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65オヤジのスタイルブック

65才茶々丸のスタイルブック。様々なカルチャーにふれて養ったライフスタイルを紹介

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ 大阪中之島美術館

2023年12月21日 | 【美術鑑賞・イベント】

本日の美術展レビューは大阪中之島美術館で1月14日まで開催中の「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」です。

今回の展覧会は、東京での新国立美術館からの巡回展で、長沢芦雪展が同時期に開催されていることもあり去る11月23日に鑑賞しました。英国テート美術館のコレクションの中から光をテーマにして200年の美術史を巡る注目の美術展です。

先ず最初に登場するのは、イギリスを代表する風景画家であり光の画家ともいわれるターナーのモーゼの十戒をテーマにした作品。大洪水の後に降り注ぐ神の光が広がる神秘的な大作です。写実的な風景画とは異なるターナーの独特な世界観が新鮮です。

そして光と言えば印象派の画家のモネやシスレー、またターナーの同時代を生きた英国を代表するブレッドやコンスタブルの作品は自然界の光を忠実に描ききり清々しさを感じます。

一方で室内に注ぎ込む光を描いた作品では、デンマークの画家ハマスホイの抑えられた色彩の中にほのかに感じる光の表現は静けさや冷たさを感じます。また、ローゼンスタインの作品では母と子の室内での戯れをやわらかで暖かみのある光で親子の深い愛情も感じさせます。

また、戦後の抽象画家を代表格であるカンディンスキーや現代美術を代表するロスコやリヒターなど色彩を巧みに生かした表現で光と色の関係をテーマに展開されています。終盤に展示されたのは、光により作られたインスタレーションの数々。絵画での光の表現とは打ってかわり、ダイレクトに目に映る様々な光がテーマパークのような空間が広がっています。

 

膨大なコレクションの中から選りすぐれた「光」の作品は、古今東西のアートの可能性を感じる展覧会でした。

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福田美蘭展 名古屋市美術館

2023年10月28日 | 【美術鑑賞・イベント】

今回の展覧会レビューは、名古屋市美術館で開催中の「福田美蘭展」です。

一般的に日本の現代美術を語る上で思い浮かぶアーティストは誰でしょうか。今なら村上隆を筆頭に草間彌生、奈良美智などではないでしょうか。今回の展覧会の主人公である福田美蘭(ふくだみらん)は村上隆と同年代であり東京藝大時代にも重なります。僕にとって画壇での知名度は福田美蘭の方が強く今でも現代美術を平易な形で表現できる唯一無二の存在だと思っています。

福田美蘭は現在60歳。東京藝大油画専攻を卒業後、画壇の芥川賞と言われる安井賞を史上最年少の26歳で受賞、具象画から古典絵画などの名画をモチーフに彼女独自の解釈で発表する作品で注目される国際的に評価の高い画家で、今回の展覧会は彼女の画業の集大成ともいえる展覧会であり、現代美術を知る上でたいへん有意義な展覧会でした。

展覧会のポスターとなった松竹梅は、うな重のランクを松竹梅の言葉に替えバックには職人が使う手ぬぐいの豆絞りの柄を使うことで日本独自の文化が表現されています。

また、見返り美人やポーズの途中で休憩するモデルは古典絵画を多面的にとられたり、ダヴィンチのモデルとなったモナリザがポーズの途中で休憩する姿を想像して描かれています。他にも古今東西の名画を画家独自の視点でとらえることで、名画の持つ魅力を現代に問うているように感じます。




他にも初期の具象画作品にも現代美術家としての思考があり、近作には絵画芸術を通じて現代を写し取る彼女自身の役割を感じさせる作品など、個展を通じて現代美術とは何かを誰もが理解できる。福田美蘭のたおやかさを感じる展覧会です。


会期は11月19日まで。本年度必見の展覧会ですので、ぜひご鑑賞ください。

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和田誠展 刈谷市美術館

2023年10月06日 | 【美術鑑賞・イベント】

本日の美術展レビューは、刈谷市美術館で開催中の日本を代表するイラストレーター「和田誠展」です。

僕がアートの仕事に興味を抱き、現在の美術商の仕事をするきっかけになったのは、学生時代に目に触れることが多かったイラストレーターの世界でした。当時は昭和後期の70年代から80年代、雑誌を通じてイラストレーターを知り、空山基、横尾忠則、宇野亜紀良、及川正通、安西水丸さんなど、個性的な作風で雑誌や本の表紙を飾っていました。中でも東京イラストレーターズクラブの創設者のひとりとして黎明期から活躍し、イラストのみならず装丁やエッセイ、アニメ、作曲、映画監督など幅広く活躍されたのが今回の展覧会の主役、和田誠です。

