

刈谷市美術館で開催中の「野口哲哉展」に先日出かけて来ました。
野口哲哉作品との出会いは2014年の大山崎山荘美術館に出かけた時の偶然の出会いでした。鎧、兜に身を包んだ戦国の時代の人々のフィギュア。その精巧さに魅了されたと同時に彼らの表情は勇猛な姿ではなく、人間味あふれる日常のしぐさで、よく見ると現在のバッグやスニーカー、携帯電話をもっている摩訶不思議な世界で、僕は一瞬に野口ワールドに魅了されました。
そしていつか、彼の世界をまた鑑賞したいと熱望していたのですが、刈谷市美術館から送られてくる広報物に野口哲哉展開催の告知を発見しました。僕が感動した世界を知ってほしいと、アート仲間と共に鑑賞しました。
野口哲哉は1980年生まれの41歳の新鋭で広島市立大学芸術学部の油絵画科卒業、その後同大学院を修了し無所属の作家です。個展キャリアは僕が観た2014年と2018年、2019年、そして今回の個展と4回ですが、その間にCHANELやAudi Japanなどの企業とコラボレーションした作品に羽田空港国際線ターミナルでアートディレクションを手掛けています。
今回の作品展は初期から新作までの180点を展示、フィギュア作品から平面の絵画作品と野口哲哉ワールドの全貌が紹介された魅力的な展覧会です。今回の刈谷市美術館の展覧会で終了となります。残り少ない期間を見逃さずぜひご鑑賞ください。
先日、佐藤健と阿部寛、清原果耶共演の東日本暖震災後の東北を舞台にしたヒューマンミステリー「護られなかった者たちへ」を鑑賞してきました。
震災後から9年後、宮城県内の連続餓死殺人事件が2件発生、被害者は市役所で生活課に勤務していた職員の男で宮城県警捜査一課の笘篠は二件の事件の共通項から、出所間もない利根泰久を容疑者として浮かぶます。三件目の事件発生を予測した笘篠は利根を逮捕するが利根を犯人と確信できない笘篠は、利根と過去を調べ始めます。果たして犯人は利根か。
監督が64の瀬々隆久、原作は中山千里の同名原作で、主題歌を桑田佳祐が担当しています。今回の作品は震災がもたらした貧困と受給者僅か1%の生活保護受給における制度問題が主題となっています。
事件の発端となった過去が阿部寛演じる笘篠の真相究明の手がかりとして震災後の過去が描かれています。利根の過去と深く関わる人たちとして、家族を失い一人となり現在は生活課に勤める円山幹子を「おかえりモネ」で現在ヒロインを演じている清原果耶が夫を亡くしながら利根と幹子の面倒をみる遠島けいを倍賞美津子演じていますが、子供時代の幹子を演じた石井心咲と共に克明に演じていて心打たれるシーンの連続でした。
また、被害者も含めて人間の善悪の二面性がうまく描かれていて、生活保護問題についても考えさせられる点が多くありました。重いテーマを犯罪ミステリーとして昇華によって問題提議した原作者の中山七里と映像として再現した瀬々隆久監督のヒューマンドラマをぜひ観てもらいたいなと思います。
シリーズ21作目、ダニエル・クレイグ最後のボンド最新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」を初日に観てきましたので感想と感謝を込めてお送りします。
007シリーズは僕の子供の頃はショーン・コネリーボンドをお茶の間で刷り込まれるように公開されてきたので、その後の歴代ボンドにはシリーズは観ていてもあまり興味を持てなかったのですが、2006年にダニエル・クレイグをボンドを演じたことで僕の中の最高ボンドとして釘付けになりました。コロナの影響でかなりの時間を経過し、今回の作品が彼の最後のボンドとなるので、その雄姿を脳裏に刻むべく臨みました。
現役を退きジャマイカで暮らすボンドの元にCIAの旧友がたずねます。科学研究所から科学者たちと共に持ち出された細菌兵器を取り戻す任務を受けます。そこにはかつての恋人だったマドレーヌが関わっていて、マドレーヌと過去が徐々にあぶり出されていきます。さらに、そには今回の事件の主犯が関係しているという絡みあいが。
ボンドの過去と複雑に絡み合いながら、過去のアクションシーンを彷彿とさせるような様々なシーンの連続は最後にふさわしい演出でさらに彼が愛した二人の女性の存在との関係もおもしろいです。
