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フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

みどりの思想 Ⅶ 悲しみの思想

2013-12-26 00:45:08 | インポート

  みどりの思想

  Ⅶ 悲しみの思想

悲しみが満ちてくる
きみの心に満ちてくる
きみはぼくを見つめているが
その心のすがたは
その目の中に いっぱいに
こらえきれないほどいっぱいに
あふれていて 涙している
愛は 愛は
どうして 遂げられなかった?
訊ねることもせずに
見つめている目のなかに
輝いているのは 無心の悲しみ

生きていることは それだけで
悲しみのまっただ中
喜びの笑みの奥にも
きみの悲しみがきらりと光る
こんなに愛しているのに
こんなにあなたが好きなのに
どうして わたしは悲しい?
どうして あなたは気づかない?
愛すれば愛するほど
人は悲しくなると言うことに
思えば思うほど
人はますます遠ざかっていくことに

すれ違ったのね 今日も
思いが少しずつ ずれたのね
きみは事態を理解しようとするけど
適切な答えはどこにもない
ただ きみは感じている
恋すれば恋するほど
見えなくなるものがあること
近づけば近づくほど
遠ざかるものがあること
ああ。だからもう向き合わない
もう 手に入れたいと思わない
愛の成就という喜び

だから だから わたしは
あなたのすぐ近くいることにした
あなたのそば 近すぎないそば
あなたとは肩を触れ合うだけの
一緒に歩く人になったのよ
あなたの散歩の飾り
あなたの人生の景物
そこにある喜びも悲しみも
あなたを包む わたしのラッピング
わたしの心のすべてをかけて
やさしく やさしく くるむのよ
あなたの孤独を薔薇色にして


みどり Ⅸ いさかい

2013-12-14 15:40:34 | インポート

  みどり

  Ⅸ いさかい

ぼくたちの間に いさかいはなかった
何一つとして 対立はなかった
そんな二人に
口論など あり得ようか
口げんかなど なしようもない
ただ ぼくたちは
互いに 互いを
言葉ではなく 心で
心の肌で くるみ合い 包み合ったのだ

いさかいしようにも 
二人には 異なる意向などなかった
別々の感情を 思いを
互いに押しつけ合うなんて
まるで覚えがない
ただそばにいるだけで
一方の感じている感情は
いつのまにか もう一方の色と交ざり
互いの気分を塗り替えていくだけだった

きみの唇は 言葉をもたない
きみの吐息は 一つの主張もしない
きみの唇が ぼくに向けられるのは
ただひとつ 愛を与える口づけのため
きみの吐息が ぼくの耳にかかるのは
ただひとつ その胸の愛が押し出される時
きみの目は 二人を隔(へだ)てない
ただ 一人の内に見開くため
互いの愛を その心に見つめるため

ああ。それなのに どうして?
どうして二人は離ればなれ?
いさかいもなく けんかもなく?
きっと きっと 二人の間に
見えない齟齬が
気づかれなかったすれ違いが
あるとき重なったからだね
その重なりの頂点で
ぼくはきみを きみはぼくを見失った


みどり Ⅶなれそめ

2013-12-12 18:14:10 | インポート

  みどり

  Ⅶ なれそめ

風の吹かない寒い夜だった
水の守護神がそこにたたずみ
二人を見守る中
夢中で抱き合ったのだよ
明日と昨日が交錯する
海沿いの公園の草の上で
渇いた心を互いに潤すように
愛に飢えていた二人だったから

きみはかもめに乗ってかけてきた
波の上をかすめるようにやってきた
ぼくは地べたを這う小虫に過ぎなかったが
きみの魔法がぼくを貴公子にしたんだ
ああ。束の間の
束の間の貴公子
そして愛の逢瀬
絶体絶命の愛の出会い

ぼくはね ぼくは
夢を見たんだと思ったよ
いや。それは確かに夢だった
かもめに乗った王女様に
愛された記憶が けれども
ぼくの 地を這う虫の よすがだった
永遠の 永遠の導きだった
ぼくはずっときみの魔法に魅せられていたんだ

思い出の中のきみのかもめは
時がたつにつれて
波のうたかたの内に
夕焼けと朝焼けのはざまに
美しい渦を描いて
なつかしい思い出を抱いて
沈んでいったんだ
沈んでいってしまったんだ

ぼくは叫んだよ
「帰ってこい」って叫んだよ
きみが沈んだ海は
時と命が交錯する悲しい海
愛の真実が波に洗われる
小さな岬の突端
明滅する灯台の導きも
きみの海にはかすかなしるし

それから二人のなれそめは
幾度も 幾度も繰り返した
そのたびきみは
美しい髪をなびかせて
水底から走り寄ってくるんだ
海藻のまとわりついた白い肉体を
惜しげもなくぼくにぶつけてくるんだ
全身を愛に捧げるために


みどり Ⅴ土偶

2013-12-10 14:17:26 | インポート

  みどり

 Ⅴ 土偶

アーカイックスマイルを
ぼくの心に残して
きみは土になった
どろどろの粘液
真っ赤な色の粘土にまじって
きみの肉体が溶けていく
溶けていく果てに
抽出された憎悪

搾り取ったのは怨念
女神(にょしん)の激しい恋情
恋よ 恋よ 我をして
蛇体のごとく 燃え上がらしめよ
生ける蝮(まむし)のごとく
激しく絡み合い
激しくねじれ合い
この湿潤なる風土の
根源的な泥土と化して

生まれ来たったところに
きみのアーカイックスマイルはあり
憎しみに爛れた輪廻があり
顔には丹色の装飾
腕には左に約束の鎖
右には まさに右には
真実がうなる鞭
肉をさいなんで さいなんで
思いは達せるか 恨みは晴らせるか

みどりよ きみに
激しく打たれることを
なじられ 揺すられ
悪し様に 責められて
どこにも 逃げようなく
ひたすらな激情に駆られて
きみの土偶を抱きしめ
祀り上げ 神としよう
我が永遠の神と
愛と怨念の神と


みどり Ⅳ いとしさ

2013-12-10 13:53:37 | インポート

  みどり

  Ⅳ いとしさ

それはね それは
消えない痣のようなもの
それは痛みとともに
心に押し刻まれたしるし
きみがあんまりにも強く
あんまりにも深く
ぼくを抱きしめたものだから
もう消えない刻印
永遠の愛の彫り物
真っ赤な薔薇のように
箔押しの金泥のように
ぼくの胸に咲いて
ぼくの魂を疼かせる
永遠に疼かせる

それはね それは
甘い 甘い火傷のようなもの
はじめひりひりと魂をさいなむが
いつか ある時から
美しい紋様を描き出す
微笑む女神(めがみ)
歌いかけるミューズ
ああ。キューピッドよ
その持てる矢をすべて
すべてこの胸に射よ
きみの愛にしびれて
命失うまで
きみの愛に酔って
命を放棄するまで