和田誠は1936年大阪生まれ。世田谷の小学校に転入後、漫画や映画の世界に没頭、武蔵野美大図案科に入り学生時代から才能を発揮し、広告の世界で活躍、当時シャンソン歌手であった料理家の平野レミと結婚した頃からクリエーターとしての幅を広げていきます。若い世代にはトレイセラトップスの和田唱やその妻の上野樹里、二男の嫁で料理家の和田明日香などの父で知られてます。

今回の展覧会は、20代の学生時代から2019年にこの世を去ってからの60年に及ぶ活動を網羅した回顧展となっています。ハイライトのデザインから映画や演劇のポスターに絵本、白石和彌監督もリスペクトした作品「麻雀放浪記」の資料や映像、ライフワークと言える週刊文春の表紙絵など壁面いっぱいに飾られ、柱を使った制作エピソードや親交のある人々の証言など、どこを切り取っても楽しめる空間となっています。あらためて、氏のクリエーターとしての幅広さと深さに感嘆しました。

僕自身、今の昭和ブームには少々疑問を持っていますが、デザインにおいては当時のクリエーターの仕事の先進性と個性的な表現は現在にアートの世界に影響を与えているように思います。その意味でも昭和に活躍したイラストレーター」やクリエーターの仕事を直に観る絶好の機会が今回の和田誠展です。

今回の展覧会がここ刈谷市美術館が最終展です。イラストやデザインの世界に興味がある方はぜひ見逃すことなく足を運んでください。

 「和田誠展 WADA Makoto」展示風景(東京シティオペラギャラリー)

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八幡はるみ展 ヤマザキマザック美術館 会期終了

2023年09月01日 | 【美術鑑賞・イベント】
会期最終日に鑑賞したこともあって、会期中のレビューが間に合いませんでしたが、とてもすばらしい展覧会でしたのでご紹介したいと思います。
 
ヤマザキマザック美術館は、現代美術家の作品をアールヌーボ時代の作品や調度品などの中で展示する新旧の作品がうまく融合する展示が特徴です。とりわけ世代やジャンルを超えて女性アーティストの作品を多く紹介し、他の美術館とは一線を画す展示が魅力のひとつです。
 
今回の展覧会でも京都市立芸術大学で染色を学び、現在京都芸術大学の教授でもある染色家の八幡ひろみ氏の作品を紹介していました。日展などの工芸部門でも今もっとも活気がある染色部門ですが、八幡ひろみの作品は、大和絵を彷彿とさせる屏風作品や手染め技法ととスクリーンプリントにより染め上げた作品に染料や顔料、箔などを加えた混合技法による作品に、先端印刷技術であるデジタルプリントにジャガード刺繡を組み合わせた作品など多種彩々の作品でカラフルな庭園世界が広がっていました。
 
作品は1990年代から現在に至る回顧展的展覧会ですが、変遷する染の世界が流れていくような作品で、アールヌーボの背景にぴたりとはまり、美しくもたおやかな空間が広がっているようでした。
 



混合技法により展開されたパネルにアールヌーボのベッドに敷かれた布。

1990年代の水のシリーズ作品。大和絵を感じる青海波の文様が広がる。


デジタルプリントで様々な草花で構成された最新作。

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安藤正子展 ゆくかは 一宮市三岸節子記念美術館 9月3日まで

2023年08月30日 | 【美術鑑賞・イベント】

安藤正子は1976年生まれで、現在愛知県立芸術大学の准教授を務められています。同大学の櫃田伸也の元で主に油画制作を学び、細密な描線の油彩画や鉛筆画で知られていましたが近年は幅広いジャンルで活躍する現代美術家です。

