小声で、鋭く、耳元で「バカ!」。
飯田橋でドアがもったりと開く。
ひととき。
若い駅員がドアの閉まるのを体で防ぎながら、乗客に叫ぶ。
「すみません。みんな降りてください。お客さんがホームの間に脚を挟まれています」。
車内、一瞬にして、おれと彼女だけになる。
席を空けたら座る当てなんてない。
みんな、掛け声をかけて、ゆさゆさ車体を押している。
らくちん、らくちん。
このままひっくり返ったらどうしょ。
乗客、ぞろぞろ車内へ戻ってくる。隣に同じコートの男座り、前に立っていた男も同じつり革につかまる。
相棒と上気しながら話している。
「いざとなると、みんな、偉いものだ」。
駅員、ドア口で丁寧に帽子取り感謝の仕草。
彼女「みんな降りることなんかないのよ」、おれ「おまえなんかと二度と外出しないぞ」、彼女「どこをほっつき歩いていたんだ」、再びクローが……。
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