弁当日記

ADACHIの行動記録です。 
青年海外協力隊で2006年4月からバングラデシュに2年間住んでました。

バングラデシュのニュース(2017/09/7) ◆ロヒンギャ難民の記事

2017年09月07日 | バングラデシュのニュース
■見出し(2017年9月7日) No2017-番外
〇ミャンマー逃れるロヒンギャ難民、さらに急増
〇ミャンマー、バングラ避難のロヒンギャ族が戻らぬよう国境に地雷設置
〇ロヒンギャ12万人超避難=都市部のテロ警戒-ミャンマー国軍
〇ミャンマー・バングラデシュ 急増するロヒンギャ難民、8割が女性と子ども
 新たに12万5,000人がバングラデシュに 国境両側の子どもに支援必要
〇マララさん、ロヒンギャに言及 「スーチー氏も非難を」
〇スーチー氏、ロヒンギャ難民問題で沈黙破る 政府対応を擁護
〇ロヒンギャ3万人が窮状、山間部で身動きとれず ミャンマー
〇「仏教は暴力に結びつきにくい」のか:ロヒンギャ排斥を主導する仏教僧を突き動かすもの
〇襲撃事件のロヒンギャ組織、どんな集団? 専門家に聞く
〇ロヒンギャ難民急増 ミャンマーから8.7万人
〇ロヒンギャ衝突、見えぬ出口 2000人超、ミャンマー脱出 死者100人以上に
〇ミャンマー:ロヒンギャと戦闘激化 双方の死者100人超
〇ロヒンギャ迫害、警戒拡大、ミャンマー、武装集団に反撃本格化、
 国際社会「民間人保護を」。



■ミャンマー逃れるロヒンギャ難民、さらに急増
 http://www.bbc.com/japanese/41159253
 (BBC 2017年9月5日)

 ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが衝突を逃れようと隣国バングラデ
シュに多数逃れている問題で、国連は4日、難民の数が一気に急増し、3日から4日
にかけて新たに3万5000人がバングラデシュに入ったと明らかにした。
 ロヒンギャが多く暮らす西部ラカイン州から、8月25日以降だけでも12万3000人
以上がバングラデシュに逃れたという。

 仏教徒が大多数を占めるミャンマーではイスラム教徒の少数派ロヒンギャはかね
てから差別と迫害の対象で、昨年秋にも警察や治安部隊、ラカイン州の仏教僧がロ
ヒンギャを追い出そうと村に火をつけ、住民を襲撃したとされる事件が相次いだ。
ミャンマーの治安部隊は逆に、市民を攻撃するロヒンギャの武装勢力に対抗してい
るのだと説明する。

 今年8月からの衝突は、ロヒンギャ武装勢力が25日に約30カ所の警察施設を襲撃
したことをきっかけに始まった。治安部隊が100人以上のロヒンギャを殺害したほ
か、人権団体ヒューマンライツ・ウォッチは、ロヒンギャの村1カ所で700棟以上の
家が焼かれた様子を示すという映像を公表。多くの住民が弾圧を逃れ、北に国境を
接するバングラデシュまで徒歩で逃れようとした。

 ミャンマーの人権問題を担当するヤンヒ・リー国連特別報告者は4日、ラカイン
州の状況は「本当に深刻」で、ミャンマーの「事実上の指導者」アウンサンスーチ
ー国家顧問兼外相が「対応に乗り出す必要がある」と述べた。

 リー氏は、破壊のレベルは昨年10月の衝突よりも「はるかに大きい」と指摘し、
「どんな政府も管轄内にいる全員を守るべきで、我々はどのような政府にも同じよ
うに期待する」と、アウンサンスーチー氏に解決のための努力を求めた。
 かねてからロヒンギャ保護に消極的とされ、今回の危機にも発言していないアウ
ンサンスーチー氏に対しては、同じノーベル平和賞受賞者でパキスタン出身のマラ
ラ・ユスフザイさんも3日、アウンサンスーチー氏の発言を「世界とロヒンギャ・
ムスリムが待っている」と批判した。
 国連難民高等弁務官事務所によると、国境沿いのバングラデシュ側に設けられた
2カ所の難民キャンプはすでに満員状態で、トタン板やビニールシートなどで臨時
のシェルターも設置したものの、それもすでにいっぱいになっている。水や食用、
医薬品を必要とする難民の数が、劇的に急増しているという。
 8月末にはバングラデシュの沿岸警備隊が、「入り江用の粗末な釣り船」でラカ
インを逃れようとして遭難したとされるロヒンギャ20人の遺体を発見した。



■ミャンマー、バングラ避難のロヒンギャ族が戻らぬよう国境に地雷設置
 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/09/post-8388.php
 (NewsWeek 2017年9月6日)