今回の展覧会は初期の油彩画や鉛筆画はもとより、瀬戸市の移住が機縁となった陶レリーフに今回のタイトルである「ゆくかは」をテーマにした映像作品が発表されています。

第一展示室では、鉛筆画作品にパネル描かれた油彩画作品があり、細密な描写の少女像と透明感のある白い背景の作品が並び彼女のルーツを物語ります。

第二展示室では表現の幅を広げるように水彩画作品が並び、その上にパーツを組み合わせたセラミックによる陶レリーフが掲げられ素材の質感を生かした作品が並びます。さらに日常のひとコマを切り取った水彩画の平面作品は、多面的な表現に加えてモチーフを印象的に浮かびだす作品でデフォルメされた構図の中に緻密な表現が隠されているように感じます。

 

どの作品も表現は違えど、子どもに対する愛情と純粋無垢な姿が心地よいゆらぎとなって流れているようでした。

 

当館は親子で楽しめる美術館としてのコンセプトが強くある美術館で、特に夏休みの企画展示は注目です。残り少ない休みを安藤正子の世界の中で過ごしてみてはどうででしょうか。

 

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今井龍満展 メナード美術館

2023年08月28日 | 【美術鑑賞・イベント】
今回の絵画レビューは、メナード美術館で9月24日まで開催中の35周年記念特別展「今井龍満展」です。
 
今井龍満は、パリで活躍した今井俊満のご子息で31歳で画家デビューした遅咲きのアーチストです。今回の展覧会は1999年から現在に至る作品を展示した初の回顧展になります。
今井龍満は、父の元で制作補助をしながらパリで生活を共にし、父の急逝により2008年画家としての制作活動をスタート。ポアリングと言う輪郭線を画面に垂らし込む技法で注目を浴び現在に至る気鋭の画家です。
 
父俊満の存在は業界では、知られた存在でアンフォルメル運動と言う抽象表現主義の世界で活躍していました。長男の今井アレクサンドルは父と同じアンフォルメル運動の画家として知られていますが、弟の龍満は、当初画家としてデビューすることは考えてなかったようです。制作補助時代に描いていた動物画が画商の目に留まったことが機縁となりポアリングの技法で独自の世界を表現していきます。
 
今回の展覧会はデビュー前の作品から新作のDragonを含む70点の作品に加えメナード美術館所蔵の西洋絵画コレクションの中から今井自身が影響を受けた画家や好きな画家たちの作品も展示され一部自身の言葉も添えられています。
 
 
ポアリングの技法で描かれた絶滅危惧種やめずらしい動物に犬や猫、動物園や水族館で観られる身近な動物たちは、カラフルな色彩と偶然がもたらす揺らぎを感じる線描でもたらす摩訶不思議な世界がコミカルで愛らしい姿で出迎えてくれます。おそらくは、誰の目にも新鮮さと生きるエナルギーを感じることでしょう。会場にはメナード美術館のコレクションから画家自らが選んだコーナーもあり作品との相互関係も楽しめます。偶然によってもたらせらる偶然を生きるものたちの展覧会ぜひご鑑賞ください。


上段右のポストカードはコレクションで一番好きなファイニンガーの作品、下段の2枚は画家の好きなエゴン・シーレとアンリ・マティス。別館では、ポアリング技法の制作ビデオが鑑賞できます。

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特別展 古代メキシコ 東京国立博物館

2023年08月03日 | 【美術鑑賞・イベント】
今回の展覧会レビューは、番外編として東京国立博物館で開催中の「特別展 古代メキシコ」をお送りします。マティス展の後、ふと気になって次の予定の合間に鑑賞したのが本展。個人的には海外の文化的な遺跡品に興味があり詳しくはないですが、造形美に惹かれます。
特に興味があるのが、マヤ文明に代表される古代メキシコ文明。そんな出会いが偶然にも今回のアート一人旅で実現しました。

 
今回の展覧会の魅力は、前15世紀から後16世紀のスペイン侵攻前の3千年にわたり繫栄したメキシコの古代文明を「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」の代表的な3つの文明を映像と出土品を通じて視覚的に紹介していること。写真に紹介した出土品を見るだけでもとても楽しく、その造形美は他の文明に比べてユニークで親しみやすい。
来場者も若い人や親子連れが多く、展覧会の幅広い層の人気が伺われます。