とにかくラストにふさわしい演出とダニエル・クレイグ最後のボンドに目を離さず見届けてほしいです。
ありがとうボンド、さようなら最高のボンド、ダニエル・クレイグ。
サラリーマンがスパイ!ベネリクト・カンバーバッチ主演の事実に基づくスパイサスペンス作品「クーリエ:最高機密の運び屋」を鑑賞
現在ダニエル・クレイグ最後のボンド007の最新作が上映中ですが、今回はスパイと言ってもMI6の命を受けたイギリスの民間人が主人公となるスパイ、しかも彼がキューバ危機を救った実在の人物です。
米ソ冷戦時代の1962年。ソ連がキューバに核ミサイルをアメリカに向けているとの情報は入るあのキューバ危機の時代です。主人公の英国人セールスマンのグレヴィル・ウィンは、民間人にも関わらずCIAとMI6の依頼を受けてモスクワへと飛ぶます。グレヴィルは国に背きソ連軍参謀本部情報総局の高官ペンコフスキーとの接触し機密情報を西側へ運び続けます。
前半は、家族にも知らせることが出来ず、セールスマンの腕を買われて任務を遂行するグレヴィルと戦争を回避を願うペンコンスキーの緊張感の中で信頼を深め友情を育んでいく二人の交流が描かれています。口ひげにスーツ姿のサラリーマンを演じるカンバーバッチは、今までの配役とは異なる風貌です。クールなイメージを逆手にとり、ビジネスユーモアでソ連で表のビジネスマンを演じるカンバーバッチが、後半では容疑をかけられ投獄され地獄の生活を味わいます。獄中でのカンバーバッチは真実を再現するために丸刈りで10キロ以上の減量で挑んでいます。
一人の人間として戦争を命がけで回避しようとしたグレヴィルとペンコンスキー、二人の運命はラストで異なる運命をたどりますが、二人の絆に感動しました。戦争兵器の進化により一瞬にしてすべてを失う危機をはらむ戦争。自らの信念と使命に生きた二人の姿を通じて学びぶことは多くあります。
金井純一監督&ムロ・ツヨシさんが初主演したヒューマンドラマ「マイ・ダディ」を鑑賞
僕の好きな俳優の一人、ムロ・ツヨシさんが初主演した今回の作品、テレビの初耳学でのインタビューを観て知り楽しみに鑑賞しました。
物語の主人公は牧師の御堂一男、8年前に妻を亡くし中学生の娘ひかりと二人暮らし。ガソリンスタンドのアルバイトをしながらの貧しい暮らしですが、教会を訪れる人々や最愛の娘と幸せな生活を送ってます。そんな生活の中突然娘が白血病を発症します。さらに適合手術のために受けた検査で二人の間に親子関係がないことを知らされます。最愛の亡き妻への不信感を持ちながらも、一男は娘のドナーを見つけるために本当の父親を探します。
前半は二つのストーリーが同時進行で進む感じですが、実は過去と現在がリンクする形となっていることにやがて気づきます。その過去が出生の秘密となっているのですが、少し時間のズレが生じていることに突っ込みを入れたい方もいるかと思いますが、今回のムロ演じる主人公が牧師であり、それぞれの愛がテーマとなっているので、そこは差し引いてください。
娘の病によって、男女の愛、家族愛、隣人の愛と愛がいっぱい詰まっていてとても温かい気持ちになります。そしてムロ演じる一男の愛が涙を誘います。体罰、イジメ、虐待など愛を感じない事件が多発している昨今、この映画を通じて愛の大切さを感じてほしいです。
古田新太主演、松坂桃李共演でヒメアノ〜ルの作品が印象に残る吉田恵輔監督のヒューマンサスペンス映画「空白」を鑑賞
物語は、古田新太演じる気性が荒く中学生の一人娘と暮らすシングルファーザーの漁師が、スーパーで万引きをし逃げ出した娘を松坂桃李演じる店長が追いかけたことで車で轢かれ事故死に。娘の無実を信じて疑わない父は、事故の発端となった店長の執拗に追い込みます。さらにマスコミも彼の行動を追いかけることで事件は町全体に広がることとなり、被害者と加害者双方への嫌がらせが広がっていきます。
コミカル演技や舞台役者として活躍する古田にとって、シリアスな役柄は初めてで当初はあまり乗り気ではなかったそうですが、吉田監督や新聞記者や宮本から君への企画で知られる河村光庸の強いオファーで実現、悔悟の念を持ちながら怒りの矛先を他人に向ける父の迫真の演技が秀逸です。また近年、様々な役柄を演じている松坂桃李も、人間の持つ二面性をうまく演じていて古田と動と松坂の静がうまく絡んでいました。また、事故の関係者や二人と関わる人々の心理描写も作品のアクセントしてうまく生かされています。