 ミャンマーが、バングラデシュへ避難したイスラム教徒少数民族ロヒンギャが戻
ってくるのを防ぐため、3日にわたり国境地帯で地雷の設置作業を行っているもよ
うだ。バングラデシュの政府関係者2人が明らかにした。
 同国は、国境近くでの地雷設置に対し、6日正式に抗議する意向だという。
 ミャンマーでは8月25日、ロヒンギャ族の武装勢力が警察や軍の拠点を襲撃し
たことをきっかけに、軍による取り締まりが開始。少なくとも400人が死亡し、
ロヒンギャ族の12万5000人が同国の西隣にあるバングラデシュへ脱出し、重
大な人権問題になっている。
 バングラデシュの関係筋は「ミャンマーは国境にある有刺鉄線が張り巡らされた
柵に沿って地雷を設置している」と話した。主に写真証拠や通報者から情報をつか
んだという。
 関係筋は「わが国の軍部は、3―4つの集団が柵の近くで作業をし、何かを地面
に埋めているのを目撃している」とし、「それらが地雷であることを、通報者と確
認した」と述べた。その集団が制服を着ていたかどうかは明らかにしなかったが、
ロヒンギャ族の武装勢力でないことは明白だと話した。
 バングラデシュの国境警備員マンズルール・ハサン・カーン氏はこれより先に、
ロイターに対し、5日にミャンマー側で2回の爆発音が聞こえたと証言。少年1人
が国境付近で左足を失い、治療のためバングラデシュ側に運び込まれたという。こ
のほかにも別の少年が軽傷を負ったといい、同氏は地雷の爆発である可能性がある
と述べた。
 あるロヒンギャ族の難民は4日に、難民らが避難に使う国境の無人地帯の道の近
くに、直径約10センチメートルの金属の円盤が一部ぬかるみに埋まっているとこ
ろを撮影した。この難民は、似た円盤がほかにも2つ埋まっていたと話した。
 ロイターは、埋められていたものが地雷かどうか、ミャンマー軍と関係があるか
どうかを確認できていない。ミャンマー軍からのコメントは得られていない。



■ロヒンギャ12万人超避難=都市部のテロ警戒-ミャンマー国軍
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2017090501094&g=int
 (時事通信 2017年9月5日)

 【バンコク時事】国連は5日、イスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団と治安
部隊の戦闘が8月25日に始まったミャンマー西部ラカイン州から避難するため、
隣国バングラデシュに越境したロヒンギャ難民が推定12万3600人に達したと
明らかにした。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、難民の多くは
ジャングルに隠れたり山や川を越えたりしながら、自分の村から徒歩で数日かけて
バングラにたどり着いた。

ロヒンギャ迫害非難を=マララさん、スー・チー氏に訴え
 バングラでロヒンギャ難民の人道支援活動に当たっている国際移住機関(IOM)
は、急増する難民に対処するため、向こう3カ月間で1800万ドル(約20億円)
の緊急支援が必要と説明している。難民の大半は女性や子供、高齢者で「生命を危
険にさらさないようにするため(人道支援活動を)直ちに拡大する必要がある」と
訴えた。
 一方、ミャンマー国軍は5日、ロヒンギャの武装組織「アラカン・ロヒンギャ救
世軍(ARSA)」が首都ネピドーや最大都市ヤンゴンなどの都市部で「テロ攻撃
を準備している」として、国民に警戒を呼び掛ける声明を出した。テロはロヒンギ
ャ問題への世界の関心を高めるのが狙いで、今月の国連総会に合わせて実行される
可能性があるという。(



■ミャンマー・バングラデシュ 急増するロヒンギャ難民、8割が女性と子ども
 新たに12万5,000人がバングラデシュに 国境両側の子どもに支援必要
 http://www.unicef.or.jp/news/2017/0183.html
 (ユニセフ 2017年9月5日)

 【2017年9月5日  ジュネーブ/ニューヨーク発】
 ミャンマーのラカイン州で衝突の影響を受けている子どもたちに関し、ユニセフ
(国連児童基金) 事務局長アンソニー・レークは以下の声明を発表しました。
 急増するロヒンギャ難民、8割が女性と子ども
 8月25日以降、ミャンマーのラカイン州から国境を越えてバングラデシュに逃れ
たロヒンギャ難民の数は12万5,000人以上にのぼり、その80%は女性と子どもたち
です。さらに多くの子どもたちが、暴力により破壊されたラカイン州北部に留まっ
ており、支援と保護を必要としています。
 ユニセフ(国連児童基金)は、バングラデシュでは、難民の子どもたちに保護、
栄養、保健、水と衛生の分野での支援を提供するために、規模を拡大して活動して
います。
 ミャンマーにおいて、現時点でユニセフは、ラカイン州北部の影響を受けている
地域に行くことができません。私たちは、これまで心理社会的ケアを提供してきた
2万8,000人の子どもたちや、栄養不良の治療を提供してきたButhidaung および
Maungdaw地区の4,000人の子どもたちに支援を届けることができません。安全な水
や衛生環境を整える支援や学校を修復する活動も停止に追い込まれています。
 国境のどちらにいる子どもも、緊急に支援と保護を必要としています。



■マララさん、ロヒンギャに言及 「スーチー氏も非難を」
 http://www.asahi.com/articles/ASK945TNTK94UHBI01Q.html
 (朝日新聞 2017年9月5日)

 ミャンマー西部ラカイン州の少数派イスラム教徒ロヒンギャをめぐり、パキスタ
ン出身のノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさん(20)は3日、ミャンマ
ー政府による「悲劇的で恥ずべき扱い」を非難する声明をツイッター上で出した。
その上で、同じノーベル平和賞受賞者である同国のアウンサンスーチー国家顧問兼
外相に対し、「同じように」非難するよう求めた。
 声明でマララさんは「ロヒンギャの苦難のニュースを聞くたびに心を痛めている」
とした上で、「暴力の停止」「ロヒンギャに対するミャンマーでの市民権付与」
「諸外国によるロヒンギャに対する食料や住まい、教育などの提供」を呼びかけた。
 ロヒンギャを「バングラデシュからの不法移民」とみなして国籍を与えないミャ
ンマー政府の対応に、国際社会からの批判は強まっている。