出土品の他には、マヤの「赤の女王」が奇跡の初来日。女王の墓をイメージした展示空間やピラミッドや神殿の一部を組みわせたバーチャルな空間が作られ文明を渡り歩く時空旅行をしてるようです。展覧会は9月3日まで、流石トーハク、壮大な古代メキシコの歴史を楽しんでみてください。

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デヴィッド・ホックニー展 東京都現代美術館

2023年07月30日 | 【美術鑑賞・イベント】

東京アートひとり旅、二つ目の展覧会レビューは東京都現代美術館で開催中の「デヴィッド・ホックニー展」です。

東京都現代美術館は、カフェやカレーショップで注目を浴びている清澄白河駅にほど近い場所にあり、内外のコンテンポラリーアートを収蔵する美術館として知られています。当初は紆余曲折があり評価も著しく低い状況でしたが、現在の現代美術ブームに相まってコンテンポラリーアートの評価も高くなり、人気も高まっているように感じます。

さて今回のデヴィッド・ホックニー展ですがイギリス出身のコンテンポラリーアートの先駆者であり、アンディー・ウォーホルやロイ・リキテンシュタインなどと並び称される画家として現在も活躍するポップアートのアーティストで今回の展覧会は27年ぶりとなる大規模な回顧展となっています。

彼の存在は1980年代から日本でも紹介されるようになり、僕自身も仕事で修業時代に初めて購入したリトグラフポスターがホックニーでした。その後もマティスにも似た色彩と構図に惹かれポスター作品を通じて顧客に紹介してきた想い出深いアーティストです。

彼の制作活動は絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術と多岐にわたり86歳の年齢を感じさせないエネルギッシュな活動はロックダウン中にiPadを使った全長90メートルに及ぶ新作が物語っています。そして常に新しい思考で挑み続ける幅広い活動が一望できるすばらしい展覧会となっています。

会期は11月5日まで8月の金曜日は21時までサマーナイトミュージアムが開催中です。夏の暑さを避けて涼しげな空間で現代美術の最高峰に位置する彼の熱を感じてみてはどうでしょう。

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マティス展 東京ひとりアート旅

2023年07月24日 | 【美術鑑賞・イベント】

先週に恒例の東京ひとりアート旅へ。展覧会を3会場訪れたのでレビューします。今回は僕の最も好きなアーティスト東京都美術館で開催中の「マティス展」です。


20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス。独特な色彩表現でフォービスムを生み出しました。今回の展覧会は世界最大規模のマチスコレクションを要する「ポンピードゥー・センター」を中心に構成された大規模な回顧展で注目されています。おそらくは、本年度で一番の展覧会ではないでしょうか。

構成はポスト印象派の時代にフォービスムに向かおうとするマティスの初期作品から第一次大戦下を乗り越え色彩や構図の変化がわかる様々なフォービズム作品、絵画構成の基礎となった彫刻作品や大病を乗り越え、独自の切り絵技法により展開されるジャズに代表される新しい絵画表現、さらに人生最後の大作として挑んだヴァンス・ロザリオ礼拝堂の建築デザインと大回顧展にふさわしい内容となっています。

個人的には様々な構図とマティスカラーとも言うべき独自の色彩表現のフォービスム作品はもとより、色彩表現の一端が伺える初期の点描作品「豪奢、静寂、逸脱」や大戦中の室内を描いたブルーを基調にした静物画「金魚鉢のある室内」やわらかな色彩と線描を用い極限まで昇華した女性美を感じる「夢」太い線で描かれた裸婦と切り絵表現によりオレンジが余白を絶秒なバランスで配置された「オレンジのあるヌード」などが印象に残りましたが、どの作品をとっても観る人に安らぎと元気、感動を与える展覧会でした。

会期は8月20日まで。巡回展はありませんので美術ファンなら、ぜひ東京に足を運ぶべきです。マティスの世界を十二分に堪能してみてください。

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マリー・ローランサンとモード展 名古屋市美術館

2023年06月29日 | 【美術鑑賞・イベント】

今回の展覧会は、同時期に生まれ1920年代にパリで活躍した画家マリー・ローランサンと服飾デザイナーのココ・シャネルにスポットをあてパリで芽生えた新潮流を紹介する先鋭的な美しさで彩れた展覧会です。

