クジラのお腹で
クジラのお腹で考えた
冷たい塩水でぐしょぬれになって
暗黒世界に鼓動がする
坐り込んだ大きな空洞には
ほどよい温度の血が通い
ほとんど眠らんとするそのとき
悲しい人生を振り返る
つらき人生のすべてを
否定しつつそれでもなお
まだ生きたいと願う心のざわめき
そうよ 案ずるなかれ
そう簡単に死にやせぬと
頭の上のオキアミの飛び跳ねるごとく
ひとの世のならいそこにありて
命のすでに果てぬる時
下天のうちを比ぶれば
夢幻のごとくなり この五十年
濁らぬ天は化天か
はたまた化転の日々か
うたた転々 わくら葉なれば
風にまろび 星に打たれて
朽ちてゆくのは命のならい
暗黒はちっとさびしいが
それでも神はわが骨を拾ってくださる
手向けのほどよい熱が
さあいよいよ眠りを誘う
永遠への眠り 従容として
我もまたヨブに倣わん