 英BBC、ニュース提供を中止
 英BBCは、ミャンマーの民間放送「MNTV」へのニュース映像の提供を中止
することを明らかにした。ロヒンギャのニュースだけが省かれて放送され続けたか
らだという。BBCは1日付で「我々のニュースを妨げるような行為をした。視聴
者の信頼を傷つけることは許されない」という声明を出した。
 関係者によると、MNTVで毎晩放送される15分のBBCニュースからロヒン
ギャ問題が省かれていた。3月に警告したが応じなかったという。MNTVは4日、
朝日新聞の取材に、ロヒンギャという言葉の使用をミャンマー政府が禁じていると
して、「政府が使用を禁じている言葉は放送できない」と説明した。MNTVは軍
政時代の2010年から政府に放送を認められている。
 ロヒンギャとみられる武装集団の襲撃事件を発端とするミャンマー政府の掃討作
戦は4日も続き、ロイター通信などは、約9万人のロヒンギャがバングラデシュに
逃れたと報じた。(ロンドン=松尾一郎、バンコク=染田屋竜太)



■スーチー氏、ロヒンギャ難民問題で沈黙破る 政府対応を擁護
 https://www.cnn.co.jp/world/35106892.html
 (CNN 2017年9月6日)

 (CNN) ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒ロヒンギャの難民
が急増している問題に、同国のアウンサンスーチー国家顧問が公の場で言及した。
 ロヒンギャと治安部隊の新たな衝突が先月始まってから、事実上の政権トップで
あるスーチー氏がこの問題について発言したのは初めて。人権活動家として知られ
たスーチー氏が沈黙を続けていることに対し、批判の声も上がっていた。
 当局の発表によると、スーチー氏はトルコのエルドアン大統領との電話会談の中
で、政府はロヒンギャの権利を守ろうとしていると強調。「人権を奪われるとはど
ういうことか、私たちはよく知っている」「だから全ての国民の権利が擁護され、
政治、社会、人道面で守られるよう留意している」と述べた。
 同氏はさらに、多くの「誤った情報」が「テロリストの利を図る」ために拡散さ
れていると主張。ラカイン州にテロをまん延させないよう、政府は力を尽くしてい
ると語った。
 治安部隊は先月末、同州で警察施設などが相次いで襲撃された事件を受け、「テ
ロリスト」の犯行だとして掃討作戦を開始した。
 ロヒンギャの住民は衝突から逃れようと避難し、2週間で少なくとも12万30
00人が隣国バングラデシュへ流れ込んだ。難民らは州内で多数の住民が殺害され
たり、民家が破壊されたりしたと訴えている。
 トルコ当局は電話会談の後、ラカイン州の避難民らに食糧など1000トンの物
資を届けると表明した。
 地中海で難民、移民の救助活動を続けてきたマルタの非政府組織(NGO)「M
OAS」も4日、活動の場をミャンマーに移すと発表した。



■ロヒンギャ3万人が窮状、山間部で身動きとれず ミャンマー
 https://www.cnn.co.jp/world/35106801.html?tag=mcol;relStories
 (CNN 2017年9月5日)

 (CNN) ミャンマー軍の軍事作戦を受けて避難した少数派イスラム教徒のロ
ヒンギャが、バングラデシュとの国境に近い山間部で身動きできなくなり、少なく
とも3万人が食料や医薬品もほとんどない窮状に追い込まれている。
 人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチが公開した衛星写真には、西部ラカイ
ン州で起きたミャンマー軍と武装集団の衝突で、完全に焼き払われたイスラム教徒
の村の様子が写っていた。
 国連は3日、国境を越えて避難したロヒンギャは8月25日以来で7万3000
人を超えたと発表した。
 しかし活動家によると、ラカイン州北部の山間部には、さらに少なくとも3万人
のロヒンギャが、食糧や水や医薬品の供給を断たれた状態で取り残されているとい
う。
 ロヒンギャの活動家によれば、避難した人たちはバングラデシュとの国境を隔て
るナフ川を渡ることも、自宅へ戻ることもできずにいる。CNNが活動家から入手
した映像には、子どもを含む大勢の男女が密林の中で粗末な小屋を作って寝泊まり
する様子が映っている。
 ビルマ人権ネットワークの代表は、「最も大きな危険にさらされている人命を直
ちに救わなければならない」と訴えた。
 ミャンマー軍がラカイン州で「掃討作戦」に乗り出したことを受け、避難を強い
られたロヒンギャは8月25日以来、少なくとも10万人に上る。
 ヒューマン・ライツ・ウォッチはミャンマー政府に対し、独立調査団によるラカ
イン州の調査を受け入れるよう改めて要請した。
 同団体が公表した衛星写真は8月31日にラカイン州北部で撮影されたもので、
村の約99%に当たる700棟あまりの建物が焼失していた。同じように村が焼き
払われている様子は、17カ所で確認されたとしている。
 ミャンマー軍のトップはフェイスブックへの2日の投稿で、ラカイン州の衝突に
ついて、法秩序を守るために「ベンガル人」に対する行動を起こしたと主張。「長
引くベンガル問題は、前政権が解決に取り組んだが、未完のままになっていた」と
述べている。
 国際社会も非難の声を強めている。インドネシアはミャンマー政府に対し、ロヒ
ンギャに対する暴力をやめ、ロヒンギャ救済のために行動するよう呼びかけた。



