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フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

詩一編:「孤独の思考へ-broad eyes」

2005-12-01 03:57:10 | 詩集『愛と尊厳と』から

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      孤独の思考へ-broad eyes
      

     
    寂しいのか。孤独のなかにいるというのか。
    削剥される自己という感情。
    細っていく自我という意識。
    引きずり込まれていく洞窟の暗さに、
    その静けさの絶対の深度に。
    この理性がよくたえられれば、
    垂直の思考が天地のはざまに屹立するだろう。
    天地の広がりを手に入れるだろう。そして、
    約束されるか? それは。
    真のbroad eyes ブロード・アイズ
    たえきらなければ。
    
    それとも。
    感情の洞窟に降り来たって、
    失いし者の歳を指折るか?
    去りし者の空虚にその手を差し入れるか?
    剥離する情念に抗して、
    落魄する境涯に打ち据えられて、なお。
    断念された幸福に夢の滋養を与え、
    不幸な感情に美を装わせるのだろうか?
    甘やかな白昼の幻影が映しているのは、
    幸せの逆説性。孤独の相対性。
    
    けれども もし。
    もしそこに、愛の根のようなものがあって、
    孤独が高められるなら、
    意識の底に根付くのなら、
    あるいは、きみの垂直性も、
    きみの相対性も、 愛は簡単に乗り越えてしまい、
    むなしいものにするかも知れない。
    相対と絶対。 直接と間接。
    いっそう深い、
    真のbroad eyes ブロード・アイズ
    その根源を求めんか、いま。

    
    
          [POEM-詩集『愛と尊厳と』から]


Requiem(レクィエム)

2005-06-04 14:10:44 | 詩集『愛と尊厳と』から

    Requiem(レクィエム)
       ――わが友の死を悼んで
       ――ベルリオーズによるRequiemとともに
         

   夢の中にあって、
   夢のように死ぬること。
   おのれの死さえおのれは知らぬ。
   それこそがあなたのために願わしい。 
   ただあなたのまぶたに現れた夢の映像が、
   あなたのまぶたをいろどり、ふちどり、
   光彩あふれて、あなたを幸せに満たす。
   ああ。いま、Requiemぞ聞こゆ。
   ―Pleni sunt caeli
    プレニ スント チェリ
    et terra gloria tua
    エト テラ グロリア トゥア
   この世を夢のように生きた者の光輝。
   うたっている神の栄光。
   ああ。パヴァロッティの独唱聞こゆ。
   
   人はみな夢に生まれ、
   夢のうちを歩み行き、
   夢のまにまにさまよいさまよって、
   願いを一つ胸に抱いて、かしこをめざすべし。
   思いをまなじりにこめて、
   美しいしらべ聞き逃すまいと、
   耳そばだて、こころかたむけ、
   ああ。いま、神の声の色、そこに見ゆる。
   ―Agnus dei
    アニュス デイ
    qui tollis peccata mundi
    クィ トリス ペカタ ムンディ
   怒れる神のやさしいゆるしの音色、
   あたたかくあなたの魂を包んでいる。
   ああ。フルートのソロ流れて!

   死は常にそのように、
   そのようなやさしさで、
   あなたの願いを、甘く美しく包むのであろう。
   あなたの日々の祈りに、花束そえるのであろう。
   この世の仮の姿のむなしさに、
   ただ、あなたのよき終わりをこそ願わめ。
   ただ、幸多き死こそ祈らめ。
   ああ。善き人の善き夢、その夢のあふれたる。
   ―Requiem aeternam
     レクィエム エテルナム
    dona defunctus
    ドナ デフンクトゥス
   その永遠のやすらぎのためにこそ、
   今ここにわれら祈らめ。
   今ここにこころ深く祈らめ。

   
       *Pleni sunt caeli
       et terra gloria tua
       =天と地は御身の栄光にあふるる
       *Agnus dei
       qui tollis peccata mundi
       =世の罪を除きたもう神の子羊
       *Requiem aeternam
       dona defunctus
       =この世を終えた者に永遠の安らぎを与えたまえ

               [POEM-詩集『愛と尊厳と』(1)から]


ブラームス

2005-05-20 09:18:08 | 詩集『愛と尊厳と』から

     ブラームス

   ブラームスの音楽
   少年のようなひたむき
   青年のストイシズム
   老いず枯れず
   あこがれにのみ生きる者の
   強さ きびしさ けれど
   ロマンチックな夢は
   あちこちにこぼれ出る
   そう 夢見る青年の歌
   悔恨をさえ乗り越えてしまう
   純粋な愛する魂の調べ
   そこで願っている
   愛されたいと 願っている
   心深く秘めた人と
   愛に結ばれたいと そして
   永遠のときを
   夢につむぎながら
   流れるよ 交響曲第二番の
   第三楽章 バイオリンソナタ
   第三番の喜び