事故に関係した人々は被害者の父の行動に翻弄され追い込まれて絶望的な状況が続いていきますが、後半で、ある事を境にかすかな光が見いだされます。
今回の作品は吉田恵輔監督のオリジナル作品として代表作となることは間違いない、とても印象に残る映画でした。
今回はヒュー・ジャックマン主演のSFサスペンス映画「レミニセンス」を観てきましたのでご紹介します。
舞台は温暖化の影響で多くの都市が水に覆われた近未来都市。ヒュージャックマン扮するニックは記憶潜入=レミ二センス装置でクライアントの幸せな記憶を蘇らせる仕事をアシスタントのエミリーと共に行ってます。
ある日、検察から瀕死の重傷を負った新興の麻薬組織の一員の記憶に潜入し組織の実態を暴いてほしいと依頼を受けます。彼の記憶を辿るうちにクライアントでニックと恋仲になり突然行方不明となったメイが組織と関わっていることを知ります。
事件の真相を自らが装置の中に入り、メイの過去を辿りながら組織との関係を突き止めようとするニック。仕事そっちのけでメイの行方を追う恋患いにも似たニックの心理描写を利用しながら組織の解明と陰謀を暴いていく内容ですが、前評判では、過去と現在、そして未来がレミニセンスによる観る人が騙される超大作の触れ込みでしたが、筋道をちゃんと辿っていくと事件の真相が明確になるシンプルな内容に思いました。
ラストでは女性監督らしいラブロマンスな結末となっていますが、視点を変えると内容的にはもっと濃い内容に収まるのかと思います。今回の作品は恋に溺れた男が装置を使って執拗に女を探し求める執着心あってのドラマ展開です。大抵の男は恋は成就せずですが果たしてニックの結末はいかに。
映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回はプロ野球を夢見る高校生女子野球選手の軌跡を描いた韓国映画「野球少女」です。今回Netflixで視聴できるようになったので鑑賞しました。
梨泰院クラスでマイノリティの居酒屋スタッフを演じたイ・ジュヨン主演の本作、今回はプロ野球を夢見る女子高生野球選手役で登場し、チームメートには、「サイコだけど大丈夫」や「ヴィンチェンツォ」にも出演したイ・ジョンホ、彼女を支えるコーチ役にチェ・ジンテなど、選りすぐりのバイプレイヤーが出演しています。
物語は、天才少女と言われた高校野球女子のチュ・スイン、130キロ台の速球を武器に特例で高校野球チームの一員として活躍、幼なじみでチームメートのドンヨンと共にドラフト指名を待っていたのですが、ドンヨンは指名され彼女は指名から漏れます。
プロ野球選手を目指し野球を続けてきたスインは納得できずトライアウトを受けようとしますが、女性であることを理由に門前払い、150キロ台の速球を投げれないならプロでは通用しないと宣告されます。留年覚悟で野球部に残り投球練習に励む彼女にプロになれなかったジュニョクがコーチとして赴任してきます。スインにプロを目指すことを諦めさせようとしますが、彼女の熱意に打たれたジュニョクは、彼女に秘策としてあるボールを教えます。コーチとドンヨンの助けを受けスヨンは再びトライアウトに挑みます。
日本では女子野球チームが誕生し、高校女子野球の甲子園決勝戦が開催されるなど女子野球の存在がクローズアップされつつありますが、男子と交じり野球をすることはリトルリーグまで。水島新司原作の水原勇気が漫画で登場するくらいで、女子が男子と一緒にプレーすることは夢のまた夢でしょう。
しかし、この映画はひょっとして女子プロ野球選手誕生を野球通なら可能にさせるリアルな手法が描かれています。また、チームスポーツにおける男女共存の難しさと韓国社会を背景にした男女平等に与えられていないチャンスを呈示しています。このことは日本社会でも通じることですが、ふと思ったのは唯一パラリンピックでの車イスラグビーでの女子選手の出場で不可能ではないと思いました。
ラストでスヨンは、自らの主張を通してそのことを訴えています。果たして彼女の夢は叶うのか、その結果は皆さんの目で確かめてください。
今回はM・ナイト・シャマラン監督の最新作「オールド」を観てきましたのでご紹介します。