■「仏教は暴力に結びつきにくい」のか:ロヒンギャ排斥を主導する仏教僧を突き
動かすもの
 https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20170902-00075268/
 (Yahooニュース 2017年9月5日)

 先日、ロヒンギャ問題の記事を読んだ知り合いから質問を受けました。それは
「なぜミャンマーでは仏教僧が先頭に立って、ムスリムのロヒンギャを排斥しよう
としてきたのか」というものでした。
 同様の質問は他でも受けたことがありますが、そこには「仏教はその教義からし
て他者を受け入れるもので、歴史的にも宗教戦争はなかったのではないか」という
疑問があるようです。言い換えると、この手の質問の前提には、キリスト教やイス
ラームなどと比べて、仏教に平和的なイメージがもたれていることがあると思われ
ます。
 しかし、後述するように、キリスト教やイスラームなどの一神教と仏教の間に、
他の宗教・宗派に対する態度の違いはあるとしても、その他の宗教と同様に仏教も
やはり暴力と無縁ではありません。
 日本でも、明治期こそ国家神道によって排斥された「被害者」としての歴史(廃
仏棄釈)がありますが、伝来から間もない飛鳥時代には仏教を信奉する曽我氏と古
来の神道を掲げる物部氏の争いが起こり、平安時代から鎌倉時代にかけては多くの
僧兵を抱える大寺院が政治的影響力を示し(『平家物語』で白河天皇はままならな
いものとして、氾濫を繰り返していた加茂川の水、双六のサイの目、比叡山延暦寺
の山法師をあげている)、戦国時代には一向宗信徒が大名並みの軍事力をもって織
田信長らと対峙しました。
 ただし、ここで注意すべきは、「(他の宗教と同様に)宗教としての仏教の教義
そのものが暴力を導いているのではなく、仏教が政治的イデオロギーとなることで、
暴力行為を行う特定の集団の主張を支える基盤にされている」ことです。これにつ
いて、ロヒンギャ問題が改めてクローズアップされるミャンマーの事例から考えま
す。

仏教と一神教
 仏教は民族や地域を越えて伝播した「世界宗教」であり、この点でキリスト教や
イスラームなどとも共通します。
 その一方で、近代以降の日本を代表する哲学者の一人である和辻哲郎は、キリス
ト教やイスラームなどの一神教と仏教には、その伝播に大きな違いがあったと指摘
します【『続日本精神史』、1962】。つまり、在来の宗教や土着の習慣に対して、
キリスト教やイスラームが「不寛容、非妥協的」であったのに対して、仏教は「寛
容、妥協的」だったというのです。
 歴史的に、キリスト教やイスラームの布教が少なからず戦争や侵略をともなうも
のだったことは確かです。そして、キリスト教あるいはイスラームに改宗する場合、
それ以外の信仰は全く捨てなければならず、さらに他の神は「悪魔」にさえ位置付
けられてきました(旧約聖書にある「ソロモンの悪魔」はそれ以前からのエジプト
やメソポタミアの神々を指す)。
 これに対して、紀元前5世紀頃にインドで生まれた仏教の普及は、常に平和的だ
ったとは限らないものの、少なくともそれまでのものを捨てることを強制すること
は少なく、むしろ他の宗教や習慣を吸収していきました。例えば『寅さん』で有名
な帝釈天は、もともとインド神話のインドラを「仏教の守護神」として取り入れた
ものです。また、インドで発祥した段階では仏教に「先祖祭祀」の要素はありませ
んでしたが、シルクロードを通じて中国に伝播した段階で、これが加わったといわ
れます。

世界に広がる条件
 念のために言えば、キリスト教やイスラームも布教段階で他の宗教や土着の習慣
を全く無視したわけではありません。
 キリスト教の祭典の一つとみなされるイースター(復活祭)はもともと春の訪れ
を祝うイングランドの古い習慣で、それがいつしかキリスト教に取り入れられたも
のです。また、15世紀以降、中南米での布教においてカトリック教会はマリア像を
現地人に合わせて褐色に塗り、親しみをもたせました。イスラームでも、中心地で
あるアラビア半島一帯はともかく、アフリカや東南アジア、中央アジアでは精霊信
仰や聖人崇拝の要素が取り入れられてきました。
 それぞれの土地の固有性を抜きに、金太郎アメのようにどこも全く同じ原理を導
入しようとしても反発が大きくなりがちで、普及のためにキリスト教やイスラーム
もそれなりに「調整」してきたといえます。発祥地あるいは中心地から離れるほど、
現地のものと結びついて、オリジナルにない要素が盛り込まれるのは、宗教に限ら
ず、政治的イデオロギーでも同様です(冷戦期の中東で盛んだったアラブ社会主義
など)。