パリで生まれピカソやブラックなどの交流を通じて新しい芸術表現に挑んだローランサン。淡い色調と独特な美しさのあるフォルムで描かれた女性像は女性ファンのみならず世界的にも愛された芸術家です。一方フランスの片田舎で育ち、自らの才能でファッション業界に一石を投じシャネルスーツに代表される独自のファッションを作り上げたシャネル。

今回の展覧会は異なる意識を持った女性の才能が対峙するような展示となっています。そのことを裏付ける作品としてシャネルが自らの肖像画を依頼しながらその作品に異議を持ち受け取りを拒否したシャネルと画家としての信念を貫き修正しなかった作品「マドモアゼル・シャネルの肖像画」とマリー・ローランさんの「わたしの肖像画」象徴的に出迎えます。

 

マリー・ローランサンの作品は、二つの大戦の狭間で花開くパリの「狂騒の時代」に絢爛華麗な社交界の女性たちをパステルカラーもシンプルな表現で描いていますが、こうした表現が受け入れられたのも当時の社交界の持つ気質ではないかと伺われます。また当時のパリは若き芸術家たちの集まる場でもありピカソやブラックなどの画家たちはもとより、コクトーやマンレイなどの様々な分野で新しい文化が花開いていきます。

ローランサンもそうした人々の影響を受けキュビズムの技法や舞台芸術や装飾芸術の分野にも進出しています。そうした功績もバレエ・リュスの映像やタペストリーなどの装飾などで紹介されています。

後半ではローランサンの作品と共にモダンガールの登場により新たなファッション・アイコンとして生まれたシャネルの衣装や作品が展示されカール・ラガーフェルドによる現代に継承されるシャネルの功績が紹介された展示となっています。

ともすれば画家の周辺による展示しかなされなかったマリー・ローランサンですが、同い年でありながら異なる美意識を持って同時代を代表する女性であったシャネルとローランサン。響きあう二人の芸術の調べは異なるも魅力的なものでした。絵の好きな人もファッションが好きな人も共に楽しめる展示となっています。

会期は9月3日まで、巡回展の最後となる展覧会ですので興味のある方はお見逃しなく。

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重要文化財の秘密 東京国立近代美術館

2023年04月06日 | 【美術鑑賞・イベント】

東京アートひとり旅の最終レビューは、東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」です。

 

今回の展覧会は、近代美術の重要文化財68点のうち51点が全国から集結したとても価値のある展覧会です。なぜ価値があるかと言うと重要文化財作品保護の観点から公開が限られているからです。さらにこれらの第一級の美術品が一堂に介することはまず難しいからです。そして、ここ東京国立近代美術館は近代美術の重要文化財の大半を所蔵しているからこそ今回の展覧会が実現したと言えます。

日本の美術史において近代美術は分岐点であり新しい芸術のスタート地点ともいえます。現在の日本の芸術の革新の源は近代美術から始まったと言っても過言ではないと思います。また、今日の洋画、日本画、工芸の世界においても新しい潮流であり、当時の美術界においては問題作と言える作品が数多く存在します。

たとえば洋画作品で初の指定となった高橋由一の「鮭」は写実表現の傑作でありその質感を表現するために切り取られた皮の脂との対比で表されたいわれています。また、後期の展示となりますが菱田春草の「黒き猫」は文展の審査員を委嘱された春草が制作期間5日間でありながら春草の独自の表現方法が散りばめられています。

また、関東大震災の潜り抜け100年の経過でありながら見事な保存状態と水墨画の傑作である大絵巻である横山大観の「生々流転」や長く行方が分からず昨年新たに重要文化財となった鏑木清方の「築地明石町」の美人画など枚挙にいとまがないです。

現在では何か「現代美術」だけが革新的なもののように思われがちで、難解な芸術表現や意味不明な作風に目を向けがちな昨今ですが、近代美術における重要文化財の革新性は観る人を容易く理解でき、さらに深く芸術への感動を誘うと思います。

会期は5月14日まで(菱田春草の「黒き猫」は5月9日から14日まで)まだ一か月余りと余裕があります。美術ファンなら見逃せない展覧会ですのでぜひご鑑賞ください。


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佐伯祐三 ―自画像としての風景展 東京ステーションギャラリ

2023年04月04日 | 【美術鑑賞・イベント】

 

 

佐伯祐三 自画像としての風景 | レポート | アイエム[インターネットミュージアム]

