農協に関するイメージ調査』があるが,これは問題を限定して臨時に行われた調査で,統計資料に準ずるものである。また先進事例の紹介,実態調査も頻繁に出てくる。とくにあるべき方向性を示そうという場合にこの種の資料が利用される。
次に統計指標の紹介がある。統計指標は,重要な事実のエッセンスを端的に示す数値を導出したものである。このなかには,(イ)加工統計資料が示す統計指標[国民総生産の構成と循環をとらえた各種の数値など],(ロ)一般の統計資料からの統計指標[平均経営耕地規模,経営耕地規模別農家比率など],(ハ)複数の統計資料から算出される統計指標[農業の比較生産性など]がある。
さらに,図表に示された時計数値や統計指標の形態に注目し,分布の形,動向における傾向や循環,(複数系列間の)関連性などに関する何らかの整った秩序,すなわち統計的規則性に手掛かりをもとめることがある。さらに進んで確率という考え方を持ち込み,将来予測をする場合もある。
日本の農業の変革の方向と方策を明らかにするためには,統計的規則性に重きをおき,その析出を数理統計学にたよるやり方と,統計資料を重要な基礎資料としながら各種事実資料を組み合わせ問題にせまっていくやり方とがあるが,筆者は後者のやり方に従って,本書(『農業統計の作成と利用』)を執筆している。ただし,統計的規則性を数式でとらえる方法も,それが後者で位置づけられるかぎりで,検討の対象に加える,としている。
統計資料を以上のようにおさえると,次に問題となるのは農業統計である。農業統計は,農業という産業部門に属する人・企業・農家などの集団を対象に行う統計調査から作成された資料を指す。また,農業統計に関する研究対象は,農業での統計調査の企画・実施と統計資料の作成,さらに農業問題の分析と解明のために各種事実資料と組み合わせて行われる統計資料の利用である。農業の量的全体像の把握のための測定資料も常に関連資料として使われる。国民経済計算,工業統計,商業統計,林業統計,漁業統計も並行的に利用される。
その農業統計の体系であるが,筆者はそれを『農水省統計表』の目次でつかんでいる。掲げられている項目は以下のとおりである。①農家(農業生産力の担い手,営利としての農業経営,兼業化進行状況),②農用地,③農業生産資材,④農作物,⑤養蚕及び製糸,⑥畜産,⑦農産物生産費,⑧農村物価賃金,⑨農家経済,⑩林業,⑪水産業,⑫農林水産業生産指数,⑬農林水産業所得,⑭農林水産物流通,⑮農水産加工品,⑯食料需給,⑰農林水産物貿易,⑱農林漁業共済・保険,⑲農林水産財政および金融,⑳農林水産団体。
筆者はこの目次を通観し,日本の農業統計の体系がまず農業の担い手としての農家の構造,および農業生産力要素の総量をとらえ,次にその農業生産力の発現である農業生産資材の投入や農産物の産出をみ,最後にその農産物の流通と加工をみるという順序になっていて,物の流れとしての農業生産の物的順序に準じている,ととらえる。ただし,この流れは農業生産の経済的側面をみる部分(農産物生産費,農村物価賃金,農家経済),林業と水産業,農林水産物の総括(農林水産業生産指数,農林水産業所得)の三者で中断している。しかも,経済的側面は農業全体の経済や農家の経済に関するもので,農業経営を扱ってはいない。目次はこのように,全体としてかなり混乱した内容のものである。この混乱は,他ならぬ日本の農業の実態(一部に企業的農業経営を析出しながら膨大な兼業農家の堆積と農業生産の担い手の多様化)を反映したものである。