融通無碍の自由さ
 とはいえ、他の宗教の神々や習慣まで取り入れてきた仏教が、キリスト教などと
比べて、総じて「ゆるい」ことは確かです。仏教学者で僧侶の山田明爾によれば、
「仏教とは水みたいなもので、仏教という水を飲んだ人間がそれぞれ自由に行動す
るが、その行動のいちいちは規制しない」【『シルクロード学の提唱』、1994】。
(一夫一妻の)キリスト教や(一夫多妻を認める)イスラームと比べて、仏教には
社会生活を拘束する側面が小さいことや、共通する経典がないことが、様々な宗教・
宗派や土着文化との融合を可能にしたといえます。
 言い換えると、明確な原理のなさこそが仏教の大きな特徴となります。冒頭で紹
介したような「他者との共存」イメージは、明確な原理がないからこそ生まれたと
いえるでしょう。
 それは社会とのかかわり方にも表れます。「諸行無常」というように、何かに拘
泥することをむしろ戒める自由さは仏教の本質といえます。しかし、その「悟り」
は良くも悪くも、何らかの目標を実現させる熱意とは無関係のものです。
 欧米諸国におけるキリスト教会やイスラーム圏におけるイスラーム系団体と比べ
て、アジアの仏教寺院が社会活動などに関わることは稀です。「こうあるべき」と
いう観念が弱いことは、「政治や社会のあり方を正そう」というモチベーションが
小さくなりがちです。それは仏教徒の集団による慈善事業などだけでなく、テロ活
動が少ないことにも結びついてきたといえるでしょう。

仏教徒が他者を排斥するとき
 ところが、冒頭に触れたように、ミャンマーでは過激派仏教僧がロヒンギャ排斥
の先頭に立っています。なかでも軍隊によるロヒンギャ攻撃を支持し、海外の干渉
やロヒンギャへの人道支援も拒絶する世論を扇動するアシン・ウィラトウ師は、そ
の過激な説法から「仏教のビン・ラディン」とも呼ばれます。これは仏教の「他者
との共存」イメージからかけ離れたものといえます。
 とはいえ、出家、在家に関わらず、仏教徒が他者を排撃することは、ミャンマー
に限りません。例えばスリランカでは、セイロンと呼ばれていた英国植民地時代
(1802-1948)から、仏教徒がほとんどの多数派シンハラ人と、ヒンドゥー教徒や
ムスリムが多い少数派タミール人の争いが絶えず、両者の対立は独立後の内戦
(1983-2009)に行き着きました。
 ここで確認すべきは、先進国以上に開発途上国では、民族や血統などの属性によ
って、所得や教育などが大きく左右されることです。個人が能力ではなく属性によ
って判断される縁故主義は、国営企業が多いことをはじめ、政治と経済が結びつく
ことにより増幅します。
 そのような環境のもとでは、「我々」と「彼ら」を識別することが「我々の利益」
にとって欠かせず、宗教はその識別のための一つの属性といえます。スリランカの
場合でいえば、多数派が権力や富を握るとき、「シンハラ人であること」、言い換
えれば「多数派の属性」として、仏教徒であることが重要な意味を持ったといえま
す。

ナショナリズムの一要素
 ミャンマーに目を向けると、軍事政権の時代から政府は人口で7割を占めるビル
マ人の政治的、経済的利益を優先させており、それは少数民族を排斥する動きの大
きな背景になってきました。そして、仏教徒であることは、ビルマ人をその他の少
数民族と識別する大きな属性の一つです。この構図そのものは、スー・チー政権が
誕生した後も、基本的に変化はありません。
 すなわち、ウィラトウ師に代表されるミャンマーの過激派仏教僧は、仏教の教義
に基づいてムスリムを排撃しているというより、ビルマ・ナショナリズムに基づい
て少数民族を排撃しているのであり、そこにおいて仏教は「ビルマ人であることの
要素」以上の意味はないといえるのです。
 実際、ウィラトウ師は「仏教徒がムスリムの脅威にさらされている」と強調しま
すが、そこでいう「仏教徒」に他国の仏教徒はほとんど含まれておらず、隣国バン
グラデシュなどで仏教徒が迫害されることについては、特に関心を示していません。
これは、ビン・ラディンらのイスラーム過激派が国境を越えた問題として「ムスリ
ムの抑圧」を掲げたことと対照的です。
 つまり、ウィラトウ師は仏教僧ではあるものの、教義に基づく「宗教原理主義者」
というより、世俗的な「過激なナショナリスト」として行動しているとみた方がよ
いでしょう。
 現代ではナショナリストは極右政党や保守政党に多いとみられがちですが、冷戦
期ソ連に代表されるように共産主義とナショナリズムが結びつくこともあります。
つまり、ナショナリズムには思想的パートナーのストライクゾーンが広いという側
面があります。そのため、ミャンマーでは相手をあまり選ばないナショナリズムと、
やはり融通無碍に様々な思想や習慣と結びつく仏教が接合したといえるでしょう。