東京アートひとり旅での今回の展覧会レビューは東京ステーションギャラリー(4月15日から大阪中之島美術館)「佐伯祐三 ―自画像としての風景」です。

佐伯祐三は30才でパリで死んだ近代洋画家のスターして知られてますが、その画業は僅か10年余り戦争中にほとんどの作品を焼失し、現存する作品も100点余りと極めて少ない画家です。また、本格的な活動は2回のパリ遊学の4年余りとなっています。

今回の展覧会は、自画像としての風景を題し中之島美術館の作品を50点を中心に東京藝大時代の卒業作品やが学生時代の自画像から始まり、2度のパリ遊学時代の内外の風景作品に郵便配達夫やロシアの少女などの人物など彼の画業のすべてを網羅した展覧会です。

藤島武二に師事していた頃の印象派の影響漂う作品やパリ時代にブラマンクから「このアカデミックな!」と批判されたことで荒々しい筆さばきとデフォルメされたパリの建物など明らかにブラマンクの影響が色濃く残るパリの街角の風景画、ユトリロの影響を色濃く残す後年の風景作品など、独自の絵画世界を見出だそうと苦悩する姿がキャンバスの投影されいるように感じます。

しかしながら佐伯祐三が100年にも及び常に評価され続けているのは、著名な画家たちの影響を常に受けながらも、その向学心により佐伯スタイルとも言う絵画世界が確たるものとして存在しているからに違いないです。

偶然のタイミングで28歳にこの世を去ったエゴン・シーレの展覧会と本展との出会いを思うと、娘の死と共に妻にも看取られず一人孤独に死んでいった佐伯祐三、決して幸せな時間は多くなかったとは言え夭逝の画家の運命を背負い後世の人々に感動を与え続けていく存在であると感じます。


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レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才 東京都美術館

2023年04月01日 | 【美術鑑賞・イベント】

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才|イベントのチケット ローチケ[ローソンチケット]

先月の3月21日に東京にアートひとり旅に出かけてきました。展覧会を三カ所巡ってきましたので順に展覧会レビューをしたいと思います。先ずは、今回の最優先美術展の4月9日まで東京都美術館で開催の「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」です。

エゴン・シーレと言えば、クリムトと並ぶウイーン世紀末の画家です。クリムトとは師弟関係にありクリムトがその才能を高く評価していましたが、28歳の若さでスペイン風邪によりこの世を去ります。今回の展覧会は日本での展覧会史上最大のエゴン・シーレ展でレオポルド美術館が誇るシーレ最大のコレクションを中心に展示されています。

展覧会は、シーレ初期の写実的な作風から始まり、ウイーン分離派時代、表現主義へと移行し新しい表現へと進みながらも、病による突如終焉を迎える彼の芸術へのメッセージと共に構成されています。またクリムトやウイーン分離派の画家や表現主義の周辺作家などの作品を多数展示されています。

観る者に問いかけてくるような自画像、生と死が共存する世界、微笑むことのない女性像、不安定な構図が印象的な静物や風景画など多彩な作品の中にどこか孤独を感じる哲学的な表現は、どの作品も強い存在感を持っています。

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才 | 東京都美術館 | 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才 | 東京都美術館 | 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ

シーレと言えば妖艶で退廃的な自画像や女性の裸婦像などを思い浮かべます。自らの死を受け入れたかのような作品は、芸術によってのみ表現できないシーレの死生観を感じます。反体制的で自由な表現で若くして注目されたシーレはパトロンや恋人、後の妻などによる将来を保証されていました。もし、彼が生き続けていたら、芸術の世界はどう変わっていったのか、そんな夢を抱く画家ではないでしょうか。

決して万人受けしない作風でありながら多くのファンを魅了するシーレ、天才シーレの強烈な個性に触れてみてはどうでしょうか。


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アンディー・ウォーホル・キョウト 京都市立京セラ美術館

2023年02月23日 | 【美術鑑賞・イベント】


本日の美術展レビューは異彩を放った芸術家・第3弾アンディーウォーホルの「アンディ・ウォーホル・キョウト」です。
今回の展覧会は最終日に駆け込み鑑賞しましたが、大変ない賑わいでウォーホルの人気の程を伺えます。
当時芸術不毛の地であったアメリカにポップアートと言う新しい芸術文化をもたらしたウォーホル。
ある意味で現在のアート人気の先駆けと言える存在です。
またファクトリーと言われる文化拠点は、音楽や映画などの文化の橋渡しとしてアメリカ文化を牽引してきました。大きく貢献しています。
 
