映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。前回に引き続きキネマ旬報ストテン作品から「この国の空」です。
芥川賞作家・高井有一の同名小説を、バイブレーターや共食いの脚本を手掛けた荒井晴彦がメガホンを撮った本作。終戦間近の東京での庶民の生活を母親と娘、伯母の住む家族と隣人の男との触れ合いの中で、娘の里子が妻子ある隣人の男と道ならぬ恋に落ちる時間を淡々と描いています。
戦争の情景を空襲での戦闘機が走る空と都会の一角だけに集約しした内容は、むしろ戦時下の無念さかあふれていて現実味を帯びています。里子を演じる二階堂ふみの演技は、その時代の言葉やしぐさ、未成年の女性の淡い恋心を見事に演じ、不思議な色香をもって静かに迫ってきます。
戦争とは、日常の光景を異様なものに替え、青春の思い出さえも奪い去ってしまう。そのことが人間にとって何よりも代えがたい苦痛であることを感じる作品でした。
キネマ旬報ベストテンの中で、野火。母と暮らせば。そして本作と戦後70年記念作品が三本選ばれています。安保法案の影響か、50年と言う節目とは違う70年と言う戦争の消え浮く記憶への警鐘か、ともあれ作品の質も含めて大きく影響していることは確かではないでしょうか。その意味でも記憶としての映画の重要性は時の流れと共に大きくなると感じます。