「違い」が利害に結びつくとき
 いかなる教義であれ、それを解釈するのは人間です。仏教が教義として魂の平安
を希求するものであっても、それを「ビルマ人の属性」に捉え直すことで、ウィラ
トウ師らの仏教僧はロヒンギャ迫害のイデオロギーに用いているといえるでしょう。
 一般的に、宗教戦争や民族紛争は、宗教や民族の違いによって発生すると思われ
るかもしれません。しかし、実際には、ほとんどの場合にそこに政治的、経済的な
利害関係があります。
 つまり、宗教や民族に基づく対立は、宗教や民族の違いを強調することによって
自らの利益を確保しようとするなかで生まれることがほとんどで、違いそのものが
対立を生むわけではありません。状況は多少違っても、先進国で外国人との雇用競
争に負けそうな業種・職種、あるいは地域に「移民排斥」を叫ぶ人が多いことも、
その点では同じです。
 自民族の優位を確立する、虐げられている「我々」を解放する、腐敗した権力を
打倒するといった政治的目標の実現を目指す場合、人間は何らかのイデオロギーで
これを正当化し、支持を集めようとします。自由主義や社会主義といった世俗的イ
デオロギーが説得力を失った現代では、ナショナリズムをコーティングするイデオ
ロギーとして宗教が用いられることが珍しくありません。ミャンマーで少数民族の
排斥を叫ぶ仏教僧は、その一例といえるでしょう。



■襲撃事件のロヒンギャ組織、どんな集団? 専門家に聞く
 http://digital.asahi.com/notice/notice_ltov.html
 (朝日新聞 2017年9月2日)

 ミャンマー西部ラカイン州マウンドーで警察施設など約30カ所が武装集団に襲
撃された事件後、治安部隊が掃討作戦を続けたことで、イスラム教徒のロヒンギャ
住民が大量に難民となっている。政府が「事件を起こしたテロリスト集団」と指摘
する「アラカンロヒンギャ救済軍」(ARSA)とはどんな組織なのか。NGO
「国際危機グループ」のアジア部門長のアナガ・ニーラカンタン氏に聞いた。
 8月25日未明、数百人の武装集団が警察や軍の施設を一斉に襲った。持ってい
たのは刃物や棒のほか、自分たちでつくった木製銃や簡易爆弾。ARSAは同日朝、
「これは、世界で最も迫害された人たちを守る方法だ」などとツイート。ミャンマ
ー政府はこれらを「犯行声明」と断定している。
 ニーラカンタン氏は「武装集団は、長らく社会的に疎外されてきたロヒンギャの
ごく一部だ」とした上で、ARSAは、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際
テロ組織「アルカイダ」などと違い、行動に強い宗教的理由を持ち出していないと
指摘する。ARSAは襲撃後もツイッターやユーチューブで発信しているが、「ロ
ヒンギャを救う」という言葉を繰り返している。
 ISやアルカイダとつながりはないのか。「訓練を受けたサウジアラビアなどで
接触はあるかもしれないが、組織同士の直接的なつながりはないとみられる」とい
う。一方で、「ARSAが力を増大させれば、アルカイダなどが近づくおそれはあ
る」と警告する。
 ロヒンギャは1980年代や90年代にも武装組織をつくっていたが、今回のよ
うな大規模な襲撃はなかった。ニーラカンタン氏は、「二つのターニングポイント
がある」と説明する。

一つ目は、2012年のロヒンギャと仏教徒ラカインとの衝突だ。ラカインの女性
が殺害された事件をきっかけに双方が互いに襲撃したり、村を焼き打ちにしたりす
る暴力の連鎖に発展。約14万人が国外に避難した。ニーラカンタン氏は「ロヒン
ギャはもともと好戦的な人々ではない。仏教徒との対立が、ロヒンギャの中でのイ
スラム教徒としての結束や、アイデンティティーの強化を急速に進めた」と指摘す
る。
 もう一つは15年、アウンサンスーチー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)
が大勝した総選挙だ。「国籍を与えられていないロヒンギャは長らく、教育や雇用
で虐げられてきた。その上、国を変える投票にすら参加できなかった。政治的に疎
外されたことを一部のロヒンギャが『最後に訴えられるものは力だけだ』と考える
ようになった」

 こうした出来事により、過激化した集団が作り上げられた。「総選挙以降、ミャ
ンマー国内で戦闘員の訓練を進めていたようだ」とニーラカンタン氏。16年10
月、ARSAの前進とされる集団が警察施設などを襲った。「襲撃後の掃討作戦に
よるロヒンギャへの迫害が国際的に報道され、組織への資金も集まった」

 ミャンマー政府はどう行動すべきなのか。「ARSAをロヒンギャ全体と見ては
ならない。歴史的に虐げられてきたロヒンギャを『敵』とみなすことは、国際社会
から批判を浴び、ARSAに資金が集まる悪循環を生むだけだ」という。

 ニーラカンタン氏は「政府はロヒンギャのリーダーと連携をとり、武力に訴えよ
うとする集団を孤立させるべきだ。同時に、問題に深く根ざす貧困問題解決のため、
ラカイン州の発展を急いで進める必要がある」と話した。



■ロヒンギャ難民急増 ミャンマーから8.7万人
 https://mainichi.jp/articles/20170905/ddm/007/030/076000c
 (毎日新聞 2017年9月5日)