ブルース・ウイルス主演のシックスセンス、アンブレイカブル、近作ではスプリットなどの作品で知られるスリラー界の巨匠でハルキストならぬ自称シャマラニストを名乗るほどファンも多いシャマラン監督ですが、一時は低迷期もあり時に裏切り、絶望させることも多いのですが、今回はかなりの秀作です。
インターネットで格安で手に入れた旅行で訪れた姉弟の4人家族。リゾートホテルで紹介された未開のビーチを訪れた家族には不幸に見舞われます。そのビーチは何と一日で一生の時間を終えてしまう恐怖のビーチだったです。急激に年老いていく謎のビーチに取り残された人々は、他に妻と娘を持つ医師にその母に一足先にビーチに訪れていたミューシャンの男と看護師と精神科医のカップルで人々は、時間の経過が早いビーチから脱出しようと策を講じます。
ビーチでは時間経過の速さの原因がシャマラン監督得意の超常現象で語られるのですが、人々の年老いていく様が未来の設定をもとに逆算して作られていて僕はおもしろいと思いました。また、後にわかる脱出方法やリゾートホテルでのウエルカムドリンクなど、様々な要因が加味されて結末へと進んでいきます。
シャマラン作品は、評価が極端に分かれたりします。今回の作品も評価が分かれる作品だったようです。ただ、シャマラン作品は超常現象にスポットを当てた作品が多いので理論上で語るのには無理があります。ただし、作品に散りばめられた点を紡ぐように線で結んでいくとけっこう辻褄が合います。
今回の作品は、時間の経過が早いビーチでの出来事にこだわることよりも、ラストに視点をおくと全てが結末と結びつき、そこに集約されていきます。僕は、シャマラン監督結末へのトリックの巧みで上位にランクするかなと思っています。
1969年の夏、ハーレムで行われたもうひとつのウッドストックがあった。今回の映画は日の目を観なかったブラックミュージックに燦然と輝くフェスティバルの全貌を蘇らせた「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」を観てきましたのでご紹介します。
1969年のアメリカは公民権運動の渦の中でカウンターカルチャー史に輝くウッドストックフェスティバルが開催された年です。フェスティバル未経験の若者たちのよりニューヨーク郊外で開催されたフェスティバルがジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスなど当時の人気ミュージシャンの参加と無料コンサートに変更したことで全米各地から60万人の若者が集まり、今も伝説のフェスティバルとして語り継がれています。
当時はキング牧師やマルコムXなどによる公民権運動に加え、彼らを支持したケネディー大統領の暗殺、弟のロバートの暗殺事件に加えベトナム戦争が勃発するなど権力との対峙が激しい時代でした。そうした時代背景があってウッドストックは、当初の予想を超えるものへと発展したことは明らかです。
ウッドストックが行われた1969年の夏にウッドストックより先に、そして人種差別撤廃の理念のもとに行われたブラックミュージックの祭典がハーレムの野外公園で行わました。ハーレム・カルチュアル・フェスティバルと題した祭典は6月29日から8月24日まの6回の日曜日に無料開催され延べ30万人を数えるフェスティバルでしたが、黒人差別が色濃く残る時代にあってウッドストックの陰に隠れ、主催者であるハル・トゥルティンの自宅に記録フィルムは眠ってしまいます。
今回の映画は、その記録フィルムを基に当時の出演者や観客の証言を加えて構成され、ヒップホップ界の重鎮、クエストラブが監督しアメリカで重要なフィルムフェスティバル「サンダンス映画祭」で上映されるや観客賞、審査員賞大賞を受賞しています。
出演者は若き日のスティーヴィー・ワンダー、ブルースの王様、B.B.キング、日本でもおなじみの黒人ポップグループのザ・フィフス・ディメンション、ゴスペルの女王スマヘリア・ジャクソンにステイプル・シンガーズ、、モータウンのグラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップスにウッドストックに出演した黒人&白人混合バンド、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、マルコムXとも親交があった黒人女性運動家でもありブラックミュージックのアイコンでもあったニーナ・シモンなど、ゴスペル、ブルース、ソウル、アフリカンミュージックなどブラックミュージックの歴史と今が集結した夢のような祭典です。今回ドルビーシアターで鑑賞しましたが、映像フィルムの美しさと音質は、ウッドストックの比ではありません。貴重なフィルムを保管しいつか世に出ることを願ったトゥルティンに敬意を抱きます。