         [POEM-『愛と尊厳と』(1)から]


きみは風をまとったか

2005-05-20 00:11:09 | 詩集『愛と尊厳と』から

    きみは風をまとったか

  風を感じた
  ぼくら風を 見た
  いくつもの 懐かしい風
  いくつもの ぬれている風
  いくつもの 太陽の風
  ぼくらの心に 吹いていた風
  見えない風もあった
  ただぼくらの あこがれだけの
  透明な光のなかの まぶしさ
  吹いたとも気づかれぬ やさしさ
  心を慰める あたたかさ
  
  身いっぱいに
  なだれるように 吹いて
  激しく 愛している風
  息もつかせぬ喜びを 運び
  心を突き抜けていく 熱い風
  狂おしく 荒れている 悲しい風
  いくつもの いくつもの風の
  その源へ 旅しよう
  たっひとつの 風の源
  風の国の 風の揺りかご
  あふれ出す 風の泉へ

  そこから いつも
  ささやきかけてくる
  微風 ブリーズ 南風
  どこにも たわまず
  どこにも とまらず
  吹いた風は 通りすぎる
  さっと 行き過ぎて
  心の中にも 体の中にも
  とどまることはない 
  その風の しあわせ
  その風の 肌色の光
  美しい光をまとい 
  ほら! たったいま
  頬をなで まつげにふれて
  ささやいていったよ
  この夜のしじまを ゆすり
  
  そうだ 友よ
  ぼくら いつか
  その風になろう
  いつかきっと
  風になろう
  こだまのように
  歌い交わしながら
  風になろう 風そのものに
  美しい風を 魂にからめて
  風の喜びを 風の悲しみを
  ぼくらの肌に まとわせて
  たわまない風に
  柔らかな風に
  ぼくら みんな 
  あらゆる風に
  愛する風に
  安らぐ風に なって
  吹きすぎよう
  いのちの中を
  吹き抜けよう
  風そのものになって

        [POEM-『愛と尊厳と』(4)から]


三十八億年のいのち

2005-05-15 21:04:16 | 詩集『愛と尊厳と』から

    三十八億光年のいのち

  二〇〇五年にいまなお旅するぼくは
  宇宙の彼方へと進み行くのはやめた
  この時空を この四次元を来し方へ
  ぼくのやってきた方へ
  いな ぼくの生まれるはるか彼方へ
  マストドンの氷河の地方へ
  マンモスのツンドラの地帯へ
  いな 恐竜がつばさ手に入れたとき
  飛び立つその一瞬へ
  いな いな 海の脊椎動物が
  岸辺の傾斜を登るそのときへ
  過去へ 太古へ 始原へ
  さかのぼろう
  そうして 知ろう
  費やされてきたものの悲しさを
  乗り越えられたものの切なさを
  なぜ われらは
  進化しなければならなかったか
  なぜ われらは
  絶滅のしかばねを乗り越えねばならなかったか
  
  さかのぼろう
  魂をこの心の海に沈めて
  時の回廊をひたすら帰って行こう
  おびただしい犠牲をこの地にこの空に
  強く 射すくめられながら
  なぜ われら人類は
  二〇〇五年のいま 
  われら自身でなければならなかったのか
  それらのすべての原因を
  それらのすべての意味を
  探しに行こう
  どうして どうやって
  ぼくらの最初の邂逅がもたらされたのか
  いつ どんなふうに
  ぼくら最初の共生が生まれたのか
  そのはじめての生命の協力の姿を
  その初めての結婚と生殖の美しい一瞬を
  ずんずんさかのぼって
  時の回廊をさかのぼって 見に行こう
  
  ミトコンドリアの核の中で
  光のエネルギーを
  炭素のエネルギーに変換する力が
  誕生したその日
  極微少な化合物のセルの外部へと
  化学反応がつくった気体を
  一粒の酸素の泡を ぽつりと
  吐き出したそのとき
  ああ それからいっせいに泡が生まれ
  水中に解き放たれ
  次々と水中を立ちのぼって
  水面から差し込む太陽の光と
  ちらちら くるくる きらきら
  幼子のようにたわむれはじめたとき
  きっとそれがぼくらの
  命のはじめ 愛のはじめ
  その原初の光の申し子
  そこに兆していた卵子と精子の邂逅
  ああ ぼくはいま一粒の精子となって
  太古の光の海を
  泳ぐ さまよう そして
  歌う 愛の始まりを
  二〇〇五年のいま
  三十億年前の今日という日の愛を

  
  
        [POEM-『愛と尊厳と』(4)から]