 【ニューデリー金子淳、バンコク西脇真一】ミャンマー西部ラカイン州で少数派
イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団と治安部隊の衝突が激化する中、隣国バン
グラデシュに逃れるロヒンギャ難民が急増している。ロイター通信などによると、
戦闘が激化した8月25日以降、約8万7000人が越境した。バングラには以前
からミャンマーを逃れた約35万人のロヒンギャ難民が暮らしているが、難民人口
の爆発的な増加で、人道危機が深まっている。
 「多くの女性や子供が近くの山に避難している。雨が続いておりひどい状況だ」。
ラカイン州ブティドウンに住むロヒンギャ、アブドゥル・ファイヤズさん(30)
はミャンマー領内の現状について電話取材にこう語った。
 ファイヤズさんによると、武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)
を名乗る若者たちが8月下旬、村にやってきて「ロヒンギャの解放のために戦おう」
と呼びかけた。「国外から来た」と話しており、銃やナイフで武装していたという。
間もなく国軍が村に来て砲撃を開始した。「若者たちは逃げていった。生きている
かは分からない」という。
 ミャンマー国軍とARSAとの戦闘は今も続いている。国軍がフェイスブックを
通じて明らかにした情報によると、これまでにARSA側の370人を殺害した一
方、政府側も15人が死亡。民間人も14人が犠牲になった。
 バングラに逃れるロヒンギャが急増する中、事故も相次いでいる。米CNNによ
ると、国境の川で8月31日、溺死したとみられる子供ら20人の遺体が見つかっ
たほか、約2万人が国境付近の無人島で孤立した。
 世界各地のミャンマー大使館への抗議活動も続く。ロイター通信によると、世界
で最もイスラム教徒の人口が多いインドネシアでは、ジャカルタのミャンマー大使
館に3日朝、火炎瓶が投げ込まれた。被害はなかったが、事態を重く見たジョコ大
統領は同日、戦闘停止を求めるためルトノ外相を急きょミャンマーに派遣した。



■ロヒンギャ衝突、見えぬ出口 2000人超、ミャンマー脱出 死者100人以上に
 (朝日新聞 2017年8月29日)

 ミャンマー西部ラカイン州で25日未明に起きた警察施設襲撃事件をきっかけに
軍とイスラム教徒ロヒンギャの武装集団の戦闘が続いている。ロイター通信などに
よると、ロヒンギャ住民2千人以上が家を追われ、バングラデシュ側に逃れた。当
局による迫害に批判が集まるロヒンギャ問題の解決がさらに困難になるのは確実だ。

 25日未明にラカイン州マウンドーで武装集団が刃物や棒で約20カ所の警察や
軍の施設を襲撃した事件を受け、治安部隊が掃討作戦を開始した。28日夕までに
警官や兵士十数人が殺害され、武装集団側も80人以上が死亡。民間人数人も合わ
せ、死者は計100人を超えた模様だ。
 政府は、ロヒンギャの武装集団とされる「アラカンロヒンギャ救済軍」(ARS
A)が、事件を起こしたと断定。25日に「テロ組織」に指定した。だが、掃討作
戦では早速治安部隊によるロヒンギャ住民への迫害の情報が寄せられている。AF
P通信は26日、治安部隊がバングラに逃げる民間人に発砲したと報じた。政府は
否定している。
 ミャンマーは仏教徒が9割近くを占めるが、同州北部ではロヒンギャが多数派だ。
州全体では多数派民族である仏教徒ラカインとの間で対立が続いてきた。
 ミャンマーでロヒンギャは「バングラ移民」と見なされてきた。大半が無国籍で、
軍事政権下でも当局の迫害を受けてきた。だが、武力による抵抗運動は長い間、顕
在化しなかった。
 政府によると、ARSAは今年3月、二つの組織が合流してできた。一つは昨年
10月にあったマウンドーでの警察施設襲撃事件に関与したとみられている。組織
設立の背景には、同州でロヒンギャを中心に約14万人が避難民になった2012
年の仏教徒との衝突事件があると指摘される。「衝突で民族意識を高め、過激化し
た」と話す専門家もいる。
 「襲撃は平和への努力を台無しにする計算された行為だ」。アウンサンスーチー
国家顧問は25日、声明でそう非難した。コフィ・アナン元国連事務総長をトップ
とする諮問委員会が24日、ロヒンギャ問題についての報告書を発表した数時間後
に攻撃が始まったことが念頭にある。諮問委はスーチー氏が昨年9月、ロヒンギャ
問題解決のために肝煎りでつくった。内外の批判を抑えつつ、国籍の問題などの解
決を図る方針だった。だが、その狙いを困難にしたのが昨年10月の襲撃だった。
これを受け、治安部隊が掃討作戦を展開。ロヒンギャへの人権侵害も相次いで報告
され、双方の対立が深まった。
 今回も掃討作戦で村人が巻き込まれる可能性がある。一方、2度の襲撃で国内で
ロヒンギャへの反発も高まっており、スーチー氏は問題解決に向けた施策に踏み切
りにくい事態に陥っている。



■ミャンマー:ロヒンギャと戦闘激化 双方の死者100人超
 (毎日新聞 2017年8月29日)

 【バンコク西脇真一】ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒン
ギャ」の武装集団と国軍との戦闘が再び激化している。ミャンマー政府によると、
25日未明に武装集団による襲撃が始まってから既に双方の死者は合わせて100
人を超えた。政府に対し強硬姿勢を強める武装勢力側に対し、国軍も鎮圧を徹底す
る構えで、緊張がさらに高まっている。
 ミャンマー政府は、25日未明にラカイン州マウンドーの警察署などが一斉に攻
撃されたとしている。ロイター通信は27日、政府側がこれまでに4000人の非
イスラム教徒を救出したとする一方、数千人のロヒンギャが国境を越えてバングラ
デシュ側に避難したと報じた。
 アウンサンスーチー国家顧問兼外相は25日夜、声明を発表。「テロリストによ
る残忍な攻撃を強く非難」し「平和と調和を構築する努力を損なおうとする計画的
な企てだ」と指弾した。
 ミャンマー政府は、地元の「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)による
襲撃だとしている。アラカンは「ラカイン」の別称。リーダーのロヒンギャの男は、
パキスタン生まれでサウジアラビア育ちとされ、8月には映像を通じ「歴代政権に
よる非人間的な圧迫から人々を解放する」などと活動目的を語ったという。
 イスラム過激思想を唱えているかは不明。過激派組織「イスラム国」(IS)と
の連携を示す言動はないが、武器や資金はバングラデシュなど海外から入手してい
るとの見方も出ている。
 ラカイン州では昨年10月にも警察施設などが武装集団に襲われ、軍が掃討作戦
を展開した。この過程でロヒンギャに対する軍などの迫害疑惑が持ち上がり、国際
的に問題となった。対立の背景には、ミャンマー政府がロヒンギャを隣国バングラ
デシュからの不法移民とみなし、国籍を与えていないことなどがあり、ロヒンギャ
は、多数派の仏教徒から迫害を受けていると訴えている。
 ロヒンギャ問題を巡っては、コフィ・アナン元国連事務総長を委員長とする政府
の諮問委員会がこれまで状況を調査。戦闘は、同委が報告書を発表した24日夕の
後に始まった。報告書は、ロヒンギャの市民権を剥奪している「国籍法」を再検討
することや、ロヒンギャの移動の自由を認めることなど人権面での改善をミャンマ
ー政府に勧告している。
…………………………………………………………………………………………………
 ■ことば
 ◇ロヒンギャ
 ミャンマー西部ラカイン州に住むベンガル系イスラム教徒で、北端部を中心に推
定約100万人が暮らす。ミャンマー政府との対立を深め、国連などは「世界で最
も迫害されてきた民族」と位置付けている。対立のルーツは英国統治時代の19世
紀。仏教徒ラカイン族の土地にベンガル地方から大量の移民が流入したが、植民地
支配を行った英国は自らに不満が向かないよう、優遇した少数派のベンガル系を通
じて多数派を支配する分割統治を行い、両者を反目させた。



■ロヒンギャ迫害、警戒拡大、ミャンマー、武装集団に反撃本格化、
 国際社会「民間人保護を」。
 (日本経済新聞 2017年08月30日)

 【ヤンゴン=新田裕一】ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが居住する
地域で発生した治安施設襲撃事件をめぐり、治安当局が武装集団に対する反撃を本
格化した。昨年10月に起きた同様の事件では、治安部隊による掃討作戦中にロヒ
ンギャ住民に対する迫害が指摘された。今回の襲撃は前回を上回る規模で、国際社
会は事態の悪化を警戒している。
 政府は25日付で犯行声明を出したアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)を
対テロ法に基づいて「テロ組織」に指定し、治安部隊を増派した。テロ組織の指定
は、2011年の民政移管前後に全団体を指定解除して以来初めてだ。それほど当
局の危機感は高まっている。
 巻き込まれることを恐れたロヒンギャ住民ら数千人がバングラデシュに向けて難
を逃れた。ロイター通信は警察などの話として、28日から過激派に対する攻勢を
強めているもようだと報じた。
 政府によると、襲撃事件は25日未明に発生した。検問所などラカイン州北部の
治安施設30カ所以上が刃物や簡易爆弾で武装した数百人規模の集団に次々と襲わ
れた。29日までの情報では、武装集団の襲撃で民間人17人が殺害された。死者
は治安部隊12人と武装集団の80人をあわせ109人となった。
 国連や欧米など国際社会はミャンマーの人権をめぐる状況の悪化に警戒を強めて
いる。グテレス国連事務総長は「民間人に死者が出ている事態に懸念を表明する」
とする報道声明を28日に発表した。米国大使館も「治安回復に当たって一般人の
権利を保護するよう求める」とし、過剰な武力行使にくぎを刺した。
 昨年10月の掃討作戦では、民主化の旗手とされてきたアウン・サン・スー・チ
ー国家顧問を非難する声が国際社会で高まった。再び人道危機に陥れば、経済成長
に欠かせない各国からの政府開発援助(ODA)や外国企業の進出にブレーキがか
かりかねない。
 こうした事態を避けるため、ミャンマー政府は襲撃事件への対応に関し、各国の
理解を得ようと情報発信を強化している。タウン・トゥン国家安全保障顧問は29
日、ヤンゴン市内で各国の外交団を集めて「現時点では国軍は展開していない」と
し、一般市民には危害を加えないと述べた。
 一方で、襲撃については「周到に計画されたテロ行為」と厳しく非難。国軍司令
部も同日、首都ネピドーで国内外の一部メディア向けに記者会見を開催。武装集団
に対する反撃はテロとの戦いだとする立場を強調した。
 当局は国内向けに、市民に武装集団との戦闘で治安部隊に協力するように要求し
ている。対テロ法に基づき、報道機関に対しても武装集団を擁護する言論を禁じ、
「過激派テロ組織」と呼称するよう警告した。

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