そして、膨大な記録フィルムは当時のブラックカルチャーを反映し歴史の証言となっています。そこにはサブタイトルにあるように革命がテレビ放映されなかった時代を反映してます。監督であるクエストラブは現在のアメリカの黒人に対する差別と同じ空気を感じたそうで、このドキュメンタリーが高く評価される一因でもあります。
この映画は黒人の暗黒史に一筋の光明となる重要なドキュメンタリー映画となるでしょう。その音楽と共にソウル・魂をぜひ感じてください。
白石和彌監督、松坂桃李&鈴木亮平共演のヤクザ映画「孤狼の血 LEVEL2」を鑑賞してきました。
先ずは観てる人も観てない人も、前作の弧狼の血のおさらいをしたいと思います。
舞台は昭和63年の広島。呉原市(架空の町・呉市がロケ地)では五十子会系加古村組と尾谷組が勢力争いを繰り広げる中で、役所広司演じるマル暴刑事の大上の元に松坂桃李演じる新米刑事日岡が配属されます。実は日岡は暴力団との癒着の噂がある大上の内偵調査のために送り込まれた広島県警のスパイだったのですが、大上はスパイと知りながら、日岡と組むことで大上の後継者に仕立て上げ大上の死をきっかけに尾谷組若頭の江口洋介演じる一ノ瀬が五十子会会長を殺害すると企てを日岡が立てたことで大上の後を引く継ぐことに。
今回の続編では、大上の後釜に座った日岡が自らの工作により手打ちとなった加古村組を継いだ五十子会と尾谷組でしたが、鈴木亮平演じる五十子会の組員上林の出所をきっかけに、上林と手下によるある殺害事件により両者の秩序が崩れ、日岡が追い積まれると言う内容です。
前作も熱気がムンムンするヤクザ映画の醍醐味を感じたが、今回は鈴木亮平役のムショ帰りの上林の狂気が爆裂してとにかくエグい。おそらく、こんな亮平誰もみたことないと思います。主役の松坂桃李演じる日岡をはじめ全ての役者が鈴木の悪の演技に染められた感じがしました。作品もバイオレンスと共に人間の業や情念みたいなものがスクリーンに叩きつけられた感じがして続編としては前作を超えた感じがします。
そして、もうひとつの見どころは日岡を取り巻く因縁がおもしろい。残忍な上林は前作で一ノ瀬に殺害された五十子会会長の敵討ち以外は眼中になく彼の残忍さを作りあげた過去や日岡が上林の元に送り込んだ村上虹郎演じ宇るチンタが上林の恐怖と日岡との信頼感の狭間で次第に崩壊していく様や日岡を息子のように慕う中村梅雀演じる定年近い元公安の相棒刑事瀬島との関係なども見どころのひとつです。
白石監督は、東映ヤクザ映画「仁義なき戦い」シリーズのオマージュとしてこの作品を作っているようですが、日本のやくざ映画に影響された、香港や韓国のノワール作品とは異なる日本のやくざ映画でしか作れない登場人物すべてに人情味も加えたジャパニーズノワールを作り上げたような感じがします。
映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は、内山拓也監督、藤原季節主演の青春映画グラフィティ「佐々木、イン、マイマイン」です。
今回の作品は、劇場で目に留まったのですが見逃した作品で、今回DVD化で鑑賞しました。東京藝大卒の人気ロックバンド「King Gnu」や平井堅のPVを手掛けた内山拓也監督で主演はドラマ「監察医・朝顔」でも監査官役でレギュラー出演していた藤原季節が売れない役者石井悠二を務めています。他にも悠二の後輩役者に村上虹郎に、彼を取り巻き仲間たちなど個性的な若手俳優が顔を揃えています。また、King Gunのボーカル井口理もチョイ役で出たりしてます。
物語は、売れない役者の悠ニは同棲相手ともうまくいかず、アルバイトで生計を立てる日々。そんな時にバイト先で高校時代の友人と多田と出会いクラス一のずば抜けた個性派だった佐々木の話になります。実は悠二は佐々木のススメで役者を志すのですが、後輩の出演する舞台に誘われ稽古に励む中で、突然佐々木から電話がかかり、現在と過去の佐々木や彼の仲間たちの思い出がリンクしながら進んでいきます。
クールで物静かな悠二とは対照的な制御不能で予想外な行動を起こす佐々木の異なる個性の対比がとても面白く、佐々木の境遇と共にその言動がシンプルなのに哲学的で佐々木の存在に釘付けなりました。そして仲間たちの心に深く刻まれる展開が、ただの青春映画とは違う強烈な印象がありました。
佐々木を中心にした仲間たちの高校時代の疾走感と卒業後の悠二と佐々木を中心にした焦燥感が言葉や行動の中に見事に表現され、圧巻のラストに度肝を抜かれました。間違いなく日本を代表する青春映画の一本だと思います。
映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は松坂桃李がオタク青年を演じたコミカル青春映画「あの頃。」です。
本作は今泉力哉監督によるもので成田凌と岸井ゆきの主演の「愛がなんだ」がとても良かったので今回DVDにて視聴することに。
松浦亜弥のMVを観てハロプロのアイドルにはまってしまった主人公劔とハロプロ研究会的な自主イベントを主催する仲間たちの交流と友情を描いたいるのですが、松坂を除けば超個性的な俳優陣にお笑い芸人のコカドケンタロウを加えた仲間たちのハロプロ愛と微妙で奇妙な男たちの友情がコミカルに描かれています。
レビューでは内容の割には長いとの批判もありますが、僕はおもしろく観れました。僕自身は中学生のほんの一時期にアイドルへの憧れがありましたが、当時は親衛隊の存在はごく限られたメンバーで構成されていて特別な存在でした。
現在のアイドルはモーニング娘。の誕生によるその後のAKBへと続くアイドルの作られ方につながっていくのですが、かつての親衛隊とは違うオタクを突き詰めたオタク道の世界が作られています。そんな一ページをこの作品では描かれています。
そして、もうひとつのテーマは仲間の死に向かい合うこと。松坂演じる主人公と同じくらい強いインパクトを見せたのは仲野太賀演じるコズミン。最近とみに演技に深みが増してきた仲野が仲間たちの中で最も自己中心的で、他のオタクとは違うアイドルの幅広さとスケベさが際立っていて中盤から後半に向かい、映画の主人公は彼になっていきます。
そこから男たちの特殊な人間関係がなぜか心を揺さぶってきました。何かに真剣に向かう青春がそこにあります。
今回はNetflixのおすすめ映画をご紹介します。今回は、パク・フンジョン監督による韓国ノワール「楽園の夜」です。
Netflix
アジアのノワール映画は香港から始まり韓国へと移行。今ではアジアノワールの最高峰としての地位を韓国ノワールを確立しているように思います。そこには、韓国の歴史と文化が深く関わっているからではないでしょうか。今回の楽園の夜は「新しき世界」「The Witch 魔女」のパク・フンジョン監督の手によるもので、2020年ヴェネツア映画祭に正式出品されています。作品の雰囲気は北野武作品の雰囲気を漂いますが、壮絶かつ哀愁を帯びたノワール作品の特徴をうまく捉えています。
暴力団構成員テグは、姉と姪を殺された報復に敵対組織のボスを襲撃し、組織の指示で済州島に住むある家族の元に身を隠す。身を隠した家族である女性ジョヨンと出会い束の間の休息を得ていたが、敵対組織の追手が迫ってくるというもの。
血で血を染める報復シーンは、目をつむるほどの残忍なシーンの連続。そして、信頼していた組織のボスの裏切りと謀略により、身を隠す家族にも魔の手が。練られたシナリオはオーソドックスですが、そこがノワール作品とよく作られてます。構成員をテグを演じたオム・テグの鍛え抜かれた体に彫られた入れ墨、哀愁を帯びた表情などヤクザの風貌は、どこか日本と重なります。
今回の見せ所は、なんといってもドラマ「ヴィンチェンツォ」でヒロインを演じたチョン・ヨビン。ドラマと違い寡黙でつらい過去を持つ女性でその役割がとてもクールです。クライマックスで主役が入れ替わるところもおもしろい。クライマックスの壮絶シーンは圧巻です。
Netflixには、韓国ノワールの作品は見逃せない作品が数多くあるので今後もご紹介したいと思います。