 

広告デザイナーとしてスタートした彼のドローイングは、繊細でカラフルでポップアート作品とは異なります。今回の展覧会では数々のドローイング作品スタートしてました。ドローイング作品は個人的にも好みで、20代の頃にギャラリーで入手した猫の画集はお気に入りです。
 
そして彼の生み出したポップアートの世界はヨーロッパの芸術文化に対するアンチテーゼとして芸術を商業的なものとして捉えている点が特徴ですが、シルクスクリーンにより制作された代表作のキャンベルスープやブリロに有名人の肖像画など、画面いっぱいに彩られ展示された空間は、テーマパークのような面白さがありました。
また、タイトルにあるように、彼の日本来日や京都滞在の記録もあり、日本に対する彼の思いも伺い知ることができました。

 
今後ウォーホルの作品は、海外の現代美術のようにオークションにより取引され高値を続けていくことでしょう。ただアンディー・ウォーホルの存在は、絵画芸術の枠を飛び越えて時代の象徴であり続けることは間違いありません。
 
今回取り上げた岡本太郎、甲斐荘楠音、アンディー・ウォーホルの三人に共通していることは芸術家としての存在を越えた文化を作り上げた者たちであると感じます。そして、こうした芸術家が人々の記憶に刻まれるのではないかと思うのです。


旧美術館を囲むように新装なった京都市立京セラ美術館、新旧の融合する空間は京都らしい文化を感じますが、どこか観光地化されたテーマパークを思わせる演出が人も含めあり滑稽に感じたのは僕だけでしょうか。


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甲斐庄楠音の全貌 京都国立近代美術館

2023年02月19日 | 【美術鑑賞・イベント】

本日の美術展レビューは、異彩を放った芸術家にスポットを当てた展覧会第2弾として京都国立近代美術館で開催中の「甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)の全貌」です。
 
甲斐荘楠音は、大正から昭和にかけて京都画壇で活躍した日本画家で、後に映画界に転身し京都太秦で舞台芸術家や時代考証などで映画界に寄与したい異色の芸術家です。僕が甲斐荘の存在知るのはかれこれ30年前にさかのぼります。
 
日本画の世界で美人画と言えば、舞妓や芸妓の美しい姿を思い浮かぶ方も多いと思いますが、彼が描く美人画は美醜を併せ持つ一種異様な出で立ちで妖艶さを漂わせる作品です。甲斐荘は裕福な家柄で育ち、幼少期から歌舞伎や芝居を好み自らも演者と舞台に立ったといいます。
彼の描く女性像は、女性が持つ色香が画面全体に漂い人間の本質を作品から伺い知ることができます。そんな独特な画風は当時所属していた国画創作協会の村上華岳にその実力を評価される反面、土田麦僊には、穢い絵と蔑まれ展示を拒否されるという事件に発展します。そのことが機縁になったかどうかは定かではないですが、当時の京都画壇にそぐわず画壇から去り映画界に転身します。
 
映画界に転身した甲斐荘は時代劇映画の風俗や時代考証、衣装デザインなどを手掛けることになるのですが、その業績は素晴らしくヴェネチアで銀獅子賞を受賞した溝口健二監督の雨月物語で風俗考証を担当し、後に同作でアカデミー賞の衣装デザイン賞にノミネートされています。このことでもわかるように京都太秦の映画撮影所での衣装、風俗考証においての功績は高く日本画家と映画人の二面性を持った芸術性の高さを感じます。今回の展覧会でも市川右太衛門主演の旗本退屈男シリーズで甲斐荘が考証した舞台衣装が大量に確認され、今回当時のポスターと共に展示されています。
 
展覧会をつぶさに鑑賞し甲斐荘楠音の人と也を知るにつけ、彼のような芸術家は今の時代には欠かせない人のように思います。息苦しい世の中に生まれ自らの意志で選択をし画壇に翻弄されながらも自らの芸術の世界を生き抜いた稀代の画家の全貌に目を